合唱曲『さよならと言おう』はユニゾン・ハモりの対比が鮮やかで印象的な曲。卒業式にもぴったりの内容となっています。
この記事では「『さよならと言おう』を上手に歌いたい!」という方に向けて、練習方法や演奏のポイントを詳しく解説しました。
「どんなふうに練習を進めたらよいか」「何に気をつけて歌ったらよいか」などの参考になると思います。ぜひご覧ください。
もくじ
『さよならと言おう』の練習番号について
練習に取り組む前に、次のような練習番号をつけておきましょう。
- 【冒頭】1小節~
- 【A】5小節~
- 【B】13小節~
- 【C】21小節~
- 【D】28小節~
練習番号をつけることで練習するときの指示出しがしやすくなります。例えば、「練習番号【B】のアウフタクトから!」などと言った具合です。
それだけでなく音楽全体の構成が分かりやすくなり、より詳しく分析したいときにも役立ちます。
『さよならと言おう』の歌い方のコツ
ここからは練習番号に沿って解説していきます。ポイントは次の通り。
- 【A】ユニゾンとハモりの対比を鮮やかに
- 【B】ダイナミックなコード進行に気持ちを乗せて
- 【C】声部の変化と音の厚みを感じよう
- 【D】曲を締めくくる工夫をおさえよう
【A】ユニゾンとハモりの対比を鮮やかに
【A】の場面の特徴は、前半の4小節がユニゾン(全員が同じ音を歌う)、後半4小節が各パートがそれぞれ別の音を歌うという作りになっていることです。
言い換えると、前半はシンプルなメロディーで、後半になるとハーモニーが加わるということになります。
歌詩でまとめると次のようになります。
- “おもいでを たどるように ひらいたてのひらを” → ユニゾン
- “ちいさくふって きみのひとみに さよあんらといおう” → ハモり
ユニゾン・ハモりの場所を意識
このような場合、まずは「どこがユニゾンで、どこがハモりか?」ということを意識しながら練習するのが大切です。
ユニゾンである場所は全員が同じ音となっているのが正解、ハモりの場所は他のパートと違う音を歌っているのが正解、ということが分かるからです。
こうすることで音を取るのも早くなりますし、音楽の切り替わりが分かりやすい、明快な演奏にも繋がります。
役割を考えて
後半のハモり部分では、各パートの役割が変わります。
ソプラノは前半と同じくメロディーですが、アルト・男声はハーモニーの担当です。
ハーモニーを担当するパートの人はメロディーをよく聴いて、それに寄り添うように歌いましょう。
役割が同じパートどうし、つまりアルトと男声だけを取り出して練習するのも効果的です。このときはピアノパートもお休みで、アカペラで練習すると響きをよりよく感じられます。
役割を意識せず、それまでのメロディーと同じように歌ってしまうと、パート同士のバランスが崩れやすくなってしまいます。
音量のバランス
ハモる部分では自分のパートの音を正しく歌うことは当然大切ですが、同時に音量のバランスにも気をつける必要があります。
今回の場合、ソプラノのメロディーは明瞭に聞こえつつ、それをアルト・男声が支えることで響きに厚みが出ている状態がベスト。
特に男声は音が比較的高めとなっていますので、乱暴に歌うとソプラノのメロディーをかき消してしまうおそれがあります。気をつけましょう。
【B】ダイナミックなコード進行に気持ちを乗せて
【B】の場面も【A】と同様に構造を分析してみましょう。
すると、前半4小節は女声・男声による掛け合いとなっていることが分かります。掛け合いとは複数のメロディーがずれて、絡み合うように進むことです。
後半に入り、17~18小節の2小節間はハモり。ここのハーモニーはダイナミックで色彩感があり、聞かせどころです。
その次の19~20小節の2小節間はユニゾンで、ソプラノ、アルト、男声が同じ音を歌っています。
歌詩でまとめてみましょう。
- “ことばにならない なごりおしさを” → 掛け合い
- “かんじあえば まぶたが” → ハモり
- “あつくなるけれど” → ユニゾン
それぞれの場面のポイントを解説していきたいと思います。
お互いのメロディーを感じながら歌おう
掛け合いではお互いのリズムを感じながら歌うのがポイントです。
自分の音を歌うことだけに集中してしまうと、タイミングが合わず、ごちゃごちゃとした音楽になってしまいます。
男声が歌ったらそれを受けて女声が入る、次はその女声のメロディーを聞き、それを受けて今度は男声が入る、それを繰り返すという流れを理解しながら歌いましょう。
図にまとめてみます。
- (男)”ことばに” → (女)”ことばに” → (男)”ならない” → (女)”ならない”
- (男)”なごり” → (女)”なごり” → (男)”おしさを” → (女)”おしさを”
cresc.(クレッシェンド/だんだん大きく)も見逃さないように。”かんじあえば”のf(フォルテ/大きく)に向けて盛り上げましょう。
色彩感豊かな和音のカギは臨時記号
17~18小節はこの曲の中でも最も色彩感が豊かな和音進行を持つフレーズとなっています。
その理由は臨時記号が使用されていること。「シ」に音ついている♮や「ソ」の音についている♯がそうです。
臨時記号がつけられた音は、一時的にもとの調(=ヘ長調)から外れた音になります。
絵の具にたとえるならば、もともと青色系統が中心のパレットに、赤系統の絵の具を登場させるようなイメージです。
これによって和音の色彩感がぐっと引き立つ訳です。
このような音が使われている理由は、ここで大きな感情の揺れがあるからです。音量がfになること、そして”まぶたがあつくなる”という歌詩に対応しているように読み取れます。
臨時記号の音は歌うのが難しいので、繰り返し練習して正確に歌えるようにしておきましょう。
難しい音をマークしておくだけでも練習の効率がアップすると思います。
力強いクレッシェンドを
19~20小節の2小節分は再びユニゾンとなります。
ロングトーンに入ってからは力強くクレッシェンドしましょう。
全員が一つにまとまってクレッシェンドすることで、高揚感の表現に繋がります。
ここで大切なのは音を全員でぴったりとそろえること。
そしてクレッシェンドは、各個人がそれぞれのタイミングでするのではなく「どのくらいのペースで」「どれくらいの大きさまで」という点を定め、足並みをそろえるのか肝心です。
練習を繰り返す過程でクレッシェンドのペースを統一していきましょう。
【C】音量と声部の変化を理解しよう
【C】は『さよならと言おう』という曲全体を通じての音楽的なクライマックスとなります。サビ的な部分と言っても良いでしょう。
例によって構造を分析してみます。【C】では音量と声部に注目です。声部とはパートの数だと考えてもらえばOKです。3パートでハモっていれば3声、ユニゾンならば1声となります。
21~22小節の2小節間はfとなっています。この曲で一番大きな音量で、3声です。
続く23~24小節はmf(メゾフォルテ/少し大きく)で一段階ダウン。女声+男声の2声となります。
さらに25~26小節ではデクレッシェンド(だんだん小さく)からmp(メゾピアノ/少し小さく)となります。”さよならと”が1声で、その後3声となります。
以上から、【C】の構造を整理してみると次のようになります。
- “こころふれあった ひとときを” → f + 3声
- ”わすれないで” → mf + 2声
- “さよならと” → mp + 1声
つまり、音量がだんだん小さくなりながら、声部も減っていっているという作りになっているのです。
クライマックスがあり、そこから曲の終わりに向けて収束していくように作曲者が意図した場面となっていることが分かります。
掛け合いはエコーのように
23~24小節は掛け合いのフレーズとなっています。
男声の”わすれないで”は女声に対するエコーのようなフレーズに思えます。
女声の歌い方のニュアンスを引き継いで歌いましょう。続く”さよならと”ではユニゾンなので息をあわせて入ります。
また、この2小節間ではピアノパートの伴奏が変化していることも注目です。
これまでは4分音符が中心の伴奏型でしたが、この2小節分は繊細なアルペジオになっています。
4分音符が中心の場面では音楽が歩くように進んでいく印象でしたが、ここではいったん「立ち止まる」ような印象を私は感じます。
1番2番での違いに注目
また、1番と2番では音量の指示が異なっています。
1番はフレーズの終わりですが、2番は再び盛り上げて最後の場面に繋げるためにクレッシェンドが書かれています。
mp → fとかなり音量の幅があります。その点を計算しながらクレッシェンドしましょう。
【D】曲を締めくくる工夫を押さえよう
【D】は曲全体を締めくくる場面となっており、そのための工夫がいくつか見られます。
これらをしっかり押さえて歌うと、感動的なラストを飾れると思います。
その工夫とは次の通り。
- ディミニッシュコード
- 段階的なデクレッシェンド
- rit. + テヌート
工夫1. ディミニッシュコード
30小節目のフェルマータのついたロングトーンでの和音がディミニッシュコードです。
ディミニッシュコードは減7の和音とも呼ばれ、複雑な響きを持っています。
このような難しい和音でも練習絵気をつけることは普段と同じです。お互いの音をよく聴き合って歌うことです。
ここではピアノパートも同じ音を弾いていますので、ピアノの響きにも声を溶け合わせるようにすると良いでしょう。
「ピアノパートなし(アカペラ)で響きを感じ取る練習」、「ピアノパートありでお互いの音を溶け合わせる練習」を交互に行うと非常に効果的です。
工夫2. 段階的なデクレッシェンド
【C】と同様、【D】でも音楽が進むに連れてだんだんと音量が小さくなっていく構造になっています。
まとめると次の通り。
- “あすのきぼうのために” → f
- “さよならと” → mf
- “いおう” → デクレッシェンド
特に大切なのは最後のデクレッシェンド。ここでしっかりと音量をしぼっていくことで充分な終止感を表現できると思います。「曲が終わった~」という満足感の演出です。
合唱には特に指示がありませんが、デクレッシェンドした先の音量はピアノパートのpを目安にしても良いと思います。
デクレッシェンドしながら音を伸ばすときは、正しい音程をしっかりとキープできるよう、お腹で支えるのが大切です。
これを意識しないと音が下がってきて、ハーモニーが濁ってしまうことに繋がります。
工夫3. rit. + テヌート
最後の歌詩である”いおう”にはテヌートという記号がつけられています。
これは「音の長さを保って」という意味ですが、テヌートのつけられている音を「しっかりタメて、長めに歌う」という意味だと捉えて良いと思います。
そうすることで、言葉を大切に、丁寧に表現することができます。
rit. (リタルダンド/だんだん遅く)もまた、音の長さやテンポに影響する音楽記号です。
ピアノパートが刻む4分音符をだんだんと遅くしていくことで曲の最後の余韻を生み出すことができます。
最後の2小節では合唱の人はロングトーンに入るためテンポの変化は関係ないように思えますが、デクレッシェンドのペースにも影響するところなので、テンポの緩みも感じておく必要があります。
まとめ:鮮やかなハーモニーに気持ちを乗せよう
最後に各練習番号でのポイントを再掲しておきます。
- 【A】ユニゾンとハモりの対比を鮮やかに
- 【B】ダイナミックなコード進行に気持ちを乗せて
- 【C】声部の変化と音の厚みを感じよう
- 【D】曲を締めくくる工夫を押さえよう
『さよならと言おう』はユニゾンとハモりの対比の鮮やかさが一番印象的な点だと私は思います。
また、声部数の変化、音量の変化など、明確な意図のもと音楽が構成されていることを解説してきました。
これらの要素を頭で理解した上で、そこに歌詩から感じ取れる思いを乗せて歌えると、より感動的な演奏になると思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。質問などありましたがお問い合わせからご連絡いただければ対応いたします。