- 「この棒みたいなのって何?」
- 「テヌートて結局どうやって歌えばいいの?」
- 「テヌートが出てきたとき、指揮者はどうすればいいの?」
- 「アクセントとか他の記号との違いって?」
- 「どうすれば良いか良く分からないからとりあえず放置しよう!」
そんな方向けの内容です。
もくじ
テヌートの記号と基本的な意味
まずはテヌートの記号と基本的な意味について確認しておきましょう。
テヌート記号の見た目
テヌートはこんな記号です。
音符の上または下に付いている短い横棒がテヌートという記号です。
また、音符1つに対して1つ付けられる記号なんですね。
tenutoやten.のように文字で表されることもあります。
テヌートの教科書的な意味
確認の意味も込めて、テヌートの意味を楽典の教科書から引用してみましょう。
音の長さを充分に保持して、の意。
引用:青島広志(2009). 究極の楽典〔新装版〕 全音楽譜出版社
だそうです。
本によって言い回しは多少違うかもしれませんが、大体このようなことが書かれていると思います。
ただ、これだけだと「???」となってしまいますよね。
「音の長さを保って? 短くしないでということ? それは当たり前じゃないの?」
と、誰しもこう思うわけです。
テヌートの歌い方
テヌートを教科書的な意味だけで捉えると、「それって当たり前じゃない?」という問題が出てきてしまいました。
そういうわけで、続いては「テヌートは結局どう演奏すれば良いのか?」を考えていきたいと思います。
テヌートの意味を拡張する
テヌートの意味するところは「音の長さを充分に保持して」ということでした。
音符の長さを守るというのはある意味当然のことです。
したがって、これだけでは「テヌートが付いている音符」と「付いていない音符」の区別がつきません。歌い方にも結びつきませんね。
そのため、テヌート記号を表現するためにはこの教科書的な意味をもう少し拡張して捉える必要があると私は考えています。
拡張する、難しい言い回しになってしまいました。やや大げさに解釈すると言えば分かりやすいでしょうか。
そこで、私なりにテヌートの意味を拡張たのが次の解釈です。
- その音の持っている存在感を充分+α発揮して
長さだけでなく存在感も、保つだけでなく+αというのがポイントです。
具体的にはどう歌う?
先ほどの提案した「その音の持っている存在感を充分+α発揮して」という解釈をもう少しかみ砕き、歌い方に結びつく表現にしてみます。
そうすると、
- 強調して
- しっかり響かせて
- 長めにたっぷりと
- アピールして
などと言い換えることができると思います。
ここまで来れば「実際にどう歌ったらよいか?」というイメージがつきやすいのではないかと思います。
このようにして「その音の持っている存在感を充分+α発揮」させる、これがテヌートの歌い方になります。
テヌートが付いた音は
- 強調して
- しっかり響かせて
- 長めにたっぷりと
- アピールして
などを意識し、存在感を持たせるのが歌い方のポイントです。
テヌートとその他の記号の違い
ここまで読んで
- 「強調して、というとアクセントと同じじゃない?」
- 「レガートやスラーとはどう違うの?」
と思われると思います。
そうなんです、他の記号との区別がつきにくいのもまた、テヌートが良く分からない謎記号となってしまうゆえんです。
そこで、ここからはテヌートと似た記号をいくつか取り上げ、両社の違いを解説したいと思います。
他の記号と比較することで、テヌートという記号の意味、演奏イメージがより掴みやすくなると思います。是非お読みください。
テヌートとアクセントの違い
まずはアクセントの意味を改めて確認しておきましょう。
その音を強く
引用:青島広志(2009). 究極の楽典〔新装版〕 全音楽譜出版社
ということで、要は強く歌ったり弾いたりして強調する意味になります。
これがテヌートの強調とどう違うのか、ということですね。
まず思い出してほしいのは、テヌートの元来の意味は「音の長さを充分に保持して」だったということです。
これを踏まえると、テヌートが付いた音は、強調しつつも音の長さがもともとより短くなってしまってはいけないということが言えると思います。
どちらかと言えば長めに歌うことになり、結果として存在感を持った重い音になります。
これに対し、アクセントは「その音を強く、より目立させる」ことが重要視されます。
この際には音のアタック感はテヌートよりも固く、場合によってはスタッカート的に短くなることがあり得ます。
テヌートとアクセントの違いをまとめます。
- テヌート…音を長く・重くして強調する
- アクセント…音を短く・固くして強調する
テヌートとフェルマータの違い
続いてはフェルマータとの違いを見てみましょう。音を伸ばす記号ですね。
テヌートも音が引き延ばされることがあるのですが、それはあくまで音楽が一定のテンポで進んでいる中でのことになります。
それに対してフェルマータはそこで音楽はいったんストップとなります。ポーズと言っても良いでしょう。
音楽が止まっている間、付いた音符/休符が伸ばされるわけです。
音楽が進んだままなのか、いったん止まるかが大きく違います。
テヌートとフェルマータの違いをまとめます。
- テヌート…その音がやや長くなるが、音楽は進む
- フェルマータ…音符や休符が伸び、その間音楽は止まる
テヌートとレガート/スラーとの違い
レガートやスラーは「メロディーなどを滑らかに繋いで」というような意味になります。音と音の隙間を埋めるようなイメージ。
テヌートは音の長さを保って歌うので、こちらも音同士の隙間が埋まり、結果として滑らかになりそうですが、必ずしもそうではありません。
テヌートの意味を拡張した際のことを思い出してみましょう。
そうするとテヌートは「音に存在感を持たせ、強調する」という意味に解釈することができました。
音符一つ一つが独立というか、目立つ感じになります。
スラーやレガートはフレーズ全体を滑らかに繋げるような表現になるので、一つ一つの音が目立ってはいけません。
そうするとやはり両者の記号は異なると理解できそうですね。
テヌートとスラーやレガートとの違いをまとめます。
- テヌート…音符それぞれに存在感を持たせ、一つ一つ目立たせる
- スラー・レガート…全体を滑らかに繋ぎ、一つ一つ目立たせない
テヌートとマルカートとの違い
マルカートとはレガートとは逆にフレーズを固く、ゴツゴツした感じで演奏する記号です。
これもまたテヌートと似てそうですね。
ただ、テヌートはもともと「音の長さを保って」という意味を持っています。
それに対しマルカートのように固く、ゴツゴツした感じで演奏するということは音が短くなる傾向にあります。
そんなわけでマルカートともまた違います。
そもそも、
- レガートやマルカートはフレーズ全体に付く記号
- テヌートは音一つ一つに付く記号
という違いもあり、こちらの方が根本的かもしれません。
まとめます。
- テヌート…音符一つ一つの長さを保つ(短くならない)
- マルカート…フレーズ全体をゴツゴツと固く(短くなる場合もある)
テヌートとリテヌートの違い
テヌートとリテヌートは名前が似ているので混同されがちです。
リテヌートは「急に遅く」の意味。テンポを変化させる記号となります。
多くの場合、a tempo(ア・テンポ/元の速さで)を伴い、それまでは遅いままです。
テヌートの場合は音が長めに演奏された結果テンポが粘る傾向にありますが、カテゴリ的にはテンポを変えない記号です。
またその効力はテヌートが付いている音符に限られます。
まとめます。
- テヌート…基本的にはインテンポ(テンポを変えずに)で演奏
- リテヌート…テンポを遅くして演奏
テヌートとソステヌートの違い
最後にソステヌートです。
これだけがテヌートとほぼ同等の意味を持ちます。
違いは、テヌートが一つの音符に対して一つつけられるのに対し、ソステヌートは1回書くだけでそれ以降の音符すべてに効力を発揮します。
したがって先に示した譜例では左右同様の歌い方になります。
ソステヌートの後にはlegato(レガート/滑らかに)などの記号が書かれ、元に戻ることが多いですが、そのまま放置されることもあります。
その場合、書きっぷり的には効果が永続することになるのですが、実際のところはフレーズや場面の切り替わりで元の歌い方に戻します。これは指揮者のサジ加減となります。
テヌートとソステヌートの演奏方法は同じです。
違いは、
- テヌート…付いた音限定で効果あり
- ソステヌート…すべての音に効果あり
となります。
テヌートの振り方(指揮)
ここからはテヌートが出てきたとき、「指揮者としてどう振るか?」ということについて考えたいと思います。
歌い方で触れたように、テヌートが付いた音は
- 強調して
- しっかり響かせて
- 長めにたっぷりと
- アピールして
などと演奏することになります。
指揮者の立場としては、これを基本として踏まえた上で、さらに詳細に「どのような音が欲しいか?」イメージすることが必要となってきます。
また、それによって振り方、腕の使い方は自ずと変わってきます。
テヌートは記号の中でも解釈の幅がかなりあるものですので、こうすればOKというものはありませんが、
参考までに
- 「私自身がどのような音の出をイメージしているのか?」
- 「どのようなバトンテクニックを使って指揮をしているのか?」
をご紹介したいと思います。
テヌートが付いた音に求めるイメージ
テヌートが付いている音符に対し、私が鳴らして欲しいとイメージするのは
- 重ための、充実感のある音
- アタックは固くなく、どちらかと言えば柔らかい感じの音
であることが多いです。
コツコツという軽い感じではなく、ズシッズシッというような重さ。
例えて言うと「分厚いゴムの板に鉄球を落としたときの衝撃」のようなイメージです。
テヌートが付いた音を振る時に意識しているテクニック
そのような音を念頭に置いた上で、
- どのようなバトンテクニックを用いているか
- どのように腕を使っているか
を説明します。
テクニックの面で私が一番意識しているのは「腕を重く見せる」ことです。
そのためにしゃくい的な図形を用い、点前点後の加速を抑えめにします。
簡単に言えばゆっくり動かす感じです。(もちろんテンポは維持した上で。)
例えるならば「ハチミツのようなねっとりした流体の中で腕を動かす」イメージ。
シンプルにダンベルなど重いものを持って練習し、感覚を掴むこともあります。
叩き的な図形を用いた場合、アタック感・強調感は出るものの音のタッチは固く、短く切れる感じを与えます。
これはアクセント、スタッカートに適した振り方になってくると思います。
テヌートを書き込む作曲家の気持ち
ここまで歌い手・指揮者という、演奏する側の立場からテヌートについて解説してきました。
最後に「作曲家の立場ではテヌートをどのように考えているのか」について触れてみたいと思います。
この記事で一番大切なところかもしれません。ちょっとハイレベルですが、演奏する立場からしても役立つ内容だと思います。
テヌートは作曲家のこだわりポイント
テヌートを書き込むとき、作曲家の方々が考えているのは、一言で言うならば「この音は大事! だからしっかり歌って欲しい」ということだと思います。
「しっかり」というボヤボヤした言葉を使いましたが、これは曲によって、場面によって、色々な修飾語に置き換わると考えてください。
例えば、
- ひときわ美しく
- 情熱的に、熱く
- たっぷりと聴衆にアピールして
- 感情を込めて/詩のイメージを乗せて
- 官能的に
- 残酷に
- グロテスクに
などなどです。
作曲家の立場では、
- 「この音が大事!」
- 「このフレーズが大事!」
- 「この言葉が大事!」
といった、いわばこだわりポイントでテヌートという記号を使います。
作曲家の意図に思いを馳せて表現しよう
テヌートの具体的な歌い方は前に述べました。
それをこなすだけでも間違いではありません。
しかし、(特に合唱において)テヌートというのは感情が伴う記号だということを覚えていただきたいと思います。(少なくとも私はそう思います。)
ですから、テヌートを見つけたとき、良く分からないからと言って無視するのは当然NGですが、機械的に長め/強めに歌って済ますのでなく、
- 「このテヌートにはどんな作曲者のこだわり・意図があるのだろう?」
- 「どんな感情を乗せよう?」
- 「それらを伝えるためにどう歌おう?」
と考えることが非常に重要です。
- テヌートの基本的な意味を知る
- 作曲家の意図を汲み取る
- 歌声に反映させる
というステップで音楽づくりに取り組むと、より深みのある演奏に結びつくのではないかと思います。
テヌートが登場する合唱曲の実例
テヌートが出てくる合唱曲を紹介します。
おいおい追記していく予定です。
とりあえず1曲だけ。大きく曲が盛り上がる手前のアウフタクト、クレッシェンドしながら力を溜める場面で用いられています。
https://esutawachorus.com/haruni_kinoshita_ensemble/
まとめ:テヌートの意味| 歌い方・振り方・他の記号との違い
お読みいただきありがとうございました。
最後に内容をまとめて振り返ってみましょう!
テヌートの意味
テヌートの意味を復習しておきます。
この記事ではいろいろ書きましたが、結局この意味がベースになってきます。
音の長さを充分に保持して、の意。
引用:青島広志(2009). 究極の楽典〔新装版〕 全音楽譜出版社
テヌートの歌い方
ただし、教科書的な意味だけでは実際の演奏・表現に結びつきづらい。
そこでテヌートの意味を少し拡張する必要がありました。
「その音の持っている存在感を充分+α発揮して」
というのが私なりのテヌートの解釈です。
その結果として、
- 強調して
- しっかり響かせて
- 長めにたっぷりと
- アピールして
といった歌い方・表現になってくると思います。
テヌートと他の記号との違い
テヌートにはもともと「音の長さを充分に保持して」という意味がありますので、音が短くなる傾向のあるアクセントなどとは異なります。
また、一つ一つの音符に付き、それぞれを強調する意味もありますので、フレーズ全体を滑らかに繋ぐようなスラーなどの記号とも異なります。
テヌートの振り方
指揮者の立場からすると、テヌートが付いた音符には「重たいアタック感、充実感のある音の出」をイメージします。
そのような音を引き出すため、私が意識しているのは「腕を重く見せること」です。
図形的には叩きよりもしゃくいが適当な場合が多いと考えています。
テヌートを書き込む作曲家の気持ち
作曲からするとテヌートをつけた音は「こだわりポイント」です。
「どのようなこだわりか?」は曲や場面によって違います。
それを読み取り、想像し、歌声に反映させるのが指揮者・プレイヤーのするべきことになってきます。
よりハイレベルな音楽を作り上げていくためには是非モノにしたい記号とも言えますね!
おわりに
テヌートについてかなり語りました。
この記事が、テヌートを「謎の記号」から「演奏のこだわりポイント」にするきっかけとなれば幸いです!