リクエストをいただいた方へ
メールにて連絡が取れなかったのでここに書いておきます。
このブログを見つけていただいて、またリクエストもいただきありがとうございます。大変嬉しいです。
もし本番に間に合えばですが、この記事の内容を役立てていただければ幸いです。
分かりにくかったり、もっと詳しく知りたい部分などあったらお問い合わせフォームなどから連絡いただければ対応します。
今回はこんな声に答えます。
『僕が一番欲しかったもの』は槇原敬之さんの楽曲を西條太貴さんが合唱にアレンジしたもので、原曲のノリが生きた合唱アレンジとなっています。
この記事では歌い方のコツや演奏するときのポイント、練習方法のアドバイスなどを合唱歴10年以上、合唱指揮者歴5年以上の筆者が詳しく解説したいと思います。
「楽しく、しかもクオリティの高いパフォーマンスをしたい!」という人の助けになればと思います。
もくじ
『僕が一番欲しかったもの』の練習番号について
練習番号は今回参考にしている楽譜にあらかじめに付されていますので、そのまま利用します。
非常に明快で分かりやすく練習番号が付けられており、楽曲の分析もやりやすくなっています。
練習番号を利用するメリットは大きく次の2点が挙げられます。
1点目は練習をスムーズに進められること。次は「今日は【C】の練習をします!」「【E】の手前から復習しましょう」などといった感じです。
2点目は曲全体の構成の理解に役立つこと。場面ごとの役割や繋がりを理解・把握するための手がかりとなります。
構成を理解することは、緻密な音楽表現をしていく上でとても大切なことです。
『僕が一番欲しかったもの』全体的なポイント|「ポップスらしさ」を活かそう
練習番号ごとの細かい解説に進む前に、まずは全体的なポイントについて触れておきます。
最初にも言ったように、『僕が一番欲しかったもの』はもともとは槇原敬之さんのポップス作品で、それを合唱に編曲したものとなっています。
このような曲を合唱アレンジで歌う際には、原曲の「らしさ」や「良さ」が十分に発揮されるように練習していく必要があります。
この「らしさ」「良さ」を生むために必要なのは、次の3つをポイントです。
- リズムの攻略
- 曲の構成の理解・把握
- ピアノパートの変化を感じとること
ポイント1. リズムの攻略
ポップスの命と言っても過言ではないほど重要なのがリズムです。
『僕が一番欲しかったもの』で特徴的なのがシャッフルとシンコペーション。
楽譜の最初に16分音符×2を2:1に分けるような指示がありますね。これがシャッフル。2つ並んだ16分音符のうち、後ろの音符を引きずる(後ろに行く)ようなリズムとなります。言葉で説明すると難しいですが、原曲を聞いてみるとノリがつかめるでしょう。
また、シンコペーションというのはタイで繋がった音符のリズムのこと。これによってビート(拍子)をまたぐことで、軽快さが生まれます。
これらのリズムが際立たせることで、この曲の「らしさ」「良さ」が出てきます。
逆に甘くなってしまう、つまりリズムが曖昧になったりメンバー同士でずれたりしてしまうと、曲の印象がもやもやとして、爽快感のない演奏になってしまいます。
テンポはキープ(遅くなったり早くなったりしないように)しながら、ノリよく歌えると良いでしょう。
リズムの練習する方法としてリズム読みがあります。これはピッチ(音の高さ)を無視してリズムだけを読んで歌う練習法です。これによって音の高さを気にせず、リズムだけに集中できます。
リズムをマスターしてから音取りに進むことで、練習効率を高めることができます。また、初期の段階ではメンバー全員で手拍子をしながら歌うと、リズム感の共有もできるでしょう。
また、いろいろなテンポで練習してみることも効果的。極端にゆっくり歌ってみたり、逆に速く歌ってみたりしてみましょう。
ゆっくりとしたテンポで歌うと、リズムが合っていない部分が浮き彫りにできます。もしそうであればメンバー同士でリズム感の共有を徹底しましょう。
逆に速く歌うと、軽快なノリがつかみやすくなり、この曲の新しい「良さ」「魅力」を発見することに繋がると思います。
もちろん本番が近づいてきたら、本番で歌うテンポで練習しましょう。
ここまでポップスにおけるリズムの重要さをお伝えしてきました。
また、リズムがメンバー内で揃わないといけないことにも触れました。
一方、それとは矛盾するようなのですが、杓子定規になりすぎず、言うなれば「気楽に」アンサンブルに望むこともまた大切です。
とことん正確に歌おうとすると、あまりに生真面目でこわばった演奏になってしまう危険性があります。
楽譜に厳密に合わせて歌うことより、メンバー同士でリズム感とノリが共有されているほうがよっぽど大切です。
この「リズム感とノリの共有」は一朝一夕にできることではありません。
ですが、練習を楽しみつつ、しっかり時間を掛けることで、きっと出来てきます。
繰り返しになりますが、リズムはポップスのキモなので、トライしてみてください。
ポイント2. 曲の構成の把握
ポップスを演奏するときは曲の構成を把握することも大切です。
場面ごとの役割に応じた歌い方をすることで、ドラマのある、メリハリの効いた演奏に繋がります。
この曲の構成を簡単に分析すると以下のようになっています。
- 【冒頭】…前奏
- 【A】…Aメロ
- 【B】…Aメロ繰り返し
- 【C】…Bメロ
- 【D】…サビ
- 【E】…間奏
- 【F】…Aメロ
- 【G】…Aメロ繰り返し
- 【H】…Bメロ
- 【I】…サビ
- 【J】…Cメロ
- 【K】…サビ
- 【L】…サビ繰り返し
- 【M】…エンディング
ということで、この曲はスタンダードなポップスの構成となっています。
【A】~【D】が1番、【F】~【I】が2番、【J】~【L】が3番と言って良いでしょう。
Aメロはいわゆる前ウタ部分。大きく盛り上げず、語るように、喋りかけるように歌います。
BメロはAメロの音楽を引き継いで展開させつつ、サビとの繋ぎの役割となっています。
サビはもちろん盛り上がる部分ですが、1番のサビ・2番のサビ・3番のサビはそれぞれ歌い方を変える必要があるでしょう。
ポイント3. ピアノパートの変化を感じ取る
曲の構成の分析をする際に、あわせてピアノパートにも着目しておきましょう。
ピアノパートは単なる伴奏ではなく、曲全体の雰囲気をガラリと変えてしまうような影響力があります。
この編曲では原曲におけるパーカッションの変化の再現などを意図して、ピアノパートに細かな変化がつけられています。
詳しくは練習番号ごとの解説にて触れますが、ピアノと合わせるときは意識して聴いてみましょう。
『僕が一番欲しかったもの』の全体練習(アンサンブル)のポイント
ここからは練習番号に沿って詳しく解説していきたいと思います。
【冒頭】1小節~
ピアノパートの前奏はこれから始まる曲調を予感させる場面です。
やはりシャッフルのリズムが印象の決め手ですので、カッコよく弾けると良いですね。
【A】5小節~
【A】は構成的にはAメロ部分。どのように歌ったら良いのか解説していきます。
「語るように」を意識して
Aメロはいわゆる前ウタ的な部分。ここではまだ盛り上げず、語りかけるように歌います。
音量的にもmp(メゾピアノ/少し小さく)となっています。
細かい音符のコトバ読みの練習はしっかりと
『僕が一番欲しかったもの』では、Aメロはじめ多くの部分がポップス特有の細かいリズムとなっています。
リズムの重要性は最初に言ったとおりですが、あわせて歌詩を伝えることも大切です。
音符が細かいと喋るだけでも大変なので、次の2点を押さえて練習しておきましょう。
- 歌い出しで遅れない
- 頭の文字(=語頭)の子音を早めに出す
高い音の歌い方
細かいですが、注意してい欲しいフレーズがあります。
11小節目の”だれかが”の”が”です。
音が上がっていって高くなる上、ガ行の言葉は汚くなりがちです。
- 音形につられて必要以上に大きくならない
- 鼻濁音をする
- 「ア」母音で開きすぎない(口をむやみに開けない)
このようなことを気をつけて歌うときれいに歌えます。
【B】13小節~
練習番号【B】は【A】の流れを引き継いだAメロの繰り返し部分です。
【A】のノリを引き継ごう
【A】は男声、【B】は女声が主役です。
パートは変わりますが、そのせいでリズム感・ノリが全然別物になってしまうと、音楽として違和感がある仕上がりになってしまいます。
全員が同じタイミングで歌う箇所でなくても、ノリは共有しておく必要があるでしょう。
練習のときは楽譜を無視して、【A】【B】ともに全員で(ソプラノ・アルト・男声で)歌うことも有効です。練習のときは全員メロディーを歌ってもOKです。
ユニゾンとハモりのバランス
【B】の特徴はまず女声が主役に変わること。そして、【A】はユニゾンだったのが、【B】ではハモることです。
女声がさらに分かれて歌うことで、必然的に人数が少なくなります。
メロディーのラインが細く、頼りなくならないように。またハモリのパートがメロディーを支えられるよう、しっかり目に歌うと良いバランスです。
ただし、アルトの低い音は出にくい場合はあまり無理せず、逆にバラついて汚くならないようにしましょう。
“いう”は”ゆう”で統一OK
“いう”の歌詩は”ゆう”という発音のほうが歌いやすいと思います。
統一してあればOKです。
【C】21小節~
【C】はBメロ。少し変化をつけ、サビに向かう繋ぎの役割もあります。
男声の半音進行のライン
”Uh”で歌う男声の音は「ソ→ソ♯→ラ」と半音ずつ上がっていく半音進行のラインです。
特に音量変化の指示はありませんが、このラインおよびコード進行はじわじわと盛り上がっていくような印象をもたらします。
音と音が途切れないよう、また音が上がるときにガタつかないよう滑らかに歌うと、その効果を十分に機能させることができます。
ここのコード進行は「G→G♯dim.→Am」となっています。
真ん中のコードはディミニッシュ、特に半音進行のラインが含まれている場合はパッシングディミニッシュなどと呼ばれます。
一旦不安な響きのディミニッシュを経由するのがミソ。
じわじわ盛り上げたい場面では定番の進行です。
サビへの繋ぎ、次の音楽を予感して
【C】はサビへつなぐ役割を持っている場面です。
次の音楽はどうなるのか、明確にイメージを持って歌いましょう。
後にも触れるように、1回目のサビは大きなクライマックスではありませんが、ある程度の山場であることは間違いないでしょう。
そこに持っていくためにも、24小節目のロングトーンは、クレッシェンドは書かれていませんが、減衰せずにしっかりと伸ばしましょう。
音の長さも大切で、3拍目でアルトの音が変わり、これによって和音が完成します。
3拍目に入った瞬間ではなく、4拍めの頭ギリギリまで音を伸ばすようにします。
アルトの音が変わってから1拍分というようにカウントしても良いでしょう。
()の音符は歌いやすい方で
21小節目の”き”には()つきの音符が書かれています。
()なしの音符は原曲通りのメロディー、()つきのほうは原曲のメロディーが低すぎて歌えなかったり、響きが十分に得られないときにはこちらで歌っても良いですよ、という配慮がされているものです。
歌いやすい方で統一すると良いでしょう。
【D】25小節~
ここからいよいよ1回目のサビとなります。
合計で3回あるこの曲のサビは、歌いわけが非常に大切だと私は考えています。
全体の構成を理解して盛り上げよう
【D】から音量はmf(メゾフォルテ/少し強く)となっています。
記号の意味は調べれば分かることなのですが、更に掘り下げてみましょう。
ここて大切なのは、「編曲者がどのような音楽的構成を意図しているか」、言い換えると、「なぜここでこの記号を使ったのか」を汲み取ることです。
少し先まで見据えて3回のサビを比較してみましょう。
- 【D】1回目のサビ→mf
- 【I】2回目のサビ→f
- 【K】3回目のサビ→piu f + 転調
このように曲全体を通して、サビの音量指示は大きくなっていくことが分かります。
つまり、「曲が進むに連れてどんどん盛り上げていって欲しい」という編曲者の意図があることが分かります。
逆にやってはいけないのは、サビだからといって毎回全力で盛り上げてしまうことです。
これでは全体のメリハリが無くなってしまいますし、場合によってはだんだん力尽きていって、尻すぼみになってしまう可能性もあります。
これでは編曲者の思っていたイメージとは完全に反対ですね。
音の広がりを感じよう
【D】からはソプラノ、アルト、男声の3パートがはじめてそろって歌詩を歌います。
人数的にも増えますし、3パートがそれぞれ別の音を歌ってハモることで、一気にサウンドの広がりや豊かさがでてきます。
ポップスらしさを醸し出すことの重要さをこれまで強調してきましたが、このサビの部分では、そこに合唱ならではの良さが加わります。
それを意識するだけでも音は変わりますし、余裕があればどのような和音になっているかも研究してみましょう。
この楽譜にはコードネームも書かれていますので、どんな和音(コード)になっているかを確認することができます。
サビ部分のコードネームと構成音を書いておくので参考にしてください。(一番左がルート音)
- Am…「ラ」「ド」「ミ」
- C/E…「ミ」「ド」「ソ」
- F…「ファ」「ラ」「ド」
- Dm7…「レ」「ファ」「ラ」「ド」
- G9…「ソ」「シ」「レ」「ファ」「ラ」
- C…「ド」「ミ」「ソ」
パートごとの役割の違いを意識しよう
【D】の最初の2小節分は全員が同じタイミングで同じ歌詩を歌います。tutti、いわゆるタテがそろっている部分です。
【D】3小節目の後半から少しずれて、掛け合い的な場面になっていますね。
こういった場面ではパートごとの役割を意識することが重要です。
28小節目の男声は、ずれて歌詩を歌います。特に入りをしっかりアピールできるようにしましょう。
29小節目の”なんども”からはソプラノと合流しますので、タイミングがずれないように、聴き合いながら入ります。
歌詩の掛け合いに加えてもう一つ大切なのが”Lu”で歌うパートの役割です。アルトや男声に登場しますね。(”Lu”や”Ah”で歌うことをヴォカリーズと呼ぶことがあります。)
今回であれば、ヴォカリーズの付点16分音符や、タイでつながったシンコペーションのリズムを立たせるために、ややアクセント的な、硬めのタッチで歌うと良いと思います。
ピアノパートと合わせて非常にかっこよいフレーズとなっています。
ただし、メインのメロディーを歌っているソプラノをかき消してしまわないように、バランスにも配慮しましょう。
クレッシェンドは自然に
31小節目にはクレッシェンドが書かれています。
意味としてはだんだん大きくなので盛り上がるわけですが、この1回目のサビは、3回のサビのうち、最も落ち着いた音楽となっています。
そのため、このクレッシェンドは強調しすぎることなく、音形に沿って自然に大きくなる程度が良いと思います。
ソプラノは上昇音形で音が高くなっていくので、ある程度勝手に声は大きくなるはずです。
フレーズの収め方、1番の〆
さきほど解説したクレッシェンドよりも、むしろ大切なのが32小節目にあるデクレシェンドです。
ここで音楽を落ち着かせることで1コーラス目を締めくくることになります。
このデクレッシェンドでのポイントは以下の通り。
ポイント1. 長さを守る
タイで4分音符と繋がっており、3拍目いっぱいまで音が伸びるのが正解です。
4拍目に入る直前で音を切るイメージを持つと合わせやすいと思います。
あるいは、4拍目ちょうどで全員がブレスを取る(息を吸う)という方法がやりやすいかもしれません。
ポイント2. 小さくなっても消えない
デクレッシェンドが書かれているとき、小さくしすぎて完全に消えてしまうのがよくあるパターンです。
曲や場面によってはそれが正解のこともありますが、今回はそうでないほうが良いでしょう。
つまり、小さくはするけどある程度音量が残るように歌うということです。
楽譜には書かれていませんが、mp(メゾピアノ/少し小さく)か、それよりも若干大きいくらいを目安に考えると良いと思います。
デクレッシェンドをしっかり考えて、丁寧に処理することで、続くピアノパートの間奏にうまく流れを引き継ぐことができます。
デクレッシェンドしていき、完全に消えていく際には次のような記号が使われることが多いです。
- smorz.(スモルツァンド)
- morendo(モレンド)
どちらも「消えるように」といった意味で使われる記号です。
【E】33小節~
ピアノパートの間奏ですが、それほど長くはないので、次の歌い出しの準備をしっかりしておきましょう。
【F】37小節~
ここからは2コーラス目となります。
再びAメロからスタートになりますが、1コーラス目との違いが重要です。
整理しながら練習しましょう。
違い1: 音量
1コーラス目はmpで歌い始めましたが、2コーラス目はmfになっています。
違い3のピアノパートとあわせて、より積極的な音楽になっていると言えると思います。
違い2: パートの役割
2コーラス目は女声から歌いだします。
これは当然として、パートの役割が新しく加わっていることに注目です。
ハモリ
1コーラス目の男声の歌い出しはユニゾンでしたが、ここの女声はハモっています。
ヴォカリーズ
41~42小節にかけて男声がヴォカリーズ”Uh”で加わります。
ここでの役割は、女声のバックコーラスとしてサウンドに厚みをもたらすこと。なのでリズムはあまり目立たせず、なめらかに歌うのが良いと思います。
違い3: ピアノパート
1コーラス目のピアノパートはロングトーン(白い音符)が比較的多かったのに対し、2コーラス目では8分音符を主体とした細かく刻むリズムが多くなっています。
原曲でのビート感の変化を再現しているもので、これによって音楽がより流れるようになり、前向きなノリが高まっています。
これはつまり、サビのところと同様に、曲の後半に行くほどサウンドが充実していくという仕組みのアレンジになっているということでもあります。
重要なポイントですので、しっかり把握しておきましょう。また、そのようなアレンジがなされていることが聞いている人に伝わる演奏にできると非常に良いですね。
【G】45小節~
【G】はAメロの繰り返しの場面となっています。
パートごとの役割はしっかりと把握しておきましょう。
アルトが主役。オブリガートは軽めに
【G】ではまずアルトと男声がメロディーを歌います。
ソプラノはしばらくヴォカリーズ。この場合はメロディーよりも高い音域で装飾的なフレーズを歌うオブリガートの役割です。
一般的に高い音はよく目立つので、あくまでもアルトを主役にするために、ソプラノは配慮して抑えめに歌うべきでしょう。
メロディーの受け渡しに注意
基本的にはアルトがメロディーを歌っているのですが、部分的にそうではないところもあります。
具体的には、まず50小節目。この1小節分はソプラノにメロディーが切り替わります。
続く51小節目は再びアルトがメロディー。ソプラノはアルトの上でハモりますが、やはり高い音のほうが目立つので、気持ち薄めの響きで歌うのがコツです。
そしてさらに52小節目はソプラノがメロディーの動きです。アルトの動きと比べて1オクターブ高くなっています。
この一連のメロディーをつなげて聞かせるのは非常に難しいですが、腕の見せどころと言っても良いでしょう。
そのために大切なのが以下の点。
- 主役を際立たせるために音量の配慮をする
- ソプラノとアルトの声の音色(おんしょく)を近づける
なるべくお互いの声が溶け合うように、聴き合って歩み寄りましょう。よりよくハモることにも繋がります。
【H】53小節~
1コーラス目の【C】に対応したサビへの繋ぎの場面です。やはり違いを把握しておくことが必要です。
歌詩の掛け合いでは語頭を立たせよう
メインのメロディーはアルト。
それに対してソプラノ、男声の順で掛け合いが始まります。
この曲の中では比較的ポリフォニック(多声的、複数の旋律が絡み合って進む)な展開です。
こういった箇所では、遅れて入ってくるパートのアピールが必要です(もちろんアルトが埋もれない範囲で)。
語頭の子音を立てるなど、入りをクリアにすることでそれぞれの旋律の絡みを美しく聞かせることができると思います。
一方で、伸ばす音(主に2分音符)では力まずに、主役のパートに譲りましょう。
男声の音が難しい
54小節目の男声は、臨時記号がついていて音を取るのが難しいです。
ここで音がバラけて濁ってしまうと、先程説明した3パートの掛け合いが全体的にもやもやしてしまいます。
しっかりと音を取れるよう練習しておきましょう。
コツとしては以下の通り。
- 入りの音をしっかりイメージする
- ピアノパートのコードを感じる
- ♯のついた音を重点的に練習する
音が難しいところはゆっくりとしたテンポで練習することも効果的です。
クレッシェンド&ブレイク、次の音楽を予感して
55~56小節目は1コーラス目との違いが顕著なところです。
次の3点を押さえましょう。
違い1. 音の長さ
1コーラス目は小節の3拍目まで伸びていました。
しかし今回はタイでつながった音が8分音符で、しかもスタッカート(音を短く切って)の記号がついています。
そのため、3拍目の頭(入った瞬間)に切るくらいのイメージとなります。
ピアノパートの「ジャジャジャジャン!」を目印にしてタイミングをはかってもOK。
また、このタイミングでソプラノの音が下がり、和音が切り替わることも知っておきましょう。
違い2. クレッシェンド
1コーラス目では書かれていませんでしたが、今回はクレッシェンドがあります。
だんだんと大きくしていき、盛り上げてから次の音楽の展開(=サビ)につなげましょう。
違い3. ブレイク
ブレイクとは、全員が音を出さない無音の瞬間のこと。
楽譜をよく見ると、56小節目の3拍目裏はピアノパートも含め、全員が8分休符となっています。これがブレイク。
今回のブレイク箇所では、サビに向けてクレッシェンドしてきたあと、急に無音となります。
これによって聞いている人をハッと引きつけるような効果がのぞめます。
全員が協力して無音の瞬間を作るという意識が大切です。
【I】57小節~
ここから2コーラス目のサビに入ります。
この曲で3回繰り返されるサビはそれぞれ歌い方を変える必要があるのでした。
重要なので再掲しておきます。
- 【D】1回目のサビ→mf
- 【I】2回目のサビ→f
- 【K】3回目のサビ→piu f + 転調
はじめてのfをはっきりとアピールしよう
2回目のサビ最大の特徴は、この曲ではじめてf(フォルテ/強く)という音量記号が出てくることです。
ここに来て初めてはっきりとした盛り上がりとなるわけです。
逆に言うと、ここまではある程度抑制したまま音楽を進める必要があるということ。
そしてこのサビでfを強調することで、音楽的なメリハリが出てくるということでもあります。
【J】の直前はデクレッシェンドしないので注意
1回目のサビの最後はフレーズを収めるためにデクレッシェンドが書いてありました。
一方、2回目ではある程度の「熱さ」はキープしたままで次の場面に続いていきます。
また、【J】に入る直前の4分休符も意識して合わせるようにしましょう。
【J】65小節~
65小節目からの10小節間は、AメロやBメロ、サビとは異なるフレーズのCメロとなっています。
Cメロは何度も繰り返されることなく、ここだけで歌われます。他と比べて特別な場面だと言えるでしょう。
しっかり音量を絞って大切に歌おう
71小節目の音量の指示に注目です。
これまでmfで歌ってきたところからmpになります。
また、ピアノパートを確認してみると、sub.pと書かれています。
p(ピアノ)は小さく、sub.(スービト)は急にという意味です。つまりこれは「急に小さくして」という指示になります。
『僕が一番欲しかったもの』は基本的にはmf以上の音量で進んできましたが、ここで突然の弱声の場面が出現することで、聞いている人をグッと引き付ける効果が生み出せるのです。
“ここまできたみちをふりかえってみたら”という内省的な歌詩とリンクするとなお良しです。
コードに注意。アルトの音はテンション
73~74小節はコード(和音)が難しいためしっかり練習しましょう。
特にアルトの音(ファ→ソ♭)はテンションノートといって、響きに複雑さ(カッコよさやおしゃれ感)を加えてくれる音になります。
ただ、和音を構成する他の音とぶつかっているため音が取りづらく、つられやすくもなっています。
少し詳しく説明すると、例えば73小節目では男声のソの音に対して、アルトは短7度上のファを歌っています。
ソとファは(オクターブ違いですが)隣の音なので、互いにぶつかっている音どうしとなります。
練習するときは男声とアルトの音がごっちゃにならないよう注意する必要があるでしょう。
楽譜コードネームが書いてある通り、G7sus4→A♭7sus4という進行になります。
セブンスコードとサスフォーの組み合わせで、この後の転調を強く予感させる、非常に推進力の強いコードがチョイスされています。
【K】75小節~
3回目のサビです。繰り返しになりますが、それぞれのサビの違いを整理しておきます。
- 【D】1回目のサビ→mf
- 【I】2回目のサビ→f
- 【K】3回目のサビ→piu f + 転調
ボルテージを高める2つの要素
ここではサビのボルテージをいっそう高めるために次の2つの要素が用いられています。
1つ目は音量の変化。piuf(ピウ フォルテ)が登場します。意味としてはfより強くで、「直前よりもさらに1段階大きく」という意図が強調されています。
そして2つ目が転調。ハ長調→変ニ長調へ半音上がる転調が行われています。
最後のクライマックスを形作るためしっかり歌いましょう。
また、これまでの場面の歌い方もあわせて考えておきましょう。具体的には、音量の点で「1回目のサビ < 2回目のサビ < 3回目のサビ」となるように構成することが必要です。
音量に関しては意識するだけでなくペース配分も大切になるかもしれません。
掛け合い・パートの役割の違いに注意
3回目のサビでは掛け合いの仕方とパートの役割にも変化があるので注意しておきましょう。
例えば76小節目の”たくさんの”というフレーズはアルトと男声がハモりながら掛け合いをしています。原曲のバックコーラスにもあるフレーズです。
これまで言ってきたことと重なりますが、掛け合いの部分では次のようなことをヒントにして練習してみてください。
- タテ(タイミング)を合わせる
- 音量のバランス
- 歌詩の頭の強調
piu fの音楽を作り直す
83小節目からはアンコール的なサビの繰り返しとなります。
【K’】のようなつもりで、もう一度piu fの音楽を作り直すような気持ちを持って歌いましょう。
また、ここはソプラノ・アルト・男声全体のタイミングがそろっていることにも注目です。
tuttiよって全体の一体感、ボリューム感、音の厚みのアップが意図されていますので知っておきましょう。
【L】87小節~
クライマックスの後、静かに落ち着く場面です。
丁寧に、曲を締めくくりましょう。
アカペラはハーモニーをよく感じて
87小節目から5小節間は伴奏のないアカペラとなっています。
ここまで音程のことはあまり口うるさく言ってきませんした。ポップスではリズム・ノリがより重要だからです。
しかし、アカペラの場面ではではそうもいきません。声によるハーモニーが音楽を成り立たせる土台であるからです。
まずはそれぞれのパートの音をしっかりと取ること。
そして合わせるときはお互いの声や、全体で鳴っているハーモニーをよく感じることが大切です。
アルトの音で再びテンションが登場
87小節目の2つ目の音は男声のソ♭に対してアルトがファを歌います。
再びアルトがテンションノートを担当で、半音違い(長7度)なので難しい音です。
お互いの音が同じになってしまわないように注意して練習しましょう。
また、和音をピアノで弾き、完成形の響きを響きをつかんでおくこおとも非常に大切になります。
ソプラノのメロディーが分離しないよう
アカペラ部分はアルト・男声の作るハーモニーの上にソプラノのメロディーが乗っているという構造ではありますが、ソプラノの歌う音が和音の構成音のひとつにもなっています。
そのため、メロディーとハーモニーが完全に分離しないよう、3パートでハーモニーを作るという意識があると良いと思います。
練習の際にはゆっくり歌ってみると、ハーモニーの移り変わりを詳しく感じ取ることができると思います。
少しのタメとロングトーンで締めくくる
90小節目の”が”にはテヌートがつけられています。
「音の長さを十分に保ってというような意味」ですが、ここでは「”が”の音を少しタメて(すぐに次に行かずに立ち止まって)」という意味に捉えて問題ないと思います。
そのままのテンポで進めてしまうとアッサリしすぎるので、ちょっとした余韻を作るイメージです。
【M】92小節~
ピアノパートの後奏がメインですが、合唱も最後まで気を抜かずに歌いましょう。
ロングトーンはオールユニゾン
92小節から、合唱は全員が同じレ♭の音を歌っています。
ここてピッタリ音がそろうと、非常に静かでしっとりとした空気感を生み出せます。じんわりとした余韻、感動を醸し出すことにも繋がるでしょう。
音をそろえるためには次のようなことを意識すると良いと思います。
- ピッチ(音程)
- 音色(声の質)
- デクレッシェンドのペース
まとめ:合唱曲『僕が一番欲しかったもの』演奏のポイント
最後までご覧いただきありがとうございます。
このようなポップス曲を歌う際には、まずはリズムとノリ。
難しく考え過ぎるよりは、楽しく、軽快に、カッコよく歌うのが大切です。
それらを基本にしながら、合唱として歌うときのポイントを押さえていくと全体に洗練された、クオリティの高い演奏になると思います。
また全体の構成、編曲者の意図をつかんで歌うと、盛り上がるところは熱く、最後の部分はしっとりとした感動にも繋がります。
この記事が良い演奏・良い音楽の助けとなれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
補足が必要な場合は、お問い合わせフォームなどから連絡いただければ対応いたします。