『世界をかえるために』は前向きで、力強い意志を感じさせる曲。合唱コンクールでも取り上げられることが多いようです。
この記事では歌い方のコツや演奏するときのポイント、練習方法のアドバイスなどを詳しく解説したいと思います。
もくじ
『世界をかえるために』の練習番号について
今回の解説では練習番号を用います。今回参考にしている楽譜にはあらかじめに付されていますので、基本的にはそのまま利用します。
ただし、もう少し場面を区切ったほうが練習しやすいところがあるので、下記の通り練習番号を追加しています。
- 【A’】16小節~
- 【B’】29小節~
練習番号を利用するメリットは大きく次の2点。
1点目は練習をスムーズに進められること。次は「今日は【C】の練習をします!」「【E】の手前から復習しましょう」などといった感じです。
2点目は曲全体の構成の理解に役立つこと。場面ごとの役割や繋がりを理解・把握するための手がかりとなります。
構成を理解することは、緻密な音楽表現をしていく上でとても大切なことです。
『世界をかえるために』歌い方のコツ
それでは練習番号に沿って詳しく解説していきたいと思います。
【冒頭】1小節~
デクレッシェンドで合唱の歌い出しを引き出そう
前奏のピアノパートでポイントとなるのは、6~7小節のクレッシェンド&デクレッシェンドです。
まずクレッシェンドでふくらませ、後半のデクレッシェンドで小さくしていくことで【A】の合唱の歌い出しを導きましょう。
ピアノパートから合唱へ、主役が移り変わるイメージです。
この部分のコード進行について補足しておきます。
6小節目のコードE♭sus4は、「ラ♭」と「シ♭」の音がぶつかっているコードです。
音がぶつかっているというのはストレスが掛かっている状態。あるいは緊張感がある状態とも言えると思います。
この状態でクレッシェンドしていくことで、コードがもともと持っている緊張感がより高まっていきます。
そして7小節目まで来たところで「ラ♭」と「シ♭」の音が離れ、開放されます。
これが和音の解決で、緊張感が解け、デクレッシェンドをより効果的なものにしています。
E♭sus4 → E♭の和音の解決は、この曲で何回か見られます。
【A】8小節~
リズムを粒立ちよくシャッキリ歌おう
『世界をかえるために』の特徴は、歌詩とそれを乗せるメロディーの両方から感じる意志の強さ。
演奏する際にはこの特徴をくっきりと押し出していくことが魅力的な演奏に繋がります。
そのために大切なことの一つがリズムのクリアさです。音の粒一つひとつをやや固めのタッチ(アタック感)でハッキリ、シャッキリ歌いましょう。
アクセント(目立たせて)やマルカート(ゴツゴツと固く歌う)というほどではありませんが、レガート(なめらかに)ではない歌い方のほうがふさわしいと思います。
練習方法として、いったん楽譜の音を無視して全部「ミ♭」の音で歌うことを試してみてほしいと思います。(「ミ♭」はこの曲の調の中心となる音です。)
こうすることで、リズムだけに集中し、音のタッチを確認することができると思います。
別の方法として、リズム読み(音を無視して、リズムだけで歌う方法)も有効です。
歌詩を伝えるポイント【A】
リズムと並んで重要なのが歌詩。歌詩の伝え方については、ポイントを次の3つにしぼって解説したいともいます。
- 母音始まりの言葉でモヤモヤしない
- 細かい音符でも子音をしっかり立てる
- 文としてのつながり・フレーズ感を意識する
1. 母音始まりの言葉でモヤモヤしない
【A】の場面では次のように母音(a, i, u, e, o)で始まる言葉が多くなっています。
- “あいする”の[a]
- “いみと”の[i]
- “いきる”の[i]
母音で始まる言葉は十分に響きが乗りにくいことが多く、そのような歌声は聞いていてモヤモヤした印象になりがちです。
こうなってしまうと、大切なリズムもぼやけてしまいますし、歌詩も伝わりません。
これを避けるために大切なのは歌う手前での準備。この段階で母音を歌う口の形にしておくことです。
今回は直前に休符があるので、この間にしっかり準備をして歌い始めましょう。
準備が不足していると、口を開けながら「ア」と歌い出すことになるので、「ゥワ」のように不要な音が入ってしまいます。
2. 細かい音符でも子音をしっかり立てる
歌詩を伝える上で大切なのが、母音ともう一つ、子音(k, s, t, n, h, mなど)です。
特に語頭の子音は歌詩を伝える上での最重要事項。いくつかピックアップしてみます。
- “このむねに”の[m]
- “といかけてるかい”の[t]
- “ひとりひとり”の[h]
- “てをたずさえれば”の[t]
- “かえられることがきっと”の[k]
特に16分音符のフレーズでは歌詩が埋もれてしまいやすい上、子音自体が入れにくいのですが、何度も練習してできるようになってほしいと思います。
ここでもやはり、全部同じ音「ミ♭」で歌う方法やリズム読みをする方法が有効だと思います。
あるいはテンポを落として、非常にゆっくりと歌ってみるのも良いと思います。
ちなみに、【A】のフレーズはレガートに歌う必要はあまりないため、語頭の箇所の母音に軽いアクセントがついてしまってもそれほど気にならないと思います。(ただし、わざとアクセントにするとやや不自然です。)
3. 文としてのつながり・フレーズ感を意識する
【A】のような語る音楽(Parlando的)の場面は、一つひとつの言葉をクリアに発音するだけでなく、文としてのつながりも意識してほしいと思います。
今回の場合、比較的短い間隔で休符が出てくるフレーズとなっているのですが、ここで毎回文章が途切れるわけではありません。
“あいするいみと”→”いきるいみを”→”ぼくたちは”→”このむねに”→”といかけてるかい?”
と、次の言葉にどんどん繋がっています。
このフレーズ感を表現するためには、文章として繋がるべき場所の休符ではブレスを取らないようにし、4小節をひとまとまりで歌うことを意識してみましょう。
もし難しければ、9小節目の休符でブレスにし、2小節をひとまとまりで歌う方法でもかまいません。ただし、あくまで文としては大きなまとまりになっていることを念頭においておきましょう。
1小節単位でブレスをするのはさすがに短すぎるので、それは避けてください。
12小節からの4小節分も同様に考えることができます。
男声ハミングの広がり
12小節からは、男声はハミングで装飾的なフレーズを担います。
スラーがついているのでなめらかに歌いましょう。シャッキリと歌うメロディーとの対比となります。
ハミングは母音に比べると鳴りにくいのでしっかり響かせることを意識すると良いでしょう。
このフレーズでは、上昇音形(上がっていく音の動き)となっており、これによって音楽の広がりが生まれます。
一方で、音がぶら下がりやすい(上がった先の音に届かない)ことが予想されるので、ピッチにも注意して歌いましょう。
高めに音をイメージして歌うとうまく行きやすくなります。
【A’】16小節~
楽譜には記載ありませんが、16小節を練習番号【A’】とすると練習で役立つと思います。
助走としてのアウフタクト
【A’】からはmfが登場しますが、そこへ向かう助走として機能するのがアウフタクトの”みえる”。3つの4分音符とクレッシェンドとが音楽に広がりをもたらします。
ここについては、細かい歌詩を歌うこれまでの歌い方とは対象的に、たっぷりとしたレガートが良いと思います。
長いクレッシェンドを計算して
17小節目にはcresc.(クレッシェンド/だんだん大きく)が書かれています。見た目は異なりますが、意味的には記号のクレッシェンド(<)と同じです。
ただし、文字で書かれた場合はその影響範囲が長く、内面的(気持ち的な)な高まりも含んでいることが多いです。
実際、本曲でのcresc. も4小節に渡っています。そのため、この長さを十分に計算に入れて盛り上げていく必要があるでしょう。
ポイントとしては、熱い気持ちは秘めつつも、前半部分ではなるべく我慢すること。序盤ですぐに盛り上げてしまうと後でガス欠してしまいます。必要な音量はキープしつつ、後半まで力を溜めておきましょう。
18小節目の3~4拍目でメロディーが上向きになりますので、このあたりからエネルギーを開放していき、ロングトーンに入ります。
また、fが登場する【B】へ繋ぐために、音を伸ばし始めてからのもうひと押しが欲しいところです。20小節目の2拍分でさらに盛り上げられると、クレッシェンドの効果が最大限に発揮できると思います。
もしもロングトーンで音量に差をつけるのが難しければ、19小節目に入ったところで音量を若干落とす工夫もありだと思います。(楽譜に書いていないのであまり極端にならないほうが良いとは思います。)
あわせてピアノパートにも耳の注意を向けておきましょう。特に左手の最低音のラインはじわじわとした盛り上がりに効果を発揮しています。
ロングトーンのポイント
19~20小節にかけてのロングトーンに関して、クレッシェンド以外のポイントをお伝えしておきます。
まずは音を1つにピッタリとそろえること。ソプラノ・アルト・男声全員が同じ「シ♭」を歌っています。ここ一点の集中力を発揮しましょう。
次に、音の切り口も大切。20小節3拍目の休符でスパッと切りましょう。ここで文字通り息をあわせてブレスを取ることで、続く【B】の準備にもなります。
【B】21小節~
アウフタクトは充実した音で
【B】アウフタクトの”この”は、ユニゾンで全員同じ音を歌います。
ここの音を充実させるのはポイントです。「ここから新しい(f系の)音楽が始まるんだ!」という印象を生み出すことができると思います。
音がそろことを意識して、力強く歌いましょう。
短調の響きを感じて
なにげないようですが、25小節では短調的な雰囲気に切り替わります。
調号が切り替わる(=♯や♭の数が変化する)わけではないので、それほど大きなインパクトはないのですが、音楽の流れをつかむためにも知っておきたいポイントです。
【B】に入って最初の4小節(21~24小節)は、雑な言い方をすればイケイケの音楽。それに対し、25小節ではうっすら影のある雰囲気になることを感じていただければと思います。
音量的にも、これまではfで来ていたところを、いったん落ち着いて音楽を作り直すといった作りにするのも良いでしょう。
繰り返しの3回目はf以上の気持ちで
【B】の部分はリピートの関係で繰り返し歌うことになります。
1回目と2回目は歌詩が異なるので、歌詩を伝えることを意識すればそれだけで違いのアピールになると思います。
一方、3回目は1回目と同じ歌詩を歌うことになるため、少々味付けを工夫する余地がありそうです。
具体的には1回目、2回めでのfから、さらに一段階上がった音量(piu fやff)でさらなる盛り上がりを作るイメージです。この部分を曲全体のクライマックス部分とするわけですね。
実際、他の作曲家の場合はffなどと明示する場合もあると思います。
この曲でそうなっていないのは、作曲者である若松歓さんが、おおげさな指示を避けたのではないかと私は考えています。
ソロへの受け渡し
28小節で意識したいのは【B’】のソロへ主役を受け渡すことです。
そのためのポイントが、まずデクレッシェンド。ここで合唱が引いていくことで、ソロを呼び込みます。
なんとなく小さくするデクレッシェンドと、「次に流れを受け渡そう」という意図を持ったデクレッシェンドでは音楽が全く違ってきますので、頭に入れておきましょう。
もう一つのポイントはピアノパートのコード進行を感じること。これは合唱は直接は関係ありませんが、知っておいてほしいと思います。
28小節目では1~3拍目にかけてクレッシェンドしながらテンションを高めていっています。この部分、コード的には長調の和音に解決することを予感させるものとなっています。ですが、実際は4拍目から短調の流れ(G→Cm、部分的にハ短調)に切り替わります。いわば不意打ちのコード進行となっているのですね。
また、この部分にはピアノパートにカンマ(’)が書かれています。ここでコード進行の切り替わりを意識してほしいという意図にも読み取れると思います。
これによって、次のソロのやや切ないメロディーが引き出されるという仕掛けになっているのです。
このサウンドの空気感の変化も感じられると、ソロが歌い出したときに「ハッ」と目の覚めるような表現になると思います。
【B’】29小節~
29小節~【B’】としました。ソロの登場と、1コーラス分の締めくくりの場面です。
ソロのポイント3つ
【B’】の特徴はなんといってもソロ!というわけでポイントを次の3つにしぼって解説してたいと思います。
- 「入り」をクリアに
- メロディーと歌詩を両立させる
- 主役の交代を意識する
1. 「入り」をクリアに
ソロの「入り」である”いつか”は、それほど高くない音から歌い始め、さらに下降音形となります。そのため十分配慮しないと他の音に埋もれてしまう可能性が高いです。
ソロを担当する人は直前のフレーズはお休みしても良いので、しっかり準備して入りに備えましょう。
そして音量的にはmpですが、会場の一番奥まで声が届くような良い発声で歌えると良いと思います。
加えてその他のパート、つまり合唱とピアノパートの人はソロを導き出すように、主役の譲り渡しをしましょう。(【B】の解説で触れたとおりです。)
2. メロディーと歌詩を両立させる
“わかりあえる”のメロディーではオクターブの跳躍が出てきます。
跳躍の幅が広く正確に歌うのは難しい一方で、やはり他にはない良さがあるメロディーです。
音的には上がった先の高い「ミ♭」がぶら下がらにようにすること。先の音をしっかりイメージした上で歌い出すことが大切です。
また、低い方の「ミ♭」は語頭になるので、こちらは歌詩を伝える上で大切です。[wa]という子音と母音を十分に鳴らしてからオクターブ跳躍しましょう。
まとめると、メロディーとしてのポイントは上がった音、歌詩としてのポイントは上る前の音ということになります。
3. 主役の交代を意識する
“せかいに”の後は、ソロのロングトーンに合唱によるハーモニーが重なります。
ソロにもクレッシェンドが書かれていますが、ここでは合唱が音量アップのメイン担当となるというふうに捉えておきましょう。
合唱クレッシェンドしてぐっと前に出ることで主役が交代するという仕組みになっています。ソロの前後での主役の切り替えを意識することで、立体的なサウンドとなります。
ちなみに、ピアノパートの右手の最上声のラインも上昇音形で音楽を盛り上げるのに一役買っています。
4声帯は混声4部合唱の響き
32小節目で男声が2声に分かれ、全体としては4声帯となります。
部分的に混声4部合唱になりますので、より充実した響きを目指しましょう。
この和音を美しく決めるために、次の3ステップで練習してみましょう。
- 同じ音をピッタリとそろえる
- 男声の5度の響きを感じる
- アルトの解決で和音を完成させる
1. 同じ音をピッタリとそろえる
“て”のロングトーンはソプラノとバス(男声↓)がどちらも「ミ♭」で同じ音になっています。
和音を決めるための第一歩として、まずはこの2つの同じ音がピッタリ同じにそろうようにしましょう。
ソプラノのバスは、通常のSATBのオーダー(並び方のこと)では一番離れていますが、お互いの音をよく聴きあうよう意識しましょう。聴きあうことで音がそろい、ハーモニーも豊かになっていきます。
最初はソプラノとバスだけで練習するのがおすすめです。このときはピアノパートはお休みで、アカペラで練習すると良いでしょう。
2. 男声の5度の響きを感じよう
ソプラノとバスの音がそろったら、次はテノール(男声↑)の人も入れて歌ってみます。
テノールとバスの音の関係は完全5度という音程となっています。
完全5度はよくハモっていると「ぼわ~ん」と響きが広がるような印象になります。この特有の響きが和音の骨格となります。(完全5度の言葉の意味は分からなくても大丈夫です。ここでは響きを感じ取ることに注力しましょう。)
男声の2パートがしっかり共鳴してハモるまで、繰り返しお互いの声を聴き合いながら練習してみましょう。
それができたら最後のステップに進みます。
3. アルトが解決して和音を完成させる
完全5度は重厚な響きはあるものの、それだけではどこか空虚で寂しい感じもあるのではないでしょうか。
そこで最後にアルトの人にも加わってもらいます。
アルトはロングトーンに入ってから「ラ♭→ソ」と唯一音が変わるパートとなっています。
「ソ」の音に変わることで和音が解決します。和音が解決するとすっきりとした響きになり、音楽的なまとまりとして区切りがつきます。「ここで一旦終わり」といった印象です。
ここでこれまでと同様、和音の響きに耳を向けてみると、ソプラノ・テノール・バスの3パートだけではなんとなく寂しい響きだったのに対し、アルトが入ることで一気に色彩の豊かさが生まれたように感じられるのではないでしょうか。
このときアルトが担当している音が和音の第3音。第3音は和音の印象をガラッと変える影響力を持っていますが、その分繊細なピッチコントロールが必要となります。
アルトの人はただなんとなく歌うではなく、他の3パートの音・響きをよく感じ取りながら「ラ♭→ソ」と解決してみてください。これが和音を美しく決めるための最後のカギになります。
また、余裕があれば合唱だけでなく、ピアノパートも聴いてみましょう。ピアノパートの内声にもアルトと同じ音が見つかるはずです。
【C】34小節~
歌詩の伝え方【C】
【C】は【A】と対応する場面で、気をつけることも似ています。
やはりこだわってほしいのは歌詩を伝えること。なので、ここでも具体例を出して詳しく解説したいと思います。ポイントを振り返っておきましょう
- 母音始まりの言葉でモヤモヤしない
- 細かい音符でも子音をしっかり立てる
- 文としてのつながり・フレーズ感を意識する
1. 母音始まりの言葉でモヤモヤしない
次の箇所が母音始まりとなります。
- “いみ”の[i]
- “あゆみ”[a]
“いみ”は文の途中なのでやや固めに発音しましょう。なかなか重みのある言葉です。
2. 細かい音符でも子音をしっかり立てよう
- “たたかう”の[t]
- “まもる”の[m]
- “といかけてるかい”の[t]
- “だれかがきずいた”の[d], [k]
- “ながいみちを”の[n], [m]
[n]や[m]の子音では、響きを鼻に集めてハミングのようなイメージで。伝えるのに時間の掛かる子音となっています。
3. 文としてのつながり・フレーズ感
フレーズ感としては【A】と同様に考えればOKです。
“たたかういみと”→”まもるいみを”→”ぼくたちは”→”このむねに”→”といかけてるかい?”
という文章ですね。
2小節ごと、または4小節ごとのブレスで歌いましょう。どちらを選ぶかは自由ですが、メンバー全体で共有して、同じ意識に統一しておくことが大切です。
女声のコードを充実させよう
38小節から主役は男声へ。女声はヴォカリーズ(OhやAhなどのこと)で、主旋律を装飾するフレーズとなります。
最初、ソプラノとアルトは同じ「ド」の音から始まります。ソプラノが「ド→レ→ミ♭」と進むにつれて、アルトとの音の関係が変わっていきます。ここで響きの変化を感じ取りながら歌ってみましょう。じわじわと世界が広がっていくような良さがあると思います。
40小節ではアルトにdiv. (分かれて歌う)があります。女声だけを取り出すとB♭というコードになっています。そこにピアノパートも合わせると、全体でGm7という、テンションを含んだ複雑な和音となっており、なかなかかっこよいところです。
要所でこういった和音が登場するも若松歓さんの作品の良さだと思います。
【D】44小節~
fpのコツ
【D】で目を引く音楽表現は、やはりfp(強く、直ちに弱く)からのクレッシェンドでしょう。
うまく決まれば非常にかっこよいアピールとなります。ポイントを次の3つにまとめました。
- 小さくするタイミング
- クレッシェンドのタイミング
- 最後の1拍の充実感
1. 小さくするタイミング
fpでは大きく歌った後にすぐに小さくしますが、そのタイミングが問題です。
“られる”の”る”まではfで歌い、タイでつながった付点2分音符からpにするイメージでどうでしょうか。
小さくするときには完全に消えてしまわないよう、また、fで歌うべきところまではしっかり大きく歌うこともコツとなります。
2. クレッシェンドのタイミング
その後のクレッシェンドですが、こちらもタイミングが重要。クレッシェンドは基本的に、すぐに大きくするのではなく、後半まで余力をとっておくほうが効果的な表現となります。
音量的な頂点となるのは、次の小節のタイで繋がれた4分音符です。ここを目指して盛り上げましょう。
3. 1拍の充実感
盛り上がりの頂点となるタイで繋がれた4分音符は、楽譜通りの音の長さ、つまりを1拍分をしっかり保ちましょう。
なぜなら、この1拍分の響きの充実感がラストをバシッと締めくくるためにぜひとも必要だからです。
よくあるのが、小節が変わった瞬間に切ってしまうパターン。それだと楽譜よりもかなり短く、ラストを締めくくる印象の強さが不足します。
切るタイミングとしては、2拍目の8分休符に映る直前。この8分休符で取るブレスを合わせることで長さがそろいます。
あわせて、ロングトーンの切際では指揮の振り方も重要。指揮者的にも見せ場となるでしょう。
“そうしんじて”に強い意志を
45小節目の”そうしんじて”は曲中で最も強い意志を感じさせるところです。
歌詩全体を読んで、何を”しんじて”なのか、練習の過程を通じて考えを深めていくことも必要かと思います。
歌い方としては、ただ強いだけでなく、一つひとつの音符が言葉の重みを持つように充実させたいところです。
こってりしすぎても爽やかさが失われててしまうきらいがありそうですが、あまりあっさりしすぎないほうが良いと思います。
ロングトーンは弱くならずに伸ばしきろう
ラストのロングトーンは音量・ピッチ・ハーモニーをキープして、堂々と伸ばし切りましょう。
和音の練習法については【B】の解説を参考にしてください。
ピアノパートの後奏は堂々と
合唱のロングトーンの後はピアノパートが引き継ぎます。
ラストはしっかりとrit.して、堂々と締めくくりましょう。
まとめ:合唱曲『世界をかえるために』歌い方のコツ
『世界をかえるために』の解説でした。
全体としては「意思の強さをどこまで表現できるか」というところにウェイトを置いて練習に取り組んでほしいと思います。
そのためにやるべきことは、音符が細かいところではリズムをクリアに、また歌詩を明瞭に発音できるようにすること。
また、要所要所にある作曲者の工夫を理解しながら練習を進めると、より深い表現ができるのではないかと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
補足が必要な場合は、お問い合わせフォームなどから連絡いただければ対応いたします。