リクエストいただいた方へ
メールにてお引き受けする旨返信しましたが、エラーで送信できなかったため、こちらにて返信と代えさせていただきます。
弊ウェブサイトをご利用いただき、ありがとうございます。大変励みになります。
記事を作成いたしました。ご利用いただけますと幸いです。
分かりにくいところ、疑問点がありましたら、お問い合わせから連絡いただければ補足・追記いたします。
以上、よろしくお願い致します。
(2023/08/27追記)
- 「聴いてる人の心を鷲掴みするような合唱
」を作るためのポイント - この曲に効果的な練習法等
を追記しました。
(2024/05/16追記)
リクエストいただいた方からメッセージを頂きました!
昨年、「空駆ける天馬」の解説ページ作成を依頼した者です。
ご対応頂き有難うございました。分かりやすく、指導しやすかったです。
えすた様のページのお陰で、校内コンクールで金賞・最優秀伴奏者賞を受賞することができました。有難うございました
とのこと。記事の内容が役立ったようで何より嬉しく思います。
この度はありがとうございました。またご利用くださいませ。
『空駆ける天馬』は力強い疾走感が魅力。長年親しまれている愛唱曲的な作品でもあります。
この記事では練習・演奏する上でのポイントやコツを詳しく解説しています。
また、聞いている人の心をつかむアピールポイントについても書いています。
ぜひ最後までご覧ください。
『空駆ける天馬』の練習番号について
練習に取り組む前に、以下のような練習番号をつけておきましょう。
- 【冒頭】1小節 前奏
- 【A-1】6小節 “ぎんの”
- 【A-2】14小節 “くものみね”
- 【A-3】25小節 “かぜさえのけぞる”
- 【A-4】31小節 “ぎんの”
- 【A-4】39小節 間奏
- 【B-1】47小節 “ちのこえを”
- 【B-2】55小節 “ちのこえを”
- 【B-3】60小節 “ア”
- 【C-1】65小節 “アンドロメダを”
- 【C-2】71小節 “アンドロメダを”
- 【C-3】79小節 “アンドロメダを”
- 【D-1】88小節 “アンドロメダを”
- 【D-2】94小節 “アンドロメダを”
- 【E】101小節 “ぎんの”
練習番号をつけるために曲を分析した結果、【A】~【E】の大きなまとまりに分けられました。
さらにその中で、より小さなフレーズのまとまりや繰り返しの回数が分かりやすいよう【A-1】などと枝番を付しました。
練習番号をつけることで、練習する箇所の指示がしやすくなったり、曲全体の構成が分かりやすくなるメリットがあります。
今回の『空駆ける天馬』は様々な場面が登場します。それらを整理・理解するためにも練習番号はぜひ利用してほしいと思います。特に【C】の場面では繰り返しすフレーズの見通しがかなり良くなるはずです。
このように練習番号をつけた理由・根拠は本文にて触れています。
『空駆ける天馬』練習・演奏のポイント
【冒頭】疾走感を持って
『空駆ける天馬』は疾走感、スピード感が魅力の作品。
その雰囲気を生み出すのに大きく寄与しているのがピアノパートです。
右手の8分音符と、左手のシンコペーション(付点のリズム)およびアクセントをうまく利用しましょう。
アクセントをしっかり効かせ、右手の8分音符の連打にも緊迫感を持たせて厳しく弾くことで、聞いている人を『空駆ける天馬』の疾走感に引き込めます。
できる範囲でテンポを速くするのも一つの手かもしれません。
【A-1】ユニゾンのポイント
【A-1】でのフレーズはソプラノ・アルト・男声がみんな同じメロディーを歌うユニゾンとなっています。
みんな同じなので、メンバー全員の音程やリズムがピタッとそろっていることが大切です。
リズムに関しては、まず速いテンポに遅れないこと。とくに”つばさを”や”よぞらを”など、8分休符+8分音符になっているところの食いつきには要注意です。
また、伸ばす音符の切り際も大切。例えば13小節は3拍分しっかり伸ばすといったことです。
“ぎんの”や”つばさを”の4分音符は本来は1拍分の長さがありますが、音源を聞くと短めに歌われることが多いようです。楽譜通りにするか、演奏に習うかは選択の余地がありますが、重要なのはメンバー全員で意識が統一されていることです。どっちつかずにはならないようにしましょう。
【冒頭】でピアノパートが作った疾走感・緊迫感を失わないように、集中して入りましょう。
合唱に関しては休符を守ることも大事です。音のない時間を作ることでそれが緊迫感に繋がります。
音符の長さ、ブレス(息継ぎ)のタイミングをそろえることを意識して練習してみましょう。
【A-2】和音の変化はアルトが要
【A-2】はかなり劇的な展開となります。
18小節の”ごらん”はmpと小さく入り、”かけてゆく”でmf、”はくぎんの”でfと盛り上げていきます。アクセントもありますね。
また、和音進行もダイナミックです。この要になっているのはアルト。20~23小節にかけて「ラ → ラ♯ → シ」と半音ずつ上がっていき、これによって和音が移り変わっていくのです。もちろん他のパートの音も大切です。基本的にピアノパートが同じ音を弾いているのでそれもよく聴きながら歌いましょう。
23小節のロングトーンに入ってからはデクレシェンド&クレッシェンドがあります。いったん小さくしてから再び盛り上げますが、ピアノパートの8分音符をタイミングの目安にしてクレッシェンドすると良いと思います。
23小節目のデクレッシェンド&クレッシェンドは大きな見せ場。
思い切って強弱をつけることで効果的なアピールとなります。
クレッシェンドやデクレッシェンドは一人ひとりがバラバラにするのではなく、メンバーどうしで足並みをそろえることも大切です。それも意識して練習しましょう。
【A-3】強弱と歌詩を関連づけて表現しよう
27小節のmpは聴かせどころ。ここで音量をぐっと抑えることで聴いている人を引き付ける効果が得られると思います。
“しずまりかえる”という歌詩に対応していることを頭において、”しずまり”のs子音(「シーッ」というときの音)も少し強調してみましょう。
音量を小さくするところも聴衆をひきつけるポイントになります。
中途半端にならず、思い切って落差をつけてみてください。
27小節をヒソヒソ声で歌うような練習をしても良いと思います。
【A-4】最初のまとまりを締めくくろう
【A-4】は【A-1】に対応するフレーズ。ここまでで【A】の大きなまとまりとなります。
【A】だけでも1つの曲となるような充実した内容でした。fで歌い上げることでいったん締めくくります。
【A】をしっかり締めくくるためには音の切り際も大事。
“てんま”と伸ばす2分音符の切り口をズバッとそろえる練習をしましょう。
3拍目に入るギリギリまで伸ばすのがポイントです。
【A-5】次の音楽を予感させて
この間奏は【A】~【B】のつなぎとなっています。
43小節のrit. 、45小節のフェルマータは【B】の場面のテンポ感を予感させるように弾きます。
【B-1】静かなコラール風の場面
【A】と比べるとテンポがかなりゆっくりになります。
テンポが変わるのは46小節からですが、練習のしやすさを考えて47小節を【B-1】としました。
【B】は全体的にコラール風となっています。”ちのこえ”、”てんのこえ”という歌詩から、祈りを感じさせるようなスタイルが採られているのかもしれません。
【B-1】はピアノパートに乗せて男声、女声の順でメロディーが歌われます。男声は少し音域が高いのですが、苦しそうにならず、リラックスして丁寧に歌いましょう。
53~54小節は合唱のハーモニーが非常に豊かなフレーズです。お互いの声をよく聴き合って、声を溶け合わせるようにすると、充実した響きになっていきます。
【B】はなんといってもハーモニーが聞かせどころ。
こういうところはピアノパート無しで、アカペラで練習するのが何より効果的です。
自分の声だけに集中するのではなく、周りの声を聴き、響きを溶け合わせるようにしましょう。
【B-2】連続する転調に注意
ここから転調が連続します。55小節、57小節がそうです。
難しいのは男声の入りの音。次の音をしっかりイメージし、よく狙って歌い出しましょう。
転調はそれだけでアピールになりますから、それをどれだけクリアに歌えるかが問題です。
いつもよりピッチ(音程)の精度に厳しく繊細に、集中して練習しましょう。
【B-3】宇宙の神秘を感じさせる表現で
ここではディミニッシュ(「ソ♯・シ・レ・ファ」)という種類の和音が使われています。不気味さをはらむ響きを持っており、ピアノパートのアルペジオとあわせると、宇宙の神秘が感じられるようです。
ヴォカリーズ”ア”によるクレッシェンド&デクレッシェンドには、まるで銀河の膨張・収縮のようなイメージも湧きます。
mf → mp → p → pp と、宇宙の彼方・深淵へと去っていくかのように【B】の場面を収めます。
詩や音楽をどう読むか、感じるかは人それぞれですが、何らかのイメージを持って歌ってみてください。こちらの記事(合唱曲『空 ~ぼくらの第2章~』演奏のポイント|メッセージを伝える歌い方)も参考になると思います。
ミステリアスさを出すために、”ア”の音色(おんしょく/声の質)を工夫しても良いと思います。
あまり明るい”ア”の母音だと雰囲気が出ませんので、口を大きく開けすぎず、曖昧な母音を試してみてください。
【C-1】テンポと強弱にメリハリをつけて
【C】から再び快速なテンポとなります。【A】と比べるとさらにテンポアップしていることに注目。しっかり差をつけましょう。
また、2小節ずつで強弱も切り替わります。この差もメリハリを付ける上で大切です。
繰り返しになりますが、テンポと強弱のメリハリがここでは大切。
違いが曖昧にならないようにしましょう。中途半端な表現が一番いけません。
【C-2】和音の解決を意識して
【C-2】は【C-1】の繰り返しではありますが、微妙に強弱の指示が違うので注意が必要です。
また、77~78小節に関しては和音の解決を意識しましょう。
77小節ではソプラノとアルトの音が隣り合っており、ぶつかっています。不協和音というものです。
78小節に入るとアルトの音が下がり、ソプラノの音とハモるようになります。これが和音の解決です。
不協和(緊張)→協和(解決)という和音の力学を知っておくと、和音を美しく決めることができます。
78小節は混声四部合唱の重厚な響きをぜひ聞かせたいところ。
前述のようにアルトがまずポイント。そして重厚さに寄与するのが一番低い音を担当するベースパートです。
この低い「ミ」の音がしっかり鳴らすと、テナーの音と響き合って迫力が出ます。
やはりアカペラで練習したり、男声だけで歌ってみて響きを確かめる方法も良いでしょう。
【C-3】掛け合いはs子音でアピール
83~85小節にかけては掛け合いのフレーズになります。
ここで”スワンの”の”ス”に◯印をつけてみましょう。自分のパートだけでなく、他のパートもすべてです。そうすると”スワンの”という歌詩が全部で5回出てくることが分かります。このように歌詩をずれて歌うのが掛け合いです。
掛け合いでのポイントは以下の通り。
- タイミング…前のパートを聴いて
- 音量…前のパートより大きめに入って主張
- 子音…sの子音で入ったことをアピール
掛け合いの場面はどうしてもあとに入るパートが聞こえにくくなります。そこでs子音でうまくアピールすると、次々に新しいパートが登場することがしっかり伝わります。
“スワンの”と畳み掛けるように入ることで、さらなる疾走感の表現になります。
【D-1】転調によるさらなる過熱感
ここから【D】の場面です。”アンドロメダを”のフレーズをさらに繰り返しますが、ここで実は転調していますので、練習番号を変えました。
【C】ではイ短調、【D】はニ短調になっています。調号が変わっていないようですが、92小節、96小節で「シ」に♭がつけられていることから分かります。
これによって全体の音域がかなり上がります。”アンドロメダ”のメロディーを見ると「ラ」→「レ」になっていますね。
この転調とffの音量によってさらなる過熱感・加速感が表現されます。
転調で音が高まるだけでかなりのアピールになります。
ffで長いフレーズを歌いきれるようなペース配分も考えられると良いかもしれません。
【D-2】時空がねじれるような和音進行
ぜひとも押さえたいのが98~100小節の和音進行です。コードネームでは「A7 → D♯7 → B7」となります。
特に印象的なのは「A7 → D♯7」。98~99小節。ここで和音がすごく遠く離れた世界に行ってしまうというか、まるで時空がねじれるような、あえて言えば違和感を感じるのではないでしょうか。
決まればかなりの聴かせどころになるフレーズですが、その分難しいです。
まずは各パートの音をしっかりと取ること。また勢いに任せず、一つひとつの響きを確認しながら進めることが大切です。ピアノパートはお休みにして、テンポをゆっくりにして練習するのも効果的かと思います。
音が取れてきたらアクセントの表現もできるとより良くなります。
逆に言うと、音がしっかりとれるまではアクセントを無視して、音・和音に集中して練習することも必要です。
それぞれのコードの構成音は次のようになります。
- A7…「ラ・ド♯・ミ・ソ」
- D♯7…「レ♯・ソ・ラ♯・ド♯」
- B7…「シ・レ♯・ファ♯・ラ」
「A7 → D♯7」では「ド♯」「ソ」の2つの音およびその音程関係(増四度、トライトーン)が共通しています。これによってルートが異質な動きをしているにも関わらず和音を繋げられます。いわゆる裏コードです。
D♯7の「ソ」は「ファ♯♯(ダブルシャープ)」として書いたほうが分かりやすいですが、楽譜では共通する音を明示する意味で「ソ」で書かれています。
「D♯7 → B7」では「レ♯」の音が共通しています。この音をソプラノが伸ばし、他のパートが変わることで和音が変化するのが面白いところです。
【E】に入り、「B7 → Em」とすっきり解決します。
【E】最後まで音量をキープして走りきろう
【E】に入り、ホ短調へ転調。【A】の調に戻ってきます。
テンポは【A】に戻さず、「4分音符=132」のまま駆け抜けるのが良いと思います。
ラストに向かって”てんま”という歌詩を3回連呼しますが、毎回パワーアップするようなつもりで、クライマックスを作りましょう。
最後のロングトーンはffですが、fffくらいのつもりで、音量で聴衆を圧倒するような気持ちで歌えると、感動的なラストになりそうです。
また、音の切り際・切り口も大切。適切なタイミングでスパッと切りましょう。
指揮者の動きも重要です。
まとめ:疾走感、祈り、宇宙の神秘、迫力…色々なものを表現しよう
練習番号ごとのポイントを振り返っておきます。
- 【冒頭】疾走感を持って
- 【A-1】ユニゾンのポイント
- 【A-2】和音の変化はアルトが要
- 【A-3】強弱と歌詩を関連づけて表現しよう
- 【A-4】最初のまとまりを締めくくろう
- 【A-5】次の音楽を予感させて
- 【B-1】静かなコラール風の場面
- 【B-2】連続する転調に注意
- 【B-3】宇宙の神秘を感じさせる表現で
- 【C-1】テンポと強弱にメリハリをつけて
- 【C-2】和音の解決を意識して
- 【C-3】掛け合いはs子音でアピール
- 【D-1】転調によるさらなる過熱感
- 【D-2】時空がねじれるような和音進行
- 【E】最後まで音量をキープして走りきろう
全体としては【A】【C】【D】【E】での疾走感や迫力がメインの曲ですが、それゆえに祈り、宇宙の神秘を感じさせる【B】の場面の聞かせ方も大切になってくると思います。
かなり盛り沢山な内容ですが、どれだけ追求できるかに演奏のクオリティがかかっています。難曲ですが、頑張りましょう。
「もっと詳しく解説して欲しい!」といったリクエストがありましたらお問い合わせからご連絡いただければ対応いたします。