今回はリクエスト依頼をいただいた記事になります。
次のようなメールをいただきました。
今年度、10月に行われる合唱コンクールで中学2年の私のクラスが、深田じゅんこさん作詞、大田桜子さん作曲の「空 〜ぼくらの第2章〜」を歌う予定です。震災に関連した曲でこの曲も大変メッセージ性が強いものです。もしお時間いただけるましたらこの曲に関して解説をいただけますと嬉しいです。
震災を経験していない中学2年生が合唱を通じてどうメッセージを伝えていくか、音楽に関して素人の私には楽譜や音を読めないため、お力をお借りできますでしょうか。
よろしくお願いします。
とのこと。そこで今回の記事ではメッセージを伝える歌い方に重点を置いて解説したいと思います。
【はじめに】メッセージを伝えるために必要なこと【3ステップ】
曲の解説に入る前に、「合唱曲に込められたメッセージを伝えるにはどのようなことに気をつければ良いか」ということに触れておきたいと思います。
次の3ステップで考えてみましょう。
- 合唱の基本をしっかり押さえる
- 楽譜から作詩者・作曲者の意図を読み取る
- メンバー全体で意識・表現を統一する
ステップ1. 基本をしっかり押さえる
合唱を通じてメッセージを伝え用とする場合でも、まずは基本は大切です。
合唱の基本は、音程(ピッチ)やリズムを正確に歌えるようになること。そして、お互いの声をよく聴き合ってハーモニーを整えることです。
「とにかく気持ち! 熱い気持ちを持って歌って!」というような指導をされる場合も、もしかするとあるかもしれません。しかしそれだけでは不十分。
気持ちだけが前のめりになっても、そこに基本的な技術が伴っていなければ効果は半減してしまいます。逆に言うと、基本を押さえた上で気持ちが伴えば、ものすごいエネルギーを生み出せるということになります。
技術というと難しそうですが、心配しなくても大丈夫です。「普段より音程に気をつけよう」「いつもより耳を使って周りの声を聴いてみよう」という意識を持って練習を繰り返せば、少しずつ向上していくはずです。
より高度な内容に関してはこの記事でフォローしていきたいと思います。
ステップ2. 楽譜から作詩者・作曲者の意図を読み取る
音取りと合わせて、最低限の音楽記号を覚えておくことが第2ステップのスタート。
mpやmfなど強弱を表す記号や、rit.などのテンポ変化を表す記号が挙げられます。
これらの記号は作曲者がどのような思いで曲を書いたかを読み取る上での大切なヒントです。また、作曲者は詩を読んでこれらの記号を書き入れますから、同時に作詩者の思いも読み取るヒントにもなります。
これらの記号を、意味が分からないからといってスルーしてしまわないようにしましょう。作詩者・作曲者の意図を無視することになってしまうからです。
合唱の音楽づくりは、作詩者、作曲者、演奏者(みなさんのことです)の3者の共同作業であることを頭に入れておきましょう。
「この曲を歌おう!」と選曲した時点で、その作業は始まっています。作詩者・作曲者の意図を読み取った上で、「自分たちはどう歌いたいか、どう表現するか」を考えるのが、演奏者としての役割です。
3者の思いが別々の方向を向いてしまわないようにしましょう。
ステップ3. メンバー全体で意識・表現を統一する
楽譜から読み取れることはたくさんあります。また、それをどのように表現するかについてもたくさんの方法があります。
合唱は1人でするものではないので、「僕はこう思う」「私はこう歌いたい」というように、メンバーがそれぞれ異なった考えを持つこともあるかもしれません。みんなが違うことを考えるのはとても良いことです。
しかし、最終的に1つの演奏としてまとめるためには、本番までに方向性をそろえていくことも必要になってきます。
そのために大切なのは、「僕はこう思う」「私はこう歌いたい」という気持ちをお互いに話し合い、共有しながら、しっかりと時間を掛けて練習し、試行錯誤していくことです。この過程を経ることで、よりよい解釈・表現に少しずつ近づいていくのです。これについては効率の良い方法というのはなかなかありません。
練習が進むことで新たな発見があったり、アイディアが出てくることもあります。「こうだ」と思っていた結論が変わっていくことはしばしばあります。それもまた悪いことではありません。むしろその過程で音楽表現が深まっていくのです。
「意識・表現を統一」することが必要と書きましたが、「統一」というよりは、「熟成」と言ったほうがよりふさわしいかもしれません。時間をかけることで、音楽がこなれてまとまっていくイメージです。この過程を「発酵」という言葉で表現される指揮者の先生もいらっしゃいます。
さて、ここまでの内容をいったんまとめておきます。
- 合唱の基本をしっかり押さえる
- 楽譜から作詩者・作曲者の意図を読み取る
- メンバー全体で意識・表現を統一する
『空 ~ぼくらの第2章~』の練習番号について
練習番号一覧
具体的な曲の解説に入る前に、まずは練習番号をつけておきましょう。
それぞれの小節に練習番号を書き込んでおいてください。
- 【冒頭】1小節
- 【A】9小節
- 【A’】17小節
- 【B】27小節
- 【C】36小節
- 【C’】44小節
- 【D】52小節
- 【E】61小節
練習番号を利用するメリット
なぜわざわざ練習番号を書き込むのでしょうか。そのメリットは大きく次の2点です。
1点目は練習をスムーズに進められること。次は「今日は【C】の練習をします!」「【E】の手前から復習しましょう」などといった感じです。
2点目は曲全体の構成の理解に役立つこと。場面ごとの役割や繋がりを理解・把握するための手がかりとなります。
特に2点目は重要。練習番号をつけることも作曲者の意図を汲み取ることに役立ちます。
練習番号に基づく曲の分析
ここで練習番号を利用した曲の分析を少しだけしておきたいと思います。より詳しくは後述しますので、ここでは大まかなことだけ述べます。
まずは詩と練習番号の関係について。
楽譜にはタイトルの下にタテ詩(楽譜になる前の縦書きの詩)がレイアウトされていると思います。
詩は数行ずつの連(=小さなまとまり)となっています。練習番号は音楽の展開に着目して付しましたが、同時にこの連にも対応しているのです。つまり、音楽の展開と詩のまとまりとが密接に関わっているということになります。
したがって練習番号に沿って楽譜を読み込むことで、曲だけでなく詩に込められたメッセージにも触れられるということになります。
曲を聞いたり歌ったりするときには、練習番号の切り替わりでどのように音楽が変化しているかという点を考えてみてください。
次ことに注目すると違いが見えてきます。
- 調の変化
- メロディーの変化
- 伴奏のリズムの変化
- 強弱の変化
- テンポの変化
また、音楽の変化を知った上でタテ詩に立ち戻ると、新たな発見できると思います。
曲全体としては、やや影のある雰囲気で序盤が始まり、終盤になるにつれて明るく前向きに、光の指す方向へ主人公(たち)の心情が変化して行っているように私は読み取りました。
『空 ~ぼくらの第2章~』演奏のポイント
ここからは練習番号に沿って詳しく解説していきたいと思います。
それぞれの場面で、どのように音楽が変化しているのかにも触れました。音楽の変化と詩の内容がどう関係しているのか、考えてみてください。
また、それをどのように表現するか、どう歌いたいかまで考え、実現することがでれば、それはもうかなりのレベルです。
>【ポイント6つ】全体練習(アンサンブル)をまとめる方法|合唱指揮者が解説
【冒頭】1小節~|フレーズ感を意識しよう
【冒頭】はピアノパートによる前奏の場面です。
注目したい記号はスラー。音と音とをなめらかに繋げてほしいときに使われる記号ですが、ここではフレーズのまとまりを示す意図で使われています。
つまり、スラーがつけられている範囲が1つのまとまりということです。大体2小節単位になっています。どこがフレーズの始まりで、どこがフレーズの終わりなのかを意識してみましょう。
ちなみに、右手の音形は【C】の”かぎりない やさしさにつつまれて”のメロディーとなっています。ピアノパートも歌詩を思い浮かべながら弾くと、フレーズ感が変わってきます。
> 合唱のピアノ伴奏3つのコツ【歌い手と上手にアンサンブルする方法】
【A】9小節~|”そら”のイメージを持とう
【A】の場面では第1声でもある”そら”という言葉が非常に印象的。タイトルでもあるので、何らかのイメージを持ちたいところです。
主人公である”ぼくら”が呼びかけている”そら”とはどんな空なのか、天候や時間帯をイメージしてみてください。また、”あおいかぜ”はとはどんな風なのか、ここでの青いとはどんな色なのか、風の温度なども考えることもできそうです。
私が楽譜から読み取ったのは空の広がりや距離感、風の透明感です。
その根拠は「ド」の音。”そら”の”そ”や、”かぜのなか”で伸ばす音に使われています。
「ド」の音は【A】の場面のヘ長調(♭1つの長調)では属音に当たります。属音は前向きな推進力を感じさせる音。これが距離感や広がり、透明感に繋がっているように思えます。この点については少し難しいので完璧に分からなくても大丈夫です。距離感がちょっとしたキーワードであることを覚えておいてください。
「ド」の音を歌うときのポイント
ここからは”そらよ”と歌うところに絞り、技術的なポイントを補足しておきます
先ほど、イメージの根拠として「ド」の音を上げました。ものすごく高い音ではないものの、キレイに出すのが難しい音域でもあります。
ここでの音量はmp(メゾピアノ/少し小さく)とそれほど大きくないので、声を張り上げず丁寧に歌いましょう。全員の声をよく聴き合ってピッチや音色をよくそろえることも大切です。
「ド」の音でしばらく伸ばしつつ、お互いの声を溶け合わせるような練習をしてみても良いと思います。うまくいくと声と声が溶け合わさって、空間に響きが満たされるような感覚が得られます。このとき、目をつぶって響きに集中するような工夫もできるかもしれません。
声を遠くに届けるつもりで
“そらよ”の”よ”は音が低くなりますが、”そらよ”という呼びかけなので、響きを落とさずに。暗い声にならないようにしましょう。
遠くに声を届けるつもりで歌うと良いと思います。
sの子音
“そら”という言葉を伝える上で大切なのがsの子音。
上下の前歯の隙間から強く息を吐いた時になるスーッという音がs子音の音です。
この子音をうまく使うことで”そら”の歌詩とイメージを伝えましょう。
>【日本語編】合唱の歌詩(歌詞)・言葉をはっきり伝えるためのコツと練習法
【A’】17小節~|【A’】との違いに注目
【A’】は詩で言うと第2連に対応しています。
【A】が変化した場面なので全体的には似ていますが、違うところもあります。この違いを把握し、詩と関連させて表現してみましょう。
“そらよ”の掛け合い
【A’】では最初に”そらよ”と呼びかけます。【A】との違いは男声→女声とこだまのように掛け合いになっていること。
合唱ではこうしてメロディーをずれて歌うところはアピールポイント。【A】で解説したようにs子音を上手に活かすと、このズレが引き立ちます。
音量変化を読み取る
次に音量に注目しましょう。
【A】ではmpでしたが、【A’】からはmf(メゾフォルテ/少し大きく)になります。
どちらもそれほど極端な音量ではないので、しっかり意識しておかないと両者の区別が曖昧になってしまいます。
メンバー全体で、mpはこれくらい、mfはこれくらいで歌おうという約束を固めていくことも、練習の過程でやっておく必要があります。
音量に関してはもう一つ、24~26小節に掛けて次のような指示があります。
クレッシェンド(だんだん大きく)
↓
f(フォルテ/大きく)
↓
デクレッシェンド(だんだん小さく)
↓
mp
大きくふくらませ、その後いったんおさめて次の【B】に繋げるという流れです。
“みあげた”という歌詩および2拍3連のたっぷりとしたリズム、駆け上がるようなメロディーの音形からすると、ここでのfは”みあげ”ることによる視線の移動と、その先にある“そら”の広がりに対応している、と私は思います。
ちなみにこの場面は【C’】と対応しており、両者をどう歌い分けるかも(かなり高度ですが)ポイントになります。
> クレッシェンド・デクレッシェンドのコツ【合唱の迫力・魅力アップ】
臨時記号のハーモニーは気持ちのにじみ
【A】との違いで特に大きいのが合唱パートのハーモニーの有無です。
【A】では全てユニゾン(全員が同じ音を歌う)でしたが、【A’】では19小節の”こごえたよるも”以降、3パートに分かれてハモるようになります。
どこがユニゾンなのか、どこがハモるのかを知っておくことは大切です。音取りも早くなりますし、ピッチの正確さをよりしっかりと意識できるようになるからです。
ハモるところでは自分のパートだけでなく、周りの音も聞いて「どんなハーモニーになってるかな?」ところを感じ取りながら歌いましょう。
【A’】でのハモリでは、臨時記号(♯や♭)がつく和音であることもポイント。具体的には20小節の”も”や、22小節目の”あるいたひも”ですね。
臨時記号の♯や♭がついた和音では他の部分と比べて色合いがぐっと変わります。
ある時ないときで聴き比べてみるとそれがよく分かるはず。ピアノパートが合唱と同じ和音を弾いているので、臨時記号なしバージョンの伴奏を弾いてもらうと良いかもしれません。
臨時記号がある場合とない場合のコードネームと構成音をまとめておきます。
小節数 | 臨時記号あり | 臨時記号なし |
20小節 | D(レ・ファ♯・ラ) | D(レ・ファ♮・ラ) |
22小節 | Gdim(ソ・シ♭・レ♭) | Gm(ソ・シ♭・レ♮) |
※7thの音は省略しました。
このあたりに和音には”こごえたよるも”、”ひたすらに「いま」をあるいたひも”といった歌詩ににじむ感情が現れているように私には思えます。
臨時記号の音を歌うのはアルトパートです。それだけアルトがハモリの上で重要な役割ということになります。存在感が出せるように、また正確なピッチで歌えるようにしましょう。
【B】27小節~|調とリズムの変化を感じ取ろう
【B】からは詩の第3連となり、音楽的にも大きく変化します。
ヘ長調からニ短調へ
【A】は♭が1つのヘ長調でした。
【B】もフラットの数は同じなので一見同じようですが、実は短調に切り替わっています。♭1つの短調はニ短調です。
短調は通常暗い響きを持っていますが、【B】ではどんよりと暗かったり、悲しかったりするような雰囲気というより、少しドライでかっこ良い雰囲気を感じます。
各調号に対し、調は長調と短調の両方が可能性としてはあり得ます。
今回のようにフラットが1つの場合は、ヘ長調またはニ長調のどちらかになります。
- ヘ長調…ヘ音(=ファ)を中心とする明るい調
- ニ短調…ニ音(=レ)を中心とする暗い調
細かいリズムの登場
【A】のメロディーは8分音符が主体でしたが、【B】からは16分音符や3連符といった、より細かいリズムが使われています。
また、ピアノパートにも注目すると、やはりリズムが変化していることがわかります。【A】の右手は4分音符が中心で、安定した進行感がありました。一方【B】では8分音符を刻んでおり、急き立てるような切迫感を産んでいます。
これらの要素は詩における主人公の心情の変化を反映しているように思います。
【A】と比べると、少しずつ勇気が出てきているような、そんな印象です。
次の音楽をイメージして
34~35小節、”こころによりそう”の2小節間は【C】への繋ぎとなっていますので、【C】をどのような音楽にしたいかを前もってイメージしておくことが大切です。
poco a poco cresc.(少しずつクレッシェンドして)や、poco rit.(少しテンポを遅くして)などの記号を上手に活用しましょう。
【C】36小節~|やさしさ、大らかさを感じて歌おう
ここから詩の第4連に入ります。
再びヘ長調へ
【C】に入り、ここからはヘ長調となります。【B】のときと同じく、調号は変わらずに転調しているパターンです。一聴して明るい雰囲気になっているのが分かると思います。
ちなみに【A】もヘ長調でしたが、比べてみるとどうでしょう。調は同じでも【A】と【C】では雰囲気が違って感じられないでしょうか。
【C】のほうがより光溢れるような雰囲気になっているように感じられます。
これは、次に述べるメロディーや伴奏型の違い、また使われているコードの違いなどが理由として考えられると思います。
大らかなリズム
【C】のメロディーでは、長い音符(=2分音符)が多く使われていることが特徴的です。これにより大らかでたっぷりとした印象が生まれています。
またピアノパートの担当する伴奏は流れるようなアルペジオとなっています。
アルペジオとは、いくつかの音からなる和音を、一度に鳴らすのではなく、順番に鳴らすことを言います。例えば「ファ・ラ・ド」の和音なら、同時に「ファ・ラ・ド」を引くのではなく、一つずつ、「ファ」→「ラ」→「ド」のように引くのがアルペジオです。
この伴奏も、大らかさを感じさせる要素の一つです。
以上のように、調・メロディー・伴奏の変化がそれぞれ”かぎりないやさしさにつつまれて”という歌詩にふさわしく対応しているのですね。
歌う際には、よりいっそうレガートに(なめらかにつなげて)、柔らかい音色で歌えると良いと思います。
逆に、極端なアクセントをつけたり、声を張り上げすぎてしまわないように注意しましょう。
【C’】44小節~|描かれる情景を歌声に託そう
【C’】は詩の第5連にあたります。
微妙な表現が多く難しい場面ですが、取り組みがいもあります。
力強い歩みの表現
【C’】は音楽的には【C】を少々変化させた部分。そのため、調に変化はありません。
異なるのは伴奏の形です。【C】では8分音符のアルペジオでしたが、【C’】では4分音符で刻むようなリズムになっています。
これは歌詩の”あるきだす”を受けた変化で、力強い歩みを表現しているわけです。
ポイントとなるのはメロディーの歌い方です。伴奏と同様に4分音符が主体のメロディーですが、あまりマルカート(ゴツゴツと硬いタッチで歌う)にならず、レガートをキープするほうがより美しいと思います。
なぜなら、歌の基本はレガートだから。リズムに影響されすぎて歌い方をアクセント的なものにしてしまうと、日本語本来の美しさが失われやすいのです。
歩みの力強さはリズムが変化したことだけで十分に効果的な表現となりますので、ご心配なく。
主体・客体の入れ替わり、視線・視界の変化
48~52小節の4小節間はちょっとした聴かせどころ、アピールポイントになる場面です。
この場面で描かれる情景を確認した後、それがどのように音楽表現と結び付けられるかを説明します。
描かれる情景を考える
まずはこの場面で描かれる情景をイメージしてみましょう。
実は、48~52小節と対応する場面が曲の前半にもあります。【A’】の23~26小節の4小節間です。この部分と対比することで答えが見えてきます。
歌詩を並べて比較してみましょう。
- 【A’】…”ぼくらはあなたをみあげた”
- 【C’】…”そらがみつみている”
この曲では”あなた”=”空”と解釈しています。よって、【A’】では”ぼくら”が”そら”を見ているという状況です。一方【C】では”そら”が”ぼくら(のせなか)”を見ているわけです。
見る側と見られる側、主体と客体が入れ替わっているのですね。また、”みあげる”と”みつめる”では視線の向き、視界の広がり方が変わってきます。
これらのことから、私の脳裏に思い浮かぶイメージは次のようなものです。
- 【A’】…立ち止まっているぼくら、前方に空が広がっている
- 【C’】…歩き始めているぼくら、後方に空が広がっている
もちろんこれが唯一の答えではありません。他にも可能性はたくさんあると思うので、自由に考えてもらって構いません。
大切なのは自分たちなりの解釈にたどり着くことです。
印象的な”そら”
次にこの場面での音楽的な要素を分析していきましょう。
まず”そらが”と、再びこの曲のタイトルにもある”そら”という言葉が出てきます。
これまで掛け合い(女声→男声と交互に歌う)の場面だったところから、ここでタテ(歌うタイミング)がそろいます。
加えて”らが”でユニゾンとなることで、メロディーの輪郭が一気にくっきりとし、“そら”という言葉が非常に印象的なものになっています。
メロディーの音形
続いてはソプラノのメロディーに注目。
“そらが”でこの4小節における最低音「ファ」が出てきます。ブレスをとった後、”みつめている”は緩やかに上行していくメロディーとなっています。
強弱
書かれてはいませんが、”みつめて”あたりでは、先ほど述べたとおり、メロディーが上行形ですので緩やかなクレッシェンドを感じさせる場面となっています。
ロングトーンに入って51小節目ではデクレッシェンド。
つまり、真ん中が膨らむような強弱になっています。
ハーモニーの厚み
“そらが”は先ほど触れた通りユニゾン、つまりハモリはなしです。
次に”みつめて”まではソプラノと男声は同じ音でアルトだけがハモっています。つまり音が2つのハモリ。
そして”いる”はソプラノ・アルト・男声がそれぞれ異なる音を歌う、3つの音のハモリです。
つまり、1つの音からじわじわと広がっていくような作りになっています。
コードの連結とデクレッシェンド
50~51小節はずっと遠くに続いていくようなコードの連結。最後はデクレッシェンド(だんだん小さく)があります。
コード進行は次の通り。
- Gm7 → C
Gm7の第7音である「ファ」の音が、Cの「ミ」に解決することが距離感の印象を醸し出しています。
情景を歌声に託す
以上のように、この4小節間は作曲者の工夫が詰まった濃密なフレーズとなっています。
それでは、このようにイメージした情景をどのように歌声に託すか、という点を考えてみます。
キーワードになるのは広がり、距離感です。
- メロディーの上行・ハーモニーの広がり → 空の広がり
- コードの解決・デクレッシェンド → 空が遠ざかっていく距離感
このようなことを整理して頭に入れておくと、【A’】【C’】での心情の変化を歌い分けることにつながると思います。
ここで解説した内容はかなり難しいのですが、なんとなくでもかまわないので、何か感じてみてください。
【D】52小節~|強い意志を持って、クライマックスへ向かおう
【D】はいよいよ曲のラストに向かっていく場面です。
再びニ短調へ
ここで再びヘ長調からニ短調になっています。
【B】と同じく、悲しみというよりは、勇ましさなどを感じさせます。
また、この曲ではヘ長調⇔ニ短調が交互に現れる構成になっていることも分かります。
メロディー・伴奏の違い
【C】や【C’】と比べたとき、新要素として小さめの3連符”きぼう”や”ぼくら”などが登場します。
これによって語りかけるようなメロディーになっており、【C】のおおらかさに対し、確固とした意志を感じさせます。
また、ピアノパートを見てみると、右手は4分音符が主体で一見【C’】と同じようですが、左手に違いがあります。
付点4分音符のリズムが登場しており、これによって力強い推進力が生まれています。ぐいぐいと突き進むような感じがあります。
【E】への盛り上げ
59~60小節は大きな聴かせどころとなっています。役割としては次の【E】へ向かって盛り上げていくこと。
いくつかのポイントに絞って解説します。
転調の前触れ
この後説明しますが、【E】からはハ長調へ転調します。
この2小節間はその前触れとなる音が登場しています。「ファ♯」「シ♮」など、臨時記号がつく音です。
こうした音で外さないように、明瞭なピッチで歌えるようにしておきましょう。
「ファ♯」はハ長調の中にある音ではありませんが、ハ長調のさらに向こうにあるト長調から借りてきた音になります。
D → G → Cというコード進行は非常によく使われるもの。
このときのDはドッペルドミナントと呼ばれます。
ロングトーンのキープ
60小節のロングトーンでは次のようなことに気をつけましょう。
- ピッチをキープして
- ハーモニーを大事に
- 音量が落ちないように
ピアノパートにクレッシェンドがあるので、それにあわせて大きくしていくくらいの気持ちがあっても良いと思います。
また、ややrit.があっても良いと思います。ここでタメて、より大きく盛り上げるわけです。
【E】61小節~|堂々と歌い上げてドラマを集大成しよう
【E】がこの曲のおける最後の場面です。最後らしく、音楽的にも大きな変化があります。
これまで色々な場面と心情の変化・ドラマがありましたが、全てがこの場面に集約されます。
新たな調、ハ長調へ
これまでのパターンから言うと、次はヘ長調にいくところですが、【E】では新たな調、ハ長調に進みます。
ヘ長調と比べると、非常に輝かしい明るさのある調です。
メロディーの音域も上がることでラストらしい迫力も生まれています。
最大音量の登場
また、ここで登場するff(フォルティッシモ/とても強く)はこの曲で最大の音量で、これ以前には登場していませんでした。ずっと「出し惜しみ」してきたわけです。
通して演奏する際にはラストに最大音量があることを念頭に、全体を構成した上でここまで歌ってくる必要があるのです。
テンポの変化
【E】からはテンポが4分音符=88になります。
この曲の基本となるテンポは、冒頭に書いてある4分音符=96くらい。そこと比べてゆっくりになっているということになります。
ここではテンポを少し落とし、たっぷり、堂々と歌い上げるようにしましょう。
男声のメロディーは重要
【E】はまず女声から歌い始め、続いて男声が入るという掛け合いの流れになっています。
このときの男声のメロディーが非常に重要。この部分の歌詩は男声しか歌わないからです。
メロディーをしっかり歌うだけでなく、言葉を伝えることも意識できるとよいでしょう。
フィナーレを締めくくろう
67~69小節の歌い方は曲のフィナーレを締めくくる上で大切です。
ポイントがいくつかあります。
テヌート的な歌い方で
ここの4分音符はすべてにテヌートがついているような感じで歌うと良いと思います。
テヌートの意味は音の長さを十分に保ってですが一つひとつの音符が短くならないよう、充実した響き・重さをもたせるイメージです。
> テヌートの意味とは?| 歌い方・振り方・他の記号との違いを解説!
rit.もしっかりと
rit.(リタルダンド/次第にゆっくりと)も書かれています。
このテンポの緩みが不十分だと、やはりあっさりし過ぎた感じで曲が終わってしまいます。
ロングトーンをキープ
最後のロングトーンは、ピッチが下がったり、音量が落ちたりしないよう、しっかりキープして歌い切りましょう。
フレーズを最後まで歌い切るためにはブレス(息継ぎ)も重要です。
“このふるさとで”に入る直前にブレス記号がありますから、ここでたっぷりと息を体に入れておきましょう。
> 【合唱初心者向け】呼吸法・ブレスのやり方・コツ【5ステップで解説】
> 【合唱で役立つ】ロングトーン/伸ばす音のコツと練習法【上質な演奏へ】
ピアノパートの後奏
ピアノパートの後奏はf → mf → mpとだんだん小さくなっていきます。
少しずつ遠くへ、旅立っていくようなイメージで弾きましょう。
まとめ:心の動きを音楽のドラマに乗せて
最後までごらんいただきありがとうございました。
この記事のテーマでもあった、「メッセージを伝える歌い方」と練習番号ごとのポイントを振り返っておきます。
[メッセージを伝えるために必要なこと]
- 合唱の基本をしっかり押さえる
- 楽譜から作詩者・作曲者の意図を読み取る
- メンバー全体で意識・表現を統一する
[練習番号ごとのポイント]
- 【冒頭】1小節~|フレーズ感を意識しよう
- 【A】9小節~|”そら”のイメージを持とう
- 【A’】17小節~|【A’】との違いに注目
- 【B】27小節~|調とリズムの変化を感じ取ろう
- 【C】36小節~|やさしさ、大らかさを感じて歌おう
- 【C’】44小節~|描かれる情景を歌声に託そう
- 【D】52小節~|強い意志を持って、クライマックスへ向かおう
- 【E】61小節~|堂々と歌い上げてドラマを集大成しよう
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