山崎朋子

合唱曲『夢のかなう場所へ』練習・演奏のポイント|楽譜のヒントをフレージングに活かそう

『夢のかなう場所へ』練習・演奏のポイント
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『夢のかなう場所へ』は人気のある作曲家、山崎朋子さんによる作品です。

この記事では練習・演奏のポイントを詳しく解説しています。

ぜひ最後までご覧ください。

教育芸術社『混声編 オリジナル合唱ピース17』に収録されている楽譜を参考に、本文中で歌詩などを引用する場合には「””」で示しています。

『夢のかなう場所へ』の練習番号

『夢のかなう場所へ』の楽譜には、練習番号(【A】【B】…)が書かれていませんので、まずはそれをつけることから始めましょう。

練習番号は、練習をどこから始めるか役立つ(「【A】から始めます!」など)だけでなく、曲の構成を分析するのにも役立ちます。

練習番号
  • 【A】…6小節(”はるのひざしのなかで”)
  • 【B】…14小節(”なつのひざしのしたを”)
  • 【C】…22小節(”わすれたくないことばかり”)
  • 【D】…30小節(”めのまえに”)
  • 【E】…50小節(”そこにみらいはある”)

『夢のかなう場所へ』練習・演奏のポイント

『夢のかなう場所へ』練習・演奏のポイントここからは先ほどつけた練習番号に沿って、練習・演奏のポイントを解説していきます。

【A】丁寧に歌詩を伝えよう

『夢のかなう場所へ』の楽譜の最初、テンポが示されている記号の横に、”歌詞を大切に”と書かれています。

まずここでは、どのようにすれば”歌詞を大切に”できるか、お伝えしようと思います。

語頭とフレーズ感がポイント

“歌詞を大切に”するために重要なのは、語頭とフレーズ感です。

  • 語頭…言葉(分節)の1文字目。”るの”なら、”は”が語頭
  • フレーズ感…メロディーの歌い方のこと

それぞれについて詳しく解説します。

1文字目に◯

まず語頭からいきましょう。

合唱では語頭が伝わると、その後に続く歌詩全体が伝わりやすくなります。

これは日常会話でも同じで、最初の数文字が聞き取れたら、なんとなく何を言っているか分かった、という経験をしたことがあると思います。

逆に、最初の文字が聞き取れなかったせいで、何を言っているか分からなかった、ということもあるでしょう。

そこで、言葉の1文字目に◯をつけてみましょう。

具体例は以下の通り。(下線で語頭を表現しています。)

  • るのざしのかで”
  • みとじめてった”

これだけでもずいぶんと意識が変わってくるはずです。

語頭の子音はめちゃくちゃ大事

言葉を伝えたいとき、子音を意識するとより効果的です。

子音というのは母音(a,i,u,e,o)以外の音。例を挙げてみます。

“はるのひざしのなかで”…haruno hizashino nakade

下線部が子音です。

先ほど語頭が大事と説明したことを合わせると、「語頭の子音はめちゃくちゃ大事」ということになりますね。

伝わりにくいハ行の子音

【A】の歌詩について、語頭の子音だけを取り出してみると以下のようになります。

  • るの”…h
  • ざしの”…h
  • かで”…n
  • みと”…k
  • じめて”…h
  • った”…(子音なし)
  • ほえむ”…h
  • の”…s
  • おが”…k
  • こし”…s
  • ずかしそうだった”…h

こうしてみると分かるのは、hの子音が比較的多いことです。

h子音は子音の中でも少し発音しづらく、伝わりにくい音です。

そのため、歌詩の中でもよりいっそう気をつけて発音する必要があるのです。

フレーズのまとまりを考えよう

語頭と並んで大切なのがフレーズ感です。

ここでは「どの言葉がどの言葉に掛かっているか(繋がっているか)」を考えてみましょう。

文章を読んでいると当たり前に分かることですが、メロディーを歌うとなるとおざなりになってしまうことが多いのです。

例えば”はるのひざしのなかで”という歌詩では、”はるの”という言葉は”ひざし”に掛かっています。

メロディーを歌う際には”はるの”で少し伸ばしますが、次のメロディーに移る前に途切れてしまわないよう、言葉として繋がるように意識しましょう。

クレッシェンドをフレージングに活用

フレーズを考える上では、音符や歌詩だけでなく記号も手がかりになります。

例えば、10小節にはクレッシェンド(<)が書かれています。

注目したいのはクレッシェンドの行き先。”そのかおが”という歌詩に向かっていることが分かります。

つまりこのクレッシェンドは、”ほほえむ”→”そのかおが”と掛かっていくように、そして、少しメロディーを膨らませることで、”そのかお”の歌詩が印象的になるように歌って欲しい、ということを演奏者に伝えているのです。

ここでは、少しハイレベルな内容をお伝えしました。

今回のようにクレッシェンドがフレージングや言葉の歌い方を伝えていることもあれば、シンプルに強弱だけを伝えていることもあります。

記号ひとつとっても、作曲者が伝えたいことは曲によって、また場面によって様々あるのですね。

これら一つ一つに解釈を与えていくことが、演奏者として楽譜に向き合い、音楽を作っていくことなのです。

【B】パートの役割を意識しよう

【A】の場面はユニゾンで全員が同じ音、つまり全員がメロディーの役割でした。

それが【B】からはどうなっていくのか、楽譜から読み取ってみましょう。

それぞれのパートの役割(前半)

【B】の最初の4小節、つまり14~17小節では、それぞれのパートは次のような役割になっています。

  • ソプラノ…メインメロディー
  • アルト…ハモリ
  • 男声…サブメロディー

練習の際には、常に3パートで合わせるのでなく、色々なパートの組み合わせで歌ってみると、これらの役割をより強く意識できます。

このようにすることで、新たな発見・気付きもあるのでおすすめです。

以下、具体的な組み合わせを挙げてみます。

ソプラノだけで

まずはソプラノだけで歌ってみます。

アルト・男声の人は、ソプラノがどんな歌詩・メロディーを歌っているのかを聴いてみましょう。

ソプラノ以外のパートの人は、自分の音を歌うことに一生懸命になってしまうあまり、どんなメロディー・歌詩が歌われているのか知らないということが意外に多いです。

ですが、自分以外のパートがどんな音を歌っているのか、そしてそれが音楽全体の中でどのように機能しているのかということを分かっておくことは、合唱に限らず音楽をやる上ではとても大切なことです。

「メロディーを覚えるとつられてしまう」という人もいると思うのですが、よりレベルアップするには、「メロディーも覚えた上で、自分のパートもきちんと歌える」となるのが理想的です。

ソプラノ+アルトで

続いてはソプラノとアルト、つまり女声だけで歌ってみましょう。

アルトの役割はソプラノのメロディーに対するハモリでした。

なのでアルトの人は、ソプラノにぴったり寄り添うように、そしてきれいなハーモニーが響いているか確認しながら歌ってみてください。

先ほども言いましたが、自分の音だけに閉じこもらず、ソプラノの音も聴きながら、しかし自分の音をきちんと歌えることを目指しましょう。

男声の人は、ソプラノだけで歌ったときと比べ、どのように響きが変化したかを感じ取ってみてください。

「きれいになった」「響きに膨らみが出た」と感じるかもしれませんし、「この部分がイマイチ」と思うこともあると思います。

そういった体験を積み重ねることも、上達に繋がります。

ソプラノ+男声で

今度は組み合わせを変えて、ソプラノと男声で歌ってみます。

男声の役割はソプラノとは違う音型の、サブのメロディーです。

歌いながら、あるいは聴きながら、2つのメロディーがどのように絡み合っているかを感じ取ってみてください。

お互いがお互いのメロディーの隙間(伸ばしたりして動きがない瞬間)を埋めるように、補い合っていることが分かると思います。

全員で

最後に全員で合わせてみます。

1パートが2パートになっただけでも色々な発見があったと思います。

「それが3パートになったらどうなるんだろう」と楽しみになってきませんか。これがアンサンブルの醍醐味です。

より複雑になるため、うまくいかないところも出てくると思います。

そうなったらまた1パートだけ、2パートだけで歌うことに立ち戻り、課題をクリアしていきましょう。

それぞれの役割(後半)

【B】の後半、つまり18~21小節にかけても同様に練習してみましょう。

ソプラノ+男声で

まずはソプラノと男声だけで歌ってみます。

楽譜をよく見る、あるいは実際に歌ってみると気づくと思いますが、実はソプラノと男声は音が同じ。つまりユニゾンになっているのです。

したがってここでの役割は、ソプラノ・男声の両方がメインメロディーということになります。

ユニゾンの箇所は、音がぴったりと1つにまとまるように、集中して歌うことが大切です。

ソプラノの人は男声に合わせる、男声の人はソプラノの人に合わせることを意識しましょう。

ソプラノ+アルトで

楽譜を見ると、アルトはソプラノの下に沿うように音符が書かれています。

このことからアルトの役割はメロディーに対するハモリであることが読み取れます。

メロディーにハモリのパートが加わることで、響きにどのような変化が生じるかを感じてみましょう。

アルト+男声で

今度はアルトと男声です。

男声はメロディーを歌っているので、アルトはソプラノだけでなく、男声に対してもハモっていることになります。

男声の人は、アルトの人がどんな声でどんな音を歌っているのか、この機会にしっかり感じ取ってみてください。

ソプラノとアルトは音が比較的近い(3度)のに対し、アルトと男声は音が結構離れて(6度音程)います。

これは、より注意しないとお互いの音を感じられないということになります。

集中して取り組んみましょう。

全員で

最後に全員で合わせます。

ソプラノと男声がメロディーを歌うため、メロディーがより骨太な感じに感じられると思います。

一方でハモリ担当はアルトだけになるので、アルトは気持ち歌い目にすると、全体のバランスが良くなりそうです。

【C】クレッシェンドのポイント

【C】でポイントとなるのは26~29小節です。

cresc.と<の違い

26小節にはcresc.(クレッシェンド)の記号が書かれています。「だんだん大きく」の意味で。

クレッシェンドといえば、松葉(<)の記号で書かれることもあります。【A】【B】でも登場していますね。

字のクレッシェンド(cresc.)は松葉のクレッシェンド(<)と比べると、長い期間に渡るるクレッシェンド、つまり「じっくり系」であることが多いです。

楽譜をよく見ると、cresc.の後に点線が続いていることが分かります。

この4小節間に渡り、じっくりと盛り上げていって欲しいという意味合いが、この書き方には含まれています。

また、字のcresc.には単純な音量アップだけでなく、内面的な熱さも高めていって欲しいという意図が含まれることも多いです。

今回もそれに該当します。

クレッシェンドの行き先

クレッシェンドが出てきたら、その行き先を読み取ることが大切です。

点線の先にあるのはf(フォルテ/強く)の記号です。

つまり、fで盛り上げる場面に向かって音量・気持ちを持っていって欲しい、そんな意図がこのcresc.にはあるのです。

少し小さめに入るのがコツ

クレッシェンドの始まる26小節付近には特に音量に関する記号が書かれていません。

したがって、普通に歌うならこれまでの音量を引き継いでmfとなるのが妥当なところです。

ですが、ここではあえてmfよりも小さく入るという工夫の余地が大いにあります。

小さいところから始めることで、その前後でのダイナミクスレンジ(音量差の幅)をより広げることができ、より効果的なクレッシェンドにできるからです。

また、小さく入ることで聞き手の耳を惹きつけ、「これからどうなるんだろう?」という期待感を高めるような雰囲気を醸し出すこともできます。

反面、小さく歌うと言葉が届きにくくなりがちなので、【A】の内容を思い出して子音なども意識してみましょう。

【D】歌い方にメリハリをつけよう

【D】はfで歌う場面で、ポップスで言えばサビ的な場面と言っても良いでしょう。

ただし、力いっぱい歌い続けるのではなく、フレーズによって歌い方を変えるのがポイントです。

2小節ごとのフレーズの違い

【D】最初の4小節、つまり30~33小節を見てみると、次のようなフレーズの特徴があります。

  • 30~31小節…4分、8分音符が中心でゆったり
  • 32~33小節…16分音符が中心でリズミカル

つまり、【D】というまとまりの中でも、メロディーの雰囲気が変化しているということになります。

長めの音符はたっぷりと

4分・8分音符を中心としたフレーズは、レガート(滑らか)な歌い方で、たっぷりと歌いましょう。

16分音符はリズムを少し強調して

逆に16分音符を中心としたフレーズは、リズムを少しはっきりと、強調して歌いましょう。

このようにすることで、女声・男声の掛け合いがより引き立ちます。

3回目の泣きメロ

35小節には”※3回目のみ、ソプラノを分けて歌ってもよい”と書かれています。

これまでのメロディーの上に、さらに音を重ねてハモる、胸がグッ熱くなるような泣きメロです。

人数などに余裕があればぜひトライして欲しいと思います。

【E】ラストシーンは聞かせどころ満載

繰り返しの後Codaに入り、50小節から【E】、ラストシーンになります。

たくさんの聞かせどころがある場面です。一つ一つクリアしていきましょう

和音の雰囲気の違いを感じて

50~51小節にかけてのメロディーについては、【D】で似たメロディーが何度も登場しています。

一見、これまでと似ているようですが、実はピアノパートの奏でる和音が変わっています。

  • 【D】…「ドミソ」=明るい和音
  • 【E】…「ラドミ」=暗い和音

【E】では、これまでと違い、「ラドミ」の暗い和音が使われており、これによって切ない雰囲気が出ています。

こうした微妙な変化も感じ取りながら歌ってみましょう。

デクレッシェンドから最小の音量へ

51小節で音を伸ばしている間のデクレッシェンドは非常に重要です。

このデクレッシェンドには、フレーズをおさめて終わりの雰囲気へ持っていく働きがあるためです。

デクレッシェンドでのポイントはクレッシェンドと同じく行き先です。

今回はmp(少し小さく)となっています。

ここで曲全体を見渡してみると、mpが一番小さい音量だということが分かります。

つまり、【D】が盛り上げる方の聞かせどころだとしたら、この【E】は静かな場面としての聞かせどころになるのです。

単純に小さく歌うだけでなく、優しく語りかけるような歌い方を意識すると、より良い雰囲気を醸し出せると思います。

テンポ変化は徹底マーク

52小節からはrit.(リタルダンド/だんだん遅く)が始まります。

「ここでテンポを変わるぞ」ということをしっかり頭に入れておきましょう。

そうしないと、タイミングがばらばらになってしまいます。

もし忘れてしまうなら、色ペンでrit.を囲んでおいたり、蛍光ペンで目立つように塗っておくのもよくあるやり方です。

rit.など、テンポ変化に関わる記号は徹底的にマークしておきましょう。

目と耳に全力集中

テンポを変化させるというのは難しく、前述のようにマークしておいてもなお、タイミングが合わないことは頻繁にあります。

指揮を見たり、周りの音を聴いたりしながら、繰り返し練習しましょう。

そうすることで、だんだんと「どれくらい遅くするのか」という共通認識ができ、合うようになってくるはずです。

ハーモニーを充実させて

ラストは”つづいている”のロングトーンのハーモニーをしっかり決めて終わりましょう。

  • ソプラノ…「ド」
  • アルト…「ミ」
  • 男声…「ソ」

全体で、「ドミソ」の明るい和音となっています。

ハモリのコツは、繰り返しになりますが、自分以外のパートの音をよく聴くこと。

アカペラ(ピアノパートなし)で練習すると、よりダイレクトに響きを感じられます。

ピアノパートと合わせるときは、ピアノの音も聴き、響きを溶け合わせるように歌いましょう。

まとめ

ポイントを振り返ります。

  • 【A】丁寧に歌詩を伝えよう
  • 【B】パートの役割を意識しよう
  • 【C】クレッシェンドのポイント
  • 【D】歌い方にメリハリをつけよう
  • 【E】ラストシーンは聞かせどころ満載

楽譜をしっかり読み取って、「どう歌うか?」というフレージングに活かして欲しいと思います。

より詳しく知りたいことがあれば、お問い合わせなどからお気軽にご連絡ください。