楽譜の読み方

【入門】合唱曲のアナリーゼ(楽曲分析)|やり方・ポイント【書き方の具体例あり】

アナリーゼ
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男の子
男の子
アナリーゼをした方がいいって聞くけど…。アナリーゼって一体なんだろう?何をすればよいのか分からないな。やり方を教えて下さい。

こんな疑問に答えます。

アナリーゼとは楽曲分析のことです。音楽づくりをしていく上で非常に大切です。

この記事ではアナリーゼの意味と目的、具体的な観点と考え方を解説しています。

合唱歴10年以上、指揮者歴5年以上の経験をもとにまとめました。

「今までアナリーゼなんてしたこと無かった!」という方はぜひ取り入れてみてください。

普段の練習や本番の演奏のクオリティが1段も2段もアップするはずです。

実際にアナリーゼを行った書き込み例も載せていますので、参考にしていただければと思います。

【入門】アナリーゼ(楽曲分析)とは|意味と目的

まずは「アナリーゼなんてあまり聞いたことが無いな」という方に向けて、詳しく解説します。

アナリーゼの意味

アナリーゼ、日本語では楽曲分析という意味です。

つまり楽譜を見たり、曲を聞いたりしていろいろと分析することです。

これがなぜ大切なのかと言うと、音楽づくりをしていく上での手がかりとなるからです。

普段は自分のカンに任せて指導をしている、という方もいらっしゃると思います。

これを機に楽譜をしっかりと読み込んで音楽づくりに繋げてみましょう。

男の子
男の子
何をどう分析すればよいのか分からないんですけど!
えすた@指揮者
えすた@指揮者
記事の後半で具体的な観点と考え方を解説するのでご安心ください。

アナリーゼの目的

アナリーゼをする目的とはなんでしょうか。

先ほどは「音楽づくりをしていく上での手がかり」と言いましたが、もう少し具体的な内容に落とし込んでみます。

【アナリーゼの目的】

  1. 指揮を振るための準備
  2. 練習の組み立て
  3. 構成感を考える【難】
  4. 作曲家の意図を汲み取る【難】
3, 4ではかなり難しい内容に踏み込みました。「あまりピンと来ないな…」という場合は読み飛ばして、その次のトピックに進んでいただいて大丈夫です。

目的1.指揮を振るための準備

指揮をするためには「どんなふうに振るか」を決めなければいけません。

例えば次のようなことが挙げられます。

  • 何拍子で振るか
  • テンポの変化をどれくらいつけるか
  • 強弱の指示をどうやって表現するか

アナリーゼを行った結果を根拠にし、これらのことを決めていきます。

目的2.練習の組み立て

本番に向けた練習が大切であることはご承知の通りだと思います。

アナリーゼはこの点においても役立ちます。

  • 取りにくい音(跳躍、臨時記号など)
  • メロディーの掛け合い(タイミング、バランスなど)
  • 伝えたい言葉(母音、子音、アクセントなど)
  • ハーモ二―(和音の種類、第〇音など)

これらを事前にチェックしておくことでスムーズかつ効率的な練習に繋がります。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
「難しそうな部分は重点的に練習しよう!」といった見通しも立ちますね。

目的3.構成を考える【難】

音楽の構成を考えることは良い演奏(構成感のある演奏)をする上で重要です。

構成と聞いてもイメージが湧きにくいかもしれません。例えば次のようなことです。

  • どこでクライマックスを作り、そこまでどう持って行くか
  • 一番静かな場面はどこか、その場面の意味合い
  • 曲全体を通して何をアピールするのか
  • 強弱やテンポの関連性・整合性

ここをおろそかにすると、行き当たりばったりで主張のない、芯のない演奏になってしまいます。

何がやりたいのか分からない、印象に残らない演奏と言っても良いでしょう。

ちょっと難しいのですが、ここができていない演奏が多い気がするので触れておきました。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
重要なことですので、今は分からなくても頭の片隅に置いておいてください。

目的4.作曲家の意図を汲み取る【難】

楽譜を分析していく際、ぜひ心に留めておいて欲しいのは「作曲者の意図を汲み取る」ということです。

演奏する上で、楽譜に書かれている記号を守ることは大切です。

ですが記号の表面的な意味だけをこなすだけでは十分とは言えません。

  • fが書いてあるから(なんとなく)大きく歌おう
  • rit.が書いてあるから(なんとなく)テンポを落とそう

このように(なんとなく)となってしまっているのは問題アリです。

そうではなく、「fが書いてあるな。作曲者はどんな場面にして欲しいのかな」などと考え、意志・ビジョンを持って練習や演奏に取り組んで欲しいと思います。

男の子
男の子
そんなこと言われても、記号をこなすだけで精一杯です…。

とは言うものの、こういったことを考えるのはなかなか難しいですよね。

最初はそれでも構いません。「とりあえずやってみる」ことも練習を進めるためには必要です。

ですが本番に向けて曲を作り込んでいく段階まで来たときには、少し深いところまで考えられると良い音楽づくりに繋がります。

その意味ではアナリーゼは練習の初期だけでなく、練習期間を通じて取り組むのが良いかもしれません。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
継続して曲に触れているうちに見えてくることもあると思います。

【7つのポイント】合唱曲のアナリーゼのやり方

ここからはアナリーゼをする際に、「どういう部分を見るのか」「どのように考えるのか」を解説します。

私自身は合唱経験が長いので合唱曲のアナリーゼをイメージして書いていますが、それ以外の音楽でも応用できる内容となっているはずです。

  1. 練習番号をつけて構成感を把握
  2. メロディーの歌い出しと歌詩をチェック
  3. リズム・拍子の把握、図形の決定
  4. テンポの変化をチェック
  5. 強弱(クライマックス、ミニマム)のチェック
  6. 和音・和声の分析
  7. 調の変化(調のイメージ、転調)
えすた@指揮者
えすた@指揮者
ここで挙げたことがすべてではないのですが、このあたりから始めると分かりやすいと思います。

ポイント1.練習番号をつけて構成感を把握

アナリーゼで最初にするべきことは、「練習番号をつけること」です。

曲の場面ごとにアルファベット(A, B, C…)や数字(1,2,3…)で区切っていきます。

これによって曲の構成を整理することができ、フレーズどうし・場面どうしの対応関係が浮かび上がってきます。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
楽譜によってはあらかじめ練習番号がつけられていることも多いですね。

また、練習番号をつけることはプレイヤーに「次に練習したい場所」を的確に伝えることにも役立ちます。

  • 次はAから始めます!
  • Bのアウフタクトはちょっと溜めて振ります!

といった感じです。

これはアナリーゼの目的2.「練習の組み立て」に関連していますね。

プレイヤーに練習箇所を的確に伝えられると、効率的な練習に繋がります。こちらの記事(【5ステップ】質の高いパート練習の進め方|PL経験者のノウハウ公開)も合わせてご覧ください。

ポイント2.メロディーの歌い出しと歌詩をチェック

メロディーの歌い出しは印をつけるなどしてチェックしておきましょう。

  • tutti(トゥッティ/全員で歌う)的な部分
  • 掛け合い(ポリフォニー)となっている部分

が分かりやすくなります。

tutti的な部分はタテをしっかり合わせ、ハーモニーに対する意識を高める必要が出てきます。

掛け合いの部分では歌い出しのタイミング気をつけるべきですし、指揮者としては次に歌い出すパートに対するキュー出しも重要です。

キュー出しについてはこちらの記事(【現役指揮者が教える】右手・左手の役割|具体的な使い分け方法を解説)でも触れています。

ポイント3.リズム・拍子の把握、図形の決定

リズムや拍子を把握しておくのも重要です。

  • リズムが複雑なところ
  • 拍子が変わるところ(変拍子など)

はチェックしておきましょう。

指揮者としては図形を決めるためにもリズム・拍子の把握は欠かせません。

図形…指揮を振る軌道のこと(3拍子図形、4拍子図形など)

基本的に3拍子の曲なら3拍子図形、4拍子の曲なら4拍子図形で振れば大丈夫です。

ただし、曲によっては次のようなことを考慮して臨機応変に対応する必要もあります。

  • テンポ設定
  • 言葉のフレーズ感
  • 複雑な拍子(例:3+2+3/8)
えすた@指揮者
えすた@指揮者
振り方の工夫も指揮者の腕の見せどころです。

例えば3拍子の曲は通常3拍子図形で振ります。ですがある程度テンポが速ければ1つ振り(ワルツ打法)も選択できます。

他の例として、4拍子図形だとどうしても言葉のフレーズ感が縦割りになってしまうな、ということがあります。そういった場合は平均運動の2拍子図形を分割して振るようなこともあります。

ポイント4.テンポの変化をチェック

テンポの変化も要チェックです。

指揮者としてはどう振るかも大事ですし、練習・リハーサルでプレイヤーとよく呼吸を合わせておかないと本番で失敗してしまいます。

次のようなことがポイントとなります。

  • どこからどのくらい遅くするか・速くするか
  • どう振るか(分割の有り無し)

プレイヤー側としても、「ここでテンポが変わるな」と知っておけばそこで指揮をしっかり見ないといけない、ということが分かります。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
場合によっては「ここは指揮を見る!」マークなどを書き込むと良いでしょう。

ポイント5.強弱(クライマックス、ミニマム)のチェック

強弱も要チェックです。

fpの記号を見ておくだけなら分かりやすそうですが、長い曲の場合は整合性も考えておく必要があります。

整合性というのは、例えば曲の前半と後半でフォルテが出てきた場合、

  • 同じ音量でよいのか
  • 違いをつけるのか

などのことです。説得力のある演奏にするにはこれらをしっかり考える必要があります。

また次のような音量記号が出てくるときもあります。

  • pp(ピアニッシモ/とても弱く)
  • ff(フォルティッシモ/とても強く)
  • meno f(メノ フォルテ/フォルテより弱く)
  • piu p(ピウ ピアノ/よりいっそう小さく)

音量をより詳細に指定している記号ですが、これらをあえて使ってある場合、そこには作曲家の特別な意図があるはずです。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
詳細な音量記号が出てきたときには深読みの余地ありです。

ポイント6.和音、和声の分析

音楽においてはハーモニーも大切です。

和音の構成音を調べておくことは練習の際にハーモニーを整える手がかりとなります。

どのパートが根音・第3音・第5音を歌うのかを調べておけると良いと思います。

また和声(和音の繋がり)はフレージングの根拠になりますので、勉強してみる価値があると思います。

ポイント7.調の変化(調のイメージ、転調)

調の変化は構成感を把握するために重要です。

和音・和声と重なる部分もあるのですが、転調部分は曲の展開がダイナミックに変化する場所なので別に取り上げました。

調が変わることによって音楽のイメージや色が変わります。

それを踏まえてどう演奏に生かすかを考えましょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
作曲家は調のイメージを明確に使い分けているはずです。
実際の曲の調・転調を考察した例を見たい方はこちらの記事(『時の旅人』の調・転調・コード進行を考察【曲をより深く理解する】)をどうぞ。

アナリーゼを実践|書き方の具体例を紹介

ここからは実際の楽譜を使ってアナリーゼの方法を解説します。

【題材】『故郷(ふるさと)』

作詞:高野辰之

作曲:岡野貞一

編曲:えすた

えすた@指揮者
えすた@指揮者
おなじみの曲だと思います。題材用に私が編曲しました。

練習番号はすでにつけてあります。

  • どうしてそこに練習番号をついているのか
  • 場面ごとの関係性

を考えると、構成感を掴む訓練になります。

各フレーズで3つずつのポイントに絞って解説します。

練習番号A(前半):「呼びかけ」のフレーズ

ふるさと(アナリーゼ用)-1

Aの場面は全体の基本となるフレーズとなっています。

最初の4小節は続く4小節に対する「呼びかけ」となっています。

A-①.3拍子図形の平均運動

3拍子の曲なのでそのまま3拍子図形を選択します。

全体的にレガートな表情なので、平均運動~浅いしゃくいで振るとマッチします。

A-②.最初の2小節はユニゾン

最初の2小節は全パートが同じ音を歌っています。ユニゾンですね。

「音をぴったりと揃えなければいけない」ことが分かります。

A-③.4小節単位でのブレス

4小節目の終わりにブレス記号があります。

このことから「フレーズを4小節単位で捉えると良さそうだな」と分かります。

この位置では「指揮者のブレス」を取る必要もあるでしょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
「指揮者のブレス」は次のフレーズに対する「予備運動」に連動します。

練習番号A(後半):「受け答え」のフレーズ

ふるさと(アナリーゼ用)-2

Aの前半4小節に対する「受け答え」のフレーズとなっています。

A-④.男声の音域に注意

男声の音域がやや高いので音量が大きくなってしまいがちな場所に見えます。

ハーモニーのバランスに注意しましょう。

A-⑤.臨時記号に注意

臨時記号がついていますので音取りの際にはピッチに注意が必要です。

ハーモニー的にも面白い部分です。

A-⑥.ロングトーンとG-Dur

このロングトーン3拍分はG-Dur(ト長調)の主和音となっています。しっかり決めたいですね。

【和音の構成】

  • レ(第5音)…アルト
  • シ(第3音)…テノール
  • ソ(第1音/根音)…ソプラノ・バス

ソプラノとバスは同じ音(G音)ですので、ぴったり合わせる練習をすると良さそうです。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
より良くハモるためには「どのパートが第〇音」ということも分かると役立ちます。

練習番号B:対旋律の展開

ふるさと(アナリーゼ用)-3

Bでは男声がメインのメロディー、女声がサブのメロディー(対旋律)を歌います。

B-①.男声がメロディー、音量バランスに注意

Bでは男声がメインのメロディーを歌います。

  • 女声…mp
  • 男声…mf

となっています。

男声が主役となるように音量のバランスに気をつけるべきところです。

B-②.フレージング、掛け合い

女声は男声とは異なる動きをしています。

スラーによってフレーズのまとまりが示されていますので、掛け合いに生かしましょう。

右手と左手を使い分けると上手く振ることができそうです。

B-③.クレッシェンドと続くfに対するブレス

フレーズの終わりにクレッシェンドがあります。

これは次のページのfに向かっているものです。指揮者のブレスも合わせて取ります。

練習番号C(前半):クライマックス部分

ふるさと(アナリーゼ用)-4

Cの前半はfで歌うクライマックス部分となっています。

C-①.tuttif

Bでは女声と男声が別々の動きをしていましたが、ここで合流します。

音量もfとなっており、1曲を通してここが盛り上がる場所です。

C-②.テノールの動き

細かいですが、内声のテノールが和音の中で動きます。

ちょっとした聞かせ所となっています。

C-③.続くpに対するブレス

デクレッシェンドがあり、続くフレーズはpとなっています。

それに対するブレスが必要ですが、ニュアンスまで意識できると良いと思います。

練習番号C(後半):クライマックス部分のリフレイン

ふるさと(アナリーゼ用)-5

Cの後半は前半のfのリフレインとなっています。

C-④.全体で一番静かな場面

この部分の音量はpです。

アルト、テノール、バスはハミングで歌うこともあり、曲全体を通して一番静かな部分となっています。

このようなことを把握しておくと構成感のある音楽づくりができるようになります。

C-⑤.字のクレッシェンドに注意

cresc.はクレッシェンド、だんだん強くですね。

松葉の記号で書かれている場合と違って見逃しやすいので、分かりやすく書き込んでおくのも良いと思います。

C-⑥.一体感を持ったmp

cresc.した先にはmpがあります。

ハミングで伸ばしていた3パートが合流して4声によるtuttiとなります。

一体感を持って歌いたい部分です。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
sotto voce(ソット ヴォーチェ/柔らかな声で)で歌うなど、何かしら味付けがあっても良さそうです。

練習番号D:エンディング

ふるさと(アナリーゼ用)-6

曲の最後の部分、エンディングです。結構複雑ですね。

D-①.rit.からフェルマータ

rit.がありますのでテンポを遅くしていきます。

見逃しそうであれば何かしら書き込んでおきましょう。

rit.の先はフェルマータです。テンポが緩んでいますので、たっぷりとした「間」が必要となります。

D-②.コード進行

②の部分は「Cm7(9) → G」という複雑なコード進行になっています。

Cm7(9)を分析してみましょう。

【和音の構成】

  • レ(第9音)…ソプラノ
  • シ♭(第7音)…テノール
  • ソ(第5音)…アルト(ハイ)
  • ミ♭(第3音)…アルト(ロー)
  • ド(第1音/根音)…バス
えすた@指揮者
えすた@指揮者
ソプラノの「レ」が解決先の和音(=G)を予感させます。

D-③.最後はバスに対してキュー出し

最後はバスに対するキュー出しを忘れないようにしましょう。曲の締めくくりとなります。

<>がついています。やや深く「しゃくい」の動きで示すのが良さそうです。

まとめ:合唱曲のアナリーゼ(楽曲分析)|やり方・ポイント

アナリーゼでチェックしておくべきポイントを再びまとめておきます。

  1. 練習番号をつけて構成感を把握
  2. メロディーの歌い出しと歌詩をチェック
  3. リズム・拍子の把握、図形の決定
  4. テンポの変化をチェック
  5. 強弱(クライマックス、ミニマム)のチェック
  6. 和音・和声の分析
  7. 調の変化(調のイメージ、転調)
えすた@指揮者
えすた@指揮者
アナリーゼを音楽づくりに役立てましょう。

その他、楽譜の読み方に関しては【詳説】楽譜の読み方完全ガイド【初心者~上級者まで必見】でまとめていますので、あわせてご覧ください。

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