この記事では組曲『IN TERRA PAX』より『知った』(混声三部版)の練習のコツ・演奏のポイントをまとめています。
参考になれば幸いです。
もくじ
『知った』の練習番号
楽譜に練習番号(【A】【B】…)が書かれていない場合は、自分でつけてみることが大切です。また、楽譜に小節数が書かれていない場合は、このタイミングで書き込んでおくと便利です。
曲全体の構成の見通しが良くなり、練習する際の指示出しもスムーズになります。
今回は以下の通りつけてました。
- 【A】…1小節 Adagio
- 【A’】…6小節 “それは”
- 【B】…14小節 Allegro molto
- 【B’】…29小節 “うばわれ” “ちちを”
- 【C】…35小節 “ベトナムの”
- 【C’】…41小節 “くちもとから”
- 【D】…50小節 “かえせ”
- 【D’】…63小節 “おまえは”
- 【E】…70小節 “しゅんかん”
- 【F】…83小節 “そのとき”
- 【G】…86小節 Andante
- 【H】…92小節 “あっ”
『知った』の練習・演奏のポイント
ここからは、先ほどつけた練習番号に沿って解説していきます。
【A】…1小節 Adagio
【A】は大変緊張感のある場面です。子音をしっかり立てて、ささやくように歌うと、そういった雰囲気が出てきます。
次に”しらない”と言い続ける男声パートに注目です。
次のようにだんだんと音が上昇していきます。
「ド~レ」→「レ~ミ♭」→「ミ♭~ファ」→「ファ~ソ」→「ソ~ラ♭」→「ラ♭~シ♭」→「シ♭~ド」
音域が上昇していくに従って、緊張感が高まっていくようなフレーズになっています。これは混声四部バージョンの『知った』にはない工夫です。
もう一つ、混声四部バージョンと異なる点が、ソプラノのハミングです。「ソ」の音で伸ばし続けますが、ここにアルトのメロディーが「まとまわりつく」ことで、ぶつかるハーモニーが生まれ、これまた緊張感が生まれます。
混声四部バージョンでは、ソプラノとアルトによるメロディーの掛け合いで進みます。(男声は休み)
また、6連符のメロディーはタイミングを取るのが難しいですが、しっかりそろえることが大切です。楽譜をよく見て、どこが表拍なのか、裏拍なのかを見極めましょう。
表拍ではピアノパートのタイミングとそろいますので、それを意識すると分かりやすいです。
例を以下に示します。
- “たろうは”
- “しらない”
- “せんそうを”
- “しらない”
- “そのおそろしさを”
- “しらない”
- “むごたらしさを”
- “しらない”
※下線部が表拍でピアノとそろう
“その”や”むご”が裏拍で歌い出す歌詞になります。
【A’】…6小節 “それは”
【A’】では、ソプラノがメロディー、アルトと男声は伴奏の役割です。
“m”のテヌートには、若干の音の入りを硬質に、はっきり目に歌いましょう。アクセントではないので、きつくなりすぎないように。メロディーを邪魔しない程度で。
この部分は混声四部バージョンでは、”m” が “Om”となっており、さらにmfpの記号が付けられています。音の立ち上がりをより強調するような指示になっているのですね。
加えて、伴奏役のパートはハーモニーの移り変わりにも意識を向けてみましょう。
特に♭などの臨時記号がついたときに、どのように「色」が変わるのか感じてみてください。
一方、ソプラノのメロディーはスラーの流れを大切にしながら、同時に言葉も伝える必要があります。
sやtなどの子音は言葉を伝える上で不可欠ですが、それが母音の流れを阻害しないように気をつけましょう。
母音だけで歌う(「おえあ~いいあおうおいう~(それはちちやそふのしる)」)のも効果的な練習方法です。
【B】…14小節 Allegro molto
ここからはかなり激しい場面になります。
ソプラノのテヌートがついたメロディーは一つひとつの音をしっかりと。少しアクセントがつくようなイメージでも良いでしょう。ただし、音を短く切らないように。テヌートの意味としては、「音の長さを保って」と言われますが、「音の”存在感”を保つ」というふうに少し意味を拡大して捉えると良い表現になることが多いです。
【B】では、3パートのメロディーがそれぞれ掛け合うような場面となっていますが、このように複数のメロディーが絡み合いながら進む音楽を、ポリフォニーと言います。
ポリフォニーでは、メロディーそれぞれが独立した存在感を持ちながら、美しく絡み合うのが理想です。
後から入るパートは「入ったよ」ということが分かるように少し主張すると、メロディーの絡みがクリアになりやすいです。
【B】の場面では、メインとなるべきメロディーにはテヌートが書かれており、背景となるパートにはスラーが書かれていたり、強弱で差がつけられています。さらに、26小節で出てくる3連符系のリズムにはアクセントが登場します。
これらをしっかり歌い分けることがまずは大切。加えて、ただ単に記号の通り歌うのではなく、それらが合わさったときにどんな音楽が出来上がるのかをイメージすることがもっと大事です。
【B】の場面は、いろいろなアーティキュレーションがごちゃまぜになっていて、カオスな雰囲気となっています。
【B’】…29小節 “うばわれ” “ちちを”
【B】に引き続き、メロディーどうしの絡み・役割やアーティキュレーションに気をつけて進めましょう。
31小節からはクレッシェンドしていき、34小節のffに向かいます。クレッシェンドに関しても、書いてあるからやるというよりは、目標を見定めて大きくしていくのが大切です。
34小節のロングトーンは、G(ソシレ)のハーモニー。これまでバラバラになっていた3パートのタテがそろう決め所です。
このようにハーモニーが大事なところではアカペラ(ピアノなし)で歌うと効果的な練習になります。
【C】…35小節 “ベトナムの”
【B】が3パートによる掛け合いだったのに対し、【C】では女声&男声の掛け合いになります。女声だけ、男声だけを取り出して練習するのが効率的です。
【C’】…41小節 “くちもとから”
“くちもとから きこえるのは”はユニゾンで、全パートが同じ音を歌います。そのため、歌詞の持つメッセージ性がよりいっそう高まるところです。
“さけび”からは一転ハーモニーとなり、Am(ラドミ)とB♭m(シ♭レ♭ファ)が交互に現れます。男声はdiv.があり大変ですが、これによっていっそうハーモニーに厚みが生まれますので、しっかり歌いたい音です。ここもぜひアカペラで、しかもテンポを落として練習してみましょう。ハーモニーをより味わえます。
また、ここでは8分休符も大事。ここをカチッとそろえるとリズムの緊張感が活きてきます。
【D】…50小節 “かえせ”
女声の”かえせ”はまず子音が大事。これによってリズムの緊張感が生まれますし、pになっても歌詞が伝わります。
ですが、ただ単にkやsを飛ばすだけだと軽い感じになってしまいます。ささやくような声(ひそひそ声)で歌うとpの中での迫力が出るかもしれません。
逆に言えば、音量が小さくなったからと言って、勢いや迫力を失わないようにすることが大切です。
【D’】…63小節 “おまえは”
“おまえは おまえの くに”までユニゾン。難しいところばかりが気になってしまいそうですが、音楽的にはむしろこういったシンプルなユニゾンの箇所にも注目したいところです。
このユニゾンでは、執念・強い恨みの気持ちが表現できると良さそうな箇所。楽譜上はそういった気持ちはテヌートによって書かれています。
66小節の”へ”で一気にハモる(G:ソシレ)のも聞かせどころです。
fpは、fをしっかり鳴らす時間を作ってやると効果的です。(fの時間が一瞬過ぎると何が起こったのか聞いている人に伝わらないが多いため。)
【E】…70小節 “しゅんかん”
まずは”しゅんかん”を集中して合わせましょう。指揮の動きも工夫できるとよさそうです。
その後は再びポリフォニーです。いくつかの言葉・音型が多発的に現れて、ここもカオスっぽい雰囲気です。
それが次第に”よせ やめろ”、そして”ああ”という興奮・高ぶりに焦点を結ぶような構造となっています。
【F】…83小節 “そのとき”
TempoⅠと戻ります。16分音符などのメロディーは急いでしまいやすいので注意して。言葉を噛みしめるように歌いましょう。
フェルマータは、なるべく次に進むのを我慢し、しっかりとした「間」を作れると、玄人っぽい演奏になります。
【G】…86小節 Andante
ここからしばらく女声合唱となります。div.があり大変ですが、大変ハーモニーが美しいところ。
ppは単純に音量が小さいだけでなく、メロディーのながれを柔らかく、美しく。また、情景もイメージしながら歌うとよいでしょう(太陽のきらめき、空の高さ・広さ・青さ、ジェット機の白さなど)。♭が入るハーモニーに「色」の変化を感じてみても良いですね。
【H】…92小節 “あっ”
“あっ”の言い方は演技力が必要。歌というよりもセリフのようなイメージを持っても良いでしょう。
ラストのロングトーンは、切り口のタイミングがズバッとそろうようによく練習しておきたい場面です。