合唱曲『旅立ちの日に』は卒業式の定番曲。
前半は優しく語りかけるように、後半は躍動的とドラマ性があり、非常に感動的な曲となっています。
この記事では「『旅立ちの日に』を上手に歌いたい!」という方に向けて、練習方法や演奏のポイントを詳しく解説しました。
「どんなふうに練習を進めたら良いか」「歌うときに気をつけること」などの参考になると思います。ぜひご覧ください。
もくじ
『旅立ちの日に』の練習番号と構成について
練習に取り組む前に、次のような練習番号をつけておきましょう。
- 【冒頭】1小節~
- 【A】11小節~
- 【B】19小節~
- 【C】27小節~
- 【D】35小節~
- 【E】46小節~
- 【E’】52小節~
練習番号をつけることで、曲全体の構成感が分かりやすくなります。実際に分析してみると次のようになります。
- 【冒頭】…前奏
- 【A】【B】…語りかける、前ウタ
- 【C】…盛り上がる、サビ
- 【D】…間奏
- 【E】【E’】…躍動的な場面
また、全体を大きく分けると【冒頭】~【C】が前半、【E】~【E’】が後半となります。(【D】はその間のつなぎ)
構成を理解することをはじめ、楽曲を分析することをアナリーゼといいます。
ややレベルは高い事項になりますが、練習するときからなんとなくでもよいので構成感を頭に入れておくと、説得力のある演奏に繋がります。
合唱曲『旅立ちの日に』の歌い方のコツ
ここからは練習番号に沿って解説していきます。
ぜひ楽譜と見比べながら読み進めてください。
【A】ハ行の言葉を丁寧に伝えよう
【A】は優しく語りかけるような場面・フレーズとなっています。
このような場面では言葉を丁寧に発音して、歌詩をしっかりと伝えるのが重要です。
【A】で特に注目してほしいのが「ハ行」で始まる言葉です。例を挙げてみたいと思います。
- “しろいひかりのなかに”
- “はるかなそらのはてまでも”
下線部がハ行ではじまる言葉です。”ひ”や”は”という言葉は/h/の子音を使っています。この/h/というのは聞いている人からすると大変聞き取りにくい子音です。
この/h/を少し強調して発音することで、聞き取りやすく、また言葉を丁寧に伝えようとしていることが感じられる演奏になります。
【B】メロディーとハモりのバランスに配慮しよう
【B】からは音量がmfへワンランクアップし、音楽が前向きに展開していく場面です。
また重要な特徴として、ここからハモりのフレーズになっていることが挙げられます。これに対して【A】はユニゾンでした。
このハモリのフレーズではパートとパートどうし、特に女声と男声の音量バランスに気をつけてほしいと思います。
その理由は、女声のメロディーが低い音から始まるのに対し、男声のハモリは高い音から始まるため。このような場合、男声が女声をかき消してしまうことが多いです。
そこで、男声の人は次のことに気をつけて歌うとうまくいきやすいです。
- 高めの音は音量をおさえてより丁寧に
- 逆に低めの音はしっかり目に
- 女声のメロディーに寄り添うイメージで
18~19小節目は女声が低く、男声が高いところ。男声はやや控えめに歌いましょう。
21~22小節目は逆に女声が高め、男声は低めなのでしっかり目に歌っても問題ありませ
【C】力強くフレーズ終わりまで歌いきろう
ここからはf(フォルテ/強く)となり、前半のクライマックス部分となります。
次の3点を意識しながら、力強い音量でしっかりと盛り上げ、歌い切りましょう。
- ロングトーンで減衰しない
- クレッシェンドでもうひと押し
- ブレスを深く
C-1. ロングトーンで減衰しない
【C】ではフレーズの終わりで長く音を伸ばすことが多くなっています。
該当する箇所と伸ばす拍数は次のとおりです。
- “こめて”…2拍分
- “かぜにのり”…3拍分
- “おおぞらに”…3拍分
- “ゆめを”…2拍分
- “たくして”…2拍
また、”かぜにのり”ではアルトの音だけが途中で変わります。
これによって和音が変化しますので、注目して聴いてみてください。
アルトの音が変わるところは次のようなコード進行となっています。
- Fsus4 → F
アルトの音が変わることで解決します。
C-2. クレッシェンドでもうひと押し
32小節のロングトーンにはクレッシェンド(だんだん大きく)が書かれています。
これまでの音量からさらに一歩大きくできると、音楽としての充実感が出ると思います。
続く”ゆめを たくして”はその流れを引き継いで、クレッシェンドした後の音量で歌いましょう。つまりfよりも大きくなるということです。
あわせてイ母音の響きや、ハーモニーも気にするとさらに良くなります。
C-3. ブレスを深く
【C】の場面では他のところと比べてブレスをしっかり取ることも意識しましょう。
息を深く吸うことが音量をキープして歌い続けるエネルギーになります。
ブレスのタイミングはブレス記号や休符の位置が目安になります。そうすると2小節単位でのブレスとなります。
そうすると、33小節目の8分休符はフレーズのまとまり(”ゆめをたくして”)の途中になるので、ここではブレスを取らないほうが良いでしょう。
【D】間奏で気持ちを切らさずに
【D】はピアノパートの間奏となります。
合唱パートの人は気持ちを切らさないようにしましょう。
ピアノパートは途中mfまで盛り上がり、【D】の後半でデクレッシェンドします。
デクレッシェンドで役割交代です。2番のコーラスの入りを導くイメージで弾きましょう。
【E】躍動して
【E】からは『旅立ちの日に』を大きく捉えたときの後半で、ここから音楽がガラリと変化します。
これ以降の場面を特徴づける要素は次の3つ。それぞれどのようなことに気をつけて歌うべきか解説していきます。
- テンポの変化
- リズムの変化
- 掛け合いと合流
E-1. テンポの変化
【E】のはじめに書かれている記号がPiu mosso(ピウ・モッソ)。
これは前より速くという意味で、テンポをアップさせる指示になります。
積極的に歌い、テンポに乗り遅れないようにしましょう。
E-2. リズムの変化
【E】ではこれまでと比べてリズムが細かくなっており、躍動的なメロディーになっていることも大きな違いです。
落ち着いた雰囲気の場面を歌うときとは意識を変えて臨みましょう。
E-3. 掛け合いと合流
掛け合いと合流が繰り返されることで音楽が展開されることも【E】での大きな特徴です。
女声が”いま”と歌った後、男声が畳み掛けるように”いま”とずれて入り、そのあとすぐに合流して”わかれのとき”と歌います。さらに男声はもう一度”とき”と歌いますね。
これが掛け合いと合流です。整理すると次のようになります。
(女)”いま” → (男)”いま” → (女男)”わかれのとき” → (男)”とき”
掛け合いではまず入りの食いつき(遅れずに入ること)が肝心です。
また女声・男声お互いのリズムをよく聴きあいながら歌うことも重要です。ずれるところは正しくずれ、タテ(歌うタイミング)がそろうとこはピタッとそろうように意識してみてください。
聴きあうことをしないと、お互いのテンポ感が合わず、ごちゃごちゃとした印象になってしまいます。
“とびたとう みらいしんじて”、”はずむ わかい ちからしんじて”なども同じように整理してみてください。
【E’】長いクレッシェンドの作り方
52小節から【E’】としました。場面としては【E】の続きですが、音形が異なるため分けています。
ここでのポイントはcresc.(クレッシェンド)の歌い方です。
少しややこしいので順を追ってみていきましょう。
クレッシェンドの効果はどこまで?
まずこのクレッシェンドがどこまで有効なのか考えてみましょう。
【E’】では”このひろい”という歌詩が男女の掛け合いによって歌われ、”おおぞらに”で合流しています。ここでのびのびとしたロングトーンに入り、和音もたっぷりと響かせられるフレーズとなっています。
これらのことから54小節目がフレーズのピークとなるので、クレッシェンドのピークもここに定めるのが良さそうです。
そうすると、52小節に書かれたcresc.は、そこから約2小節間に渡っての長いクレッシェンドとなることが分かります。
長いクレッシェンドのポイント
このような場合、クレッシェンドのダイナミクスレンジ(音量変化の幅)をいかに大きく取るかがポイントとなります。
クレッシェンドが長いと大きくするのに時間がかかるため、中途半端なダイナミクスレンジだと、クレッシェンドの効果が得にくいのです。
ダイナミクスレンジを広げるには
このダイナミクスレンジを大きくするためには、当然頑張って大きな声を出すということも考えられます。
しかし、これまでの場面をすでにfで歌ってきているため、それ以上に大きく歌うこともなかなか大変かもしれません。
そんなときは、歌いはじめの音量を少し落とすという方法が効果的になります。
つまり、cresc.が書いてある”このひろい”を少し小さめに、具体的にはmfくらいで歌い出すわけです。
男声が2回目の”この広い”と歌う53小節目でfに1段階アップ。
そして男女が合流する”おおぞらに”でクライマックスのff、こんなイメージで作ってみてはどうでしょうか。
こうすることで、mf → mf → ffと2段階の音量変化をつけることができ、音楽的なアピールも十分です。
このようにする場合、合唱だけでなくピアノパートもあわせて音量を落とすようにしてください。
【F】落ち着いた後奏で締めくくろう
58小節からピアノパートによる後奏、曲の締めくくりの場面となります。
- テンポは最初に戻る(TempoⅠ)
- rit.をしっかり効かせる
- 最後のフェルマータは余韻をたっぷり取る
このようなことに気をつけると、感動的な雰囲気・終止感を醸し出せると思います。
まとめ:しっとりとした前半、躍動的な後半のドラマをつくろう
練習番号ごとのポイントを振り返っておきます。
- 【A】ハ行の言葉を丁寧に伝えよう
- 【B】メロディーとハモりのバランスに配慮しよう
- 【C】力強くフレーズ終わりまで歌いきろう
- 【D】間奏で気持ちを切らさずに
- 【E】躍動して
- 【E’】長いクレッシェンドの作り方
- 【F】落ち着いた後奏で締めくくろう
『旅立ちの日に』は、前半はしっとりと語る場面、後半は躍動的な場面というふうに明確でドラマチックな構成となっています。
このドラマを念頭に練習していくと、説得力のある音楽になりますし、最後の盛り上がり~ピアノパートの後奏での感動がより高まると思います。
卒業式の定番ソングですが、このように音楽的内容も優れているので、ぜひ深掘りして練習に取り組んでみてください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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