『走る川』は水をテーマにした組曲『水の翼』のうちの1曲で、川の姿を生き生きと、鮮やかに描いた作品です。コンクールなどでも人気がありますね。
この記事では練習を進める上でのポイントやコツを詳しく解説しました。
より感動的で説得力のある演奏にするために重要となる、「曲の構成感」についても触れています。
ぜひ最後までご覧ください。
(2024/06/22 追記)
各ポイントについて、具体的な練習方法を追記しました。
(2024/09/07 追記)
指揮のポイント・関連記事のリンクを追記しました。
もくじ
『走る川』の練習番号と全体の構成感について
教育芸術社「MY SONG(7訂版)」に収録されている楽譜では、あらかじめ練習番号がつけられています。ぜひ活用しましょう。
ここでは練習番号を使って、曲全体の構成を分析していきたいと思います。
曲の全体像、構成をつかむことは、音楽を作っていく際の重要な指針となります。
構成をしっかり把握して、それに応じた表現をしていくことは、より説得力のある、感動的な演奏に繋がります。
逆に、構成の理解を曖昧にしたまま演奏に臨んでしまうと、『走る川』のように比較的長い曲では、散漫で冗長な印象に終わってしまう恐れがあります。
『走る川』は、次の4つの場面に分けられ、【A】が場面Ⅰ、【B】【C】が場面Ⅱ、【D】【E】が場面Ⅲ、【F】【G】が場面Ⅳとなります。
Ⅰ~Ⅳは詩の内容のまとまりと対応しており、それに沿うようにして音楽的にも大きな変化があります。
それぞれの場面の特徴を以下のようにまとめました。
- Ⅰ…快速なテンポ、畳み掛けるようなリズムで流れる川の躍動感を表現
- Ⅱ…流れるようなメロディー,川の様々な表情を美しく表現
- Ⅲ…再び快速なテンポ、激しい展開で力強い意思を表現
- Ⅳ…輝かしい転調、広がりのあるフレーズで堂々たるクライマックスを表現
このような特徴をつかみ、それに応じた記号の解釈や歌い方をしていくと、非常に良い演奏になります。
『走る川』練習のポイント
ここからは、練習番号ごとにポイントを解説していきたいと思います。
細かいポイントを練習するときでも、先程まとめた4つの場面のどこに当たるのかを思い浮かべながら取り組んでください。
【A】基本事項をしっかり押さえて
【A】の場面では合唱でエッセンスとなる要素がまんべんなく登場します。
特に次の5つに注目してみましょう。
- テンポ感
- 歌詩(言葉)
- 音符の長さ
- ユニゾンとハモリ
- 強弱のつけ方
【A】は合唱が最初に歌い出すいわば「つかみ」の場面です。基本事項をしっかり練習しておけば、より強く印象付けることができるはず。
以下、それぞれのポイントについて、それぞれ詳しく解説します。
基本ゆえに、他の場面でも応用することができます。しっかり押さえましょう。
1. テンポ感
冒頭からテンポは「四分音符=144」の速いテンポです。これに遅れないように集中しましょう。
特に大切なのは”いわをかみ”、”しぶきをあげ”、”うおをおし”の下線部のような歌い出しの箇所の食いつきです。
指揮者の人は、明確にテンポ感をイメージし、自分で音楽を引っ張る気持ちを持って降りましょう。
2. 歌詩(言葉)
合唱には歌詩がついています。この歌詩(言葉)をしっかり伝えたいですね。
そのために必要なのが子音です。「か」というときのk、「さ」というときのsが子音に当たります。
ポイントとなる子音は以下の通り。
- “いわをかみ”のk
- “しぶきをあげ”のs
- “かぜをさき”のk,s
- “ふりかえらず”のf
- “みずははしる”のm,h
これらの箇所では、子音を早め、長めに歌うことで言葉クリアに届けることができます。
子音を強調すると歌い方が乱暴になってしまいがちになるので、その点には注意しましょう。
イメージがつきにくい場合は演奏音源を聴くのも有効です。
3. 音符の長さ
音符の長さが全員でピタッと合っていると、キビキビとして気持ちの良い演奏になります。
特に注意したいのが”いわをかみ”、”しぶきをあげ”の四分音符。
短く切りすぎないよう、逆に長くなって休符にかからないようにしましょう。
休符のある3拍目ちょうどで音を切るようなイメージを持つと揃いやすいと思います。
指揮者の人も休符のイメージを持って、必要に応じて休符のところで音を切る動きができると良いでしょう。
ここで触れた4分音符について、Youtubeなどにアップされた演奏では短く切っているものが多いのですが、私はあまり好きではありません。
短く切ることで、緊張感が表現できるような効果はあるのですが、楽譜からの逸脱具合が大きすぎるように思えるからです。
作曲者の意図として、もし短く切ってほしいなら、8分音符を使ったり、4分音符の上にスタッカートをつけるはずです。
そうでないのなら、4分音符は1拍分の長さを保って欲しい、と思っているはず。
私はそのように読み取ります。
4. ユニゾンとハモリ
ユニゾンというのは全員で同じ音を歌うこと。ハモリはパートごとに異なる音を歌ってハーモニーを作ることです。
注目したいのは18~21小節にかけて、”いっしんに はしる はしる”というフレーズ。
ユニゾンから始まって、次第に音が分かれ、最後は3つの音からなる和音になっています。
まとめると次のようになります。
- ”いっしんに”…ユニゾン
- “はしる”…女声+男声(ソプラノ、アルトは同じ音)
- “はしる”…ソプラノ+アルト+男声
ユニゾンでは同じ音を全員でピッタリと合わせること。そこから音が増えるにつれて、響きが広がっていくようなイメージを持って歌いましょう。
どこがユニゾンか、どこがハモリかを把握しておくことは、響きの透明感や豊かさを作るために非常に重要になります。他のフレーズでも同様に分析してみてください。
5. 強弱の付け方
【A】では細かく強弱の記号が付けられていることも特徴です。
それぞれの意味をしっかり共有しておきましょう。
21小節でfを迎え、場面Ⅰでの山場を作ります。
指揮者の人はフレーズの山場に向かって、図形を大きくして降りましょう。
【B】メロディーを美しく歌おう
【B】にになると、激しめだった【A】とは打って変わって、落ち着いたテンポの、穏やかな音楽となります。
そこでメロディーはレガート(なめらかに)、柔らかい音色で歌うようにすると、場面にマッチした表現になります。
合唱のメロディーの間に挟まれるピアノパートのキラキラした動きとも息を合わせられると、大変美しい描写となると思います。
指揮者の人はレガートのフレーズは、腕を滑らかに動かすことを意識してください。
また、男声の入り、女声の入りではそれぞれのパートに向かってキューを出せると非常に良いと思います。
キュー出しの際には、パートの方に視線・体・腕を向けて振ってみてください。
このとき、「どんな声で歌ってほしいか」「どんな歌い方をしてほしいか」をイメージし、ブレスを取ることも大事です。
【C】リズムの対比で多彩な水の姿を歌おう
【B】に引き続いて情景を描くような場面ですが、Piu mosso(テンポを前より早く)や、3連符と言った新要素が登場し、音楽に少し動きが出てきています。
“たきをらっかし”、”うずまく”といった水の動きに合わせた表現となっていますね。
“たきをらっかし”や”うずまく”では細かい3連符の粒感を際立たせ、”すべり”、”はやせとなる”ではレガートに歌うというように、リズムを対比させることで、多彩な水の姿を効果的に表現できると思います。
指揮者の人はレガート(なめらか)⇔マルカート(固め)の振り分けができると良いでしょう。
レガートなフレーズはなめらかにゆったりと振り、マルカートのフレーズは腕に力や緊張感を持たせて素早く振ります。
また、手の形を変えることも有効なテクニックです。
【D】強弱のメリハリでアピールしよう
再びテンポがもどり、激しめの音楽となります。
mp~fと幅広いダイナミクスレンジ(強弱の幅)を活かすことで、劇的な場面を作ることができます。
指揮者の人も強弱を意識して、思い切って表現してください。
特に、小さいところでは歌い手に「歌わせない」ことも時に大切です。
【E】アーティキュレーションに意思を乗せよう
【E】ではこれまでになかった記号が出てきます。
アクセント(その音を目立たせて)とテヌート(音の長さを十分に保って)です。
どちらの記号も、その音符を強調するような意図で使われます。
違いのイメージとしては、アクセントは固く、強く、激しいタッチ。
それに対し、テヌートはこってりというか、ネットリというか、重さがあるというか、そんなイメージです。
これらの記号をうまく表現して、”ふくつのけつい”という力強さを表現しましょう。
指揮で言葉のニュアンスやそれに伴うテヌート・アクセントを表現する際には、腕・体の緊張感、そしてブレスが特に大切です。
【F】輝かしく、広がりのあるフレーズ感で
【F】から場面Ⅳに入ります。ここで押さえたいポイントは次の3つ。それぞれ解説します。
- 転調
- ハーモニー
- フレーズ
1. 転調
【F】での最大の特徴はロ長調へ転調していることです。
非常に輝かしく、荘厳なイメージの調です。有名な『大地讃頌』でも使われる調ですね。
ここで色彩感がガラッと変わることを感じ取るようにしましょう。
2. ハーモニー
【F】以降、男声が分かれて全体で4パートになることが出てきます。これによってより豊かで重厚なハーモニーとなります。
分かれた↓のパート、ベースは合唱全体を支える土台としての役割を担います。しっかり鳴らして欲しいところ。
↑のパート、テノールは内声の役割となりますので、普段よりもさらに繊細なピッチコントロールが要求されます。ソプラノ、アルト、ベースの声をよく聴いて、響きが溶け合うように歌いましょう。
3. フレーズ
ここではフレーズのまとまりを大きく捉えると、堂々としてスケール感の大きな演奏になります。
どこからどこまでをひとまとまりとするかは、ブレス記号を境目にすると考えやすいです。
例えば、”やがて だいちは ひろがる”というところでは、それぞれの言葉でメロディーが途切れることなく、滔々と流れていくように歌えると良いでしょう。
長めのフレーズを歌い切るには、歌い出す前に深くブレスを取っておくことも大切です。
指揮者の人も同様にブレスは大事になります。
フレーズのまとまりを意識して、ブレスと予備運動(振って拍を示す直前の動き)を大きく取りましょう。
【G】迫力とハーモニーの美しさを両立しよう
基本的な歌い方は【F】と共通で良いと思います。
最後に登場するffで曲全体のクライマックスとなります。
豊かな声量で、しかし声を張り上げたせいでハーモニーが破綻するといったことがないように練習しましょう。
ラストのロングトーンのハーモニーを確認しておきます。
- ソプラノ↑…「ファ♯」=第5音
- ソプラノ↓…「レ♯」=第3音
- アルト…「シ」…根音
- テノール…「レ♯」=第3音
- ベース…「シ」=根音
全体ではH-dur(ハー・デュア)といって、ロ長調の主和音となります。
音が5つもあって難しそうですが、実は同じ音を歌っているパートがあることが分かります。
ソプラノ↓とテノールの「レ♯」、アルトとベースの「シ」ですね。
同じ音がピタッと揃っていることは大事ですので、これらのパートのみを取り出して練習のも良いでしょう。
「シ」の音は根音(こんおん)と言って、和音の土台となる音ですので、特にしっかりと歌いたい音です。
そして、音を断ち切り、曲の最後を締めくくるのは指揮者の重要な仕事です。
会場にどのように響きが残ってほしいかかイメージして、音を切ります。
片手、あるいは両手を使っても良いので、力強い動きで示しましょう。
『走る川』のポイントまとめ
- 【A】基本事項をしっかり押さえて
- 【B】メロディーを美しく
- 【C】リズムの対比で多彩な水の姿を歌おう
- 【D】強弱のメリハリでアピールしよう
- 【E】アーティキュレーションに意思を乗せよう
- 【F】輝かしく、広がりのあるフレーズ感で
- 【G】迫力とハーモニーの美しさを両立しよう
『走る川』は合唱らしい要素を備え、場面の変化も多彩で歌い甲斐のある作品です。
コンクールでのアピールにも向いているでしょう。
健闘を期待しています。
より詳しく解説してほしい場合は、お問い合わせからご連絡いただければと思います。知りたいことを具体的に書き添えていただけますと、助かります。