松井孝夫

合唱曲『そのままの君で』の歌い方のコツ|大切なメッセージを伝えよう

『そのままの君で』演奏のコツ
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男の子
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『そのままの君で』の練習方法や演奏のポイントを知りたいです。

こんな方に向けた記事です。

『そのままの君で』は卒業式にぴったりの作品。2部合唱の部分が多く、練習にも取り組みやすいものとなっています。

この記事では合唱曲『そのままの君で』の練習方法や演奏のポイントについて、詳しく解説しています。

この記事を読みながら練習に取り組めば、音楽づくりの方向性がつかめると思います。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
指揮者経験のある筆者が解説します。
教育芸術社「クラス合唱曲集 Super Chorus」に収録されている楽譜を参考にし、本文中で歌詩などを引用する場合には「””」で示しています。

『そのままの君で』の練習番号

練習に取り組む前に、次のような「練習番号」をつけておきましょう。

練習番号をつけることで練習するときの指示出しがしやすくなります。例えば、「練習番号【B】のアウフタクトから!」などと言った具合です。

それだけでなく音楽全体の構成が分かりやすくなり、よりドラマチックな演奏にも繋がります。

『そのままの君で』の練習番号
  • 【冒頭】1小節~
  • 【A】5小節~
  • 【A’】11小節目~
  • 【B】18小節~
  • 【B’】24小節目~
  • 【C】30小節~
  • 【D】38小節~
えすた@指揮者
えすた@指揮者
練習番号をつけることは楽曲を分析するアナリーゼにも含まれます。

『そのままの君で』の歌い方のコツ

『そのままの君で』演奏のコツ

それでは練習番号に沿って解説していきます。読み進めながら練習を進めてみてください。

【冒頭】4分音符でテンポ感を作ろう

冒頭はピアノパートによる前奏です。

ここでのポイントは4分音符を正確に刻み、テンポ感を作ること。

『そのままの君で』ではピアノパートの4分音符がテンポ感の基本となります。

このピアノ伴奏に乗って合唱が歌うことになるので、リズムを安定させることで合唱が歌いやすくなります。

えすた@指揮者
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一定のリズムで弾くことが大切です。

【A】高い音へと丁寧に上がろう

【A】は前向きで力強いメロディーを歌う場面です。

難しいのは7小節目、”ぼくらは”と音が上がる部分です。”は”で一気に音が上がりますよね。

このように音が一気に上がる、または下がることを音の跳躍といいます。跳躍が出てきたらいつもよりも気をつけて歌う必要があります。

ポイントは次の2つの「準備」です。

  • 準備1. 先の音のイメージ
  • 準備2. たっぷりとしたブレス
えすた@指揮者
えすた@指揮者
順番に説明します。

準備1. 先の音のイメージ

跳躍が先に控えているときは、フレーズを歌い出す前に「この後は高い音が来るぞ」と事前にイメージしておくのが大切です。

こうすることにで、体が高い音を歌いやすい状態にスタンバイされます。

体がスタンバイされることで、上がった先の音を正しく、またバラつかずに歌うことができるのです。

準備2. たっぷりとしたブレス

フレーズを歌い出す前に音をイメージすることに加え、しっかりと深くブレス(息継ぎ)を取ることも重要です。

高い音を歌うにはたくさんのエネルギーが必要です。そのもととなるのが息だからです。

深くブレスを取るには、脱力してお腹に入れるイメージで吸うのがコツです。

えすた@指揮者
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脱力するのは自然な良い声で歌うことにもつながります。

【A’】ハモリのラインを大切に、寄り添って歌おう

11小節目~からの場面を【A’】としました。【A】のメロディーの後半部分となっています。

【A】との一番の違いは、男声が女声のメロディーに対してハモリを担当していること。ここが練習でのポイントとなります。

注意するべきなのは音量のバランス。男声の声が大きくなりすぎないようにしましょう。

なぜかというと、男声は全体的に音が高くなっているため、自然と声が大きくなりがちで、目立ちやすいからです。

これが行き過ぎると女声の声をかき消してしまうおそれがあります。

本来の主役である女声のメロディーを活かすために、男声は女声に寄り添うように、丁寧に歌ってあげましょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
ここでの女声・男声は主役と脇役の関係です。

男声のハモリは、半音ずつ上がっていくのライン(「シ♭→シ♮→ド→レ♭」)が特徴的です。

こういった音形を半音進行といいます。

この曲ではこの半音進行がひとつのモチーフとなっており、ハモリやヴォカリーズ、ピアノパートにも繰り返し登場しています。

【B】パートごとの役割を理解しよう

【B】【B’】は【A】【A’】に対応する部分ですが、女声・男声の役割が変わっています。

  • 男声の役割…メインのメロディー
  • 女声の役割…サブのメロディー・掛け合い
えすた@指揮者
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もう少し掘り下げて説明します。

男声の役割…メインのメロディー

まず男声はメインのメロディーを担当します。

なんといっても主役ですので、自立して堂々と歌うことが大切。

メロディーから女声が抜けるととたんに不安になってしまいがちですが、そうならないように、自信がつくまで練習しましょう。

女声の役割…サブのメロディー・掛け合い

女声の”ルルル”はサブのメロディーラインです。これがあることによって、男声のメロディーを装飾し、音楽的な展開を裕にします。

男声よりは控えめに、また音をなめらかに繋げて歌うと良いと思います。

20小節からは歌詩による掛け合いの役割になります。ずれて言葉を歌う合唱ならではのフレーズです。

このようにパートごとの役割を理解し、歌い方を意識することで作曲者の思い描いた立体感の表現につながります。

えすた@指揮者
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掛け合いのコツについては【B’】の解説で。

【B’】掛け合いでのコツを押さえよう

【B’】からは女声・男声の役割が入れ替わります。

  • 女声の役割…メインのメロディー
  • 男声の役割…サブのメロディー

ここでもそれぞれの役割を理解し、歌い方を意識しましょう。

ここでは「掛け合い」の場面を歌うときのポイントに触れておきたいと思います。次の3つです。

  1. 前のパートをよく聴いて入る
  2. 後から入るパートはしっかりアピール
  3. 合流地点でタテを合わせる

1. 前のパートをよく聴いて入る

掛け合いの場面では、まず自分の前に歌うパートに注目し、よく聴いて歌いましょう。

【B’】の場合、掛け合いの役割となる男声は、先行する女声のメロディー(”ぐうぜん”)の後に入ります。

タイミングをしっかりはかって入ることがまずは大切。早すぎても遅すぎてもいけません。女声の歌うテンポ感を引き継いで歌いましょう。

また、女声の音をよく聴くことで自然と音も取りやすくなります。なぜなら女声の”ぐうぜ”と男声の”ぐうぜ”は同じ音(「ミ・レ・ミ」)になっているからです。

ただし、”ん”からは違う音になるため、そこは気をつけましょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
タイミングと音に気をつけましょう!

2. 後から入るパートはしっかりアピール

さらに男声が入るときには「入ったよ!」ということが聞き手に伝わりやすいようなアピールが必要です。

女声のメロディーに完全に隠れて男声が何を歌っているのか分からないと、せっかくの掛け合いが無意味なものになってしまうからです。

アピールの仕方としては、次の2つの方法があります。

  1. 子音
  2. 音量

子音というのは、[k][s][t][n]など。今回は”ぐうぜん”の[g]になります。

この[g]を少し強調することで、歌詩も伝わりやすくなりますし、それによって聴いている人の注意を引き付けることもできます。

また、単純に男声のメロディーが聞き取りづらいときには、少し大きめに歌ってみることも必要になると思います。このあたりは練習を繰り返しながら調整してみてください。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
子音でのアピールは掛け合いではとても有効なテクニックです。

“ぐうぜん”はガ行ですが、この場合は鼻濁音しないのが正解です。

3. 合流地点でタテを合わせる

掛け合いをした後は、”こころの”から女声と男声が合流します。

それぞれのタイミングがぴったりと合うように意識しましょう。

やはりお互いの声をよく聴き合ってタイミングをはかることが重要です。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
一体感を意識しましょう。

【C】ユニゾンを力強く歌おう

【C】からはこれまでとはメロディーの形が変わります。それだけでなく、ハモったり掛け合いをしたりといった要素がなくなり、シンプルなユニゾン(全員同じ音を歌う)になることも知っておきましょう。

ユニゾンでのポイントはとにかく音を1つにまとめること。音やリズムだけでなく、「どんな気持ちで歌うか」というところまでメンバー全体で統一できると良いと思います。

個人的には、「逆境にも負けないような力強さ」をここでのメロディーやコードから感じます。

また、37小節目にはクレッシェンド(だんだん大きく)の記号が書かれています。

ここで一気に盛り上げて、クライマックスである【D】に持っていきましょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
気持ちがそろっているととても充実したサウンドになります。

【D】構成を理解してクライマックスを作ろう

【D】はこの曲全体で1番盛り上がるクライマックスの場面。この曲ではじめてf(フォルテ/強く)が登場します。

ポイントは次の4つです。

  1. たっぷりと豊かな音量で歌う
  2. 3部合唱ならではの響きを
  3. 全体の構成を理解して
  4. 小さな音量は「もっと」大切に
えすた@指揮者
えすた@指揮者
それぞれ解説します。

1. たっぷりと豊かな音量で歌う

まずはしっかりと歌うこと。fらしい音楽にしましょう。

大きな声で歌うためには歌い出す前のブレスが大切です。

女声は【D】の直前のブレス記号、男声は4分休符で 深くブレスを取りましょう。

また、日頃の発声練習にも取り組んでみましょう。

2. 3部合唱ならではの響きを

【D】からは女声がソプラノとアルトに分かれ、全体で混声3部合唱になるのも大きな違いです。

これによってハーモニーが一気に充実し、豊かなサウンドになります。

アルトの人は大変ですが、しっかり音を取って自信を持って歌えるようにしましょう。

えすた@指揮者
えすた@指揮者
混声3部合唱の良さを引き出しましょう。

3. 全体の構成を理解して

ここではじめてfが出てくることや、ハーモニー的にも充実してくることは先ほど触れました。

それはつまり、そういった要素をここまでをあえて「とっておいた」ということ。【D】での盛り上がりが非常に印象的なものとなるように音楽が構成されているのですね。

このことを知っているのといないのでは演奏の説得力がまるで違ってきます。説得力のある演奏はとても感動的です。

えすた@指揮者
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ここでの音量・ハーモニーは「とっておき」です。

4. 小さな音量は「もっと」大切に

【D】は基本的にfの音楽ですが、46小節目のアウフタクト(”きみ”)からはmf(メゾフォルテ/少し強く)になります。

これまでより1段階控えめな音量になります。目の前にいる人に語りかけるように優しく、”きみはきみでいてほしい”という、この曲でいちばん大切なメッセージを歌いましょう。

このように、音量の変化をはじめ記号による指示があるところは、それを守るだけでなく、もう一歩踏み込んで「どんな風に歌うのが良いか?」というとこまで考えられるととても良いと思います。

まとめ:『そのままの君で』の歌い方のコツ

この記事で解説したポイントを振り返っておきます。

まとめ
  • 【冒頭】4分音符でテンポ感を作ろう
  • 【A】高い音へと丁寧に上がろう
  • 【A’】ハモリのラインを大切に、寄り添って歌おう
  • 【B】パートごとの役割を理解しよう
  • 【B’】掛け合いでのコツを押さえよう
  • 【C】ユニゾンを力強く歌おう
  • 【D】構成を理解してクライマックスを作ろう

いちばん大切な場面はずばり【D】。”きみはきみでいてほしい”というメッセージをどう伝えるか、そしてそこまでどのように音楽を持っていくかという点が音楽づくり・練習の指針となるでしょう。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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