合唱曲の詳しい解説

『灯籠ながし』(金子みすゞ/新実徳英)を解説|夕焼けの余韻に浸る

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こんにちは!

今回は金子みすゞ作詩・新実徳英作曲、《金子みすゞの八つのうた》より『灯籠ながし』について解説していきたいと思います!

曲調や難易度、曲の魅力・鑑賞のポイント、演奏・練習のポイントなどついて深堀りしていきます。

この曲を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人のお役に立てば幸いです。

それではどうぞ!

『灯籠ながし』ってどんな曲?

まずは『灯籠ながし』という曲について、「この曲知らない!」「初めて知った!」という人のために、作詩者・作曲者、難易度、曲調についてざっくりと紹介します。

作詩は金子みすゞ、作曲は新実徳英

『灯籠ながし』は全8曲からなる無伴奏混声合唱のための愛称曲集《金子みすゞの八つのうた》の8曲目。

一番最後の曲ですね。

作詩は金子みすゞ、作曲は新実徳英になります。

難易度は…初級

『灯籠ながし』の難易度は、初級です。

テンポはゆっくりなので練習しやすいと思います。

ちょっとした転調があるのと、少々ややこしい和音が用いられている部分があるのでそこは要注意です。

曲調は…ゆったりと移ろうハーモニーのグラデーションにうっとり

『灯籠ながし』はゆったりと移ろうハーモニーのグラデーションにうっとりな曲です。

『灯籠ながし』の詩では夕焼け空が登場します。

夕方の時間帯って空の色があっという間に変化していきますよね。

この曲でもその変化に合わせるように和声の色彩を変化させていきます。

そのグラデーションが非常に美しい曲です。

『灯籠ながし』の魅力について語る!

続いては『灯篭ながし』という曲を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、曲の魅力や鑑賞のポイントについて語っていきたいと思います。

前奏部分、1曲目と似ているところ違うところに注目

前奏部分は、実はこの曲集の1曲目『私と小鳥と鈴と』に似ています。

同じとこと、違うところについてまとめます。

同じところ:拍子とコード進行

『私と小鳥と鈴と』と『灯籠ながし』では3/4拍子であることと、コード進行が共通しています。

コードは以下の通りです。

F/A → A♭(G#)dim.7 → Gm7 → C7

曲集の最初と最後の曲ということで、統一感を持たせるような意図でしょうか。

全曲を通して聴いた時には伏線のようにも感じられるかもしれませんね。

違うところ①:テンポとアーティキレーション

違うところ①はテンポとアーティキレーション。

『私と小鳥と鈴と』は4分音符=112で、スタッカートもついた弾むような表現でした。

一方『灯籠ながし』のテンポは4分音符=60で約半分。スラーなどは付されていませんが、レガートな表情で歌うと解釈して良さそうです。

違うところ②:ソプラノのメロディーの方向性(バスとの関係)

違うところ②はソプラノのメロディーの方向性です。バスのラインとの関係性が重要です。

まずバスのラインを見てみます。

だんだんと下に降りていく流れ。これに関しては『私と小鳥と鈴と』『灯篭ながし』で共通しています。

次にソプラノのメロディーを見てみると『私と小鳥と鈴と』では音が上がっていきますね。

バスと反対方向に動いている「反行」で音が広がっていくような印象です。

一方で『灯籠ながし』ではソプラノのメロディーも下に降りていきます。

こちらは「並行」でどちらかというと落ち着いた印象を受けます。

以上のように、こういった細かい点が1曲目との印象をかなり違ったものにしているのです。

繊細なバスラインに耳を傾けてみよう

この曲の魅力であるハーモニーの移り変わりを支えているのは、何と言ってもバスのラインです。

詳しく見ていきましょう。

歌詩が始まって最初の4小節はこんな感じ。

F → B/F → Gdim/F → F

バスのF音が固定されたままで和音が変わっていきます。

音楽に大きな動きはありません。

水面に放たれた灯籠が、先に行こうかこの場に留まろうか決めかねてその場で漂っているようなイメージです。

次の4小節はこんな感じ。

F/E → F/E → B/D → Bm/D

バスラインが動き出しますね。半音進行で降りてゆきます。

先ほどとは違い、ゆっくりとながら水の流れに乗って動き出したようです。

和音そのものも非常に繊細。

F/EとF/E♭はそれぞれM7、7のコードで、バスが担当するのは第7音。つまり第3転回形です。

B/D とBm/Dではバスが第3音を担当しています。こちらは第1転回形。

バスが根音を歌う基本形とは違い、浮遊感のある聴き心地です。

さらに次の4小節。

G♭7/D → G♭7 → C♭M7 → F♭7

大胆に転調している上、バスのラインもダイナミックに動きます。

セブンスの和音も彩りを与えていますね。

昨日までは手元にあった灯篭も、だいぶ遠くまで流れてしまったようです。

ヘミオラからのおしゃれ和音で余韻のある終止

曲の終わりの部分では、2小節分の拍をひとまとめにして三分割するヘミオラのリズムが現れます。

ヘミオラについて少し詳しく説明します。

『灯篭ながし』は3/4拍子の曲なので、2小節分の拍をまとめると4分音符で6拍分になりますね。

これをあらためて3分割すると、2分音符×3つ分になります。

2つ目の2分音符は小節をまたぐのでタイで書き表されています。

終止和音にも工夫が凝らされています。

Fの和音に7、9、13のテンションが付いた和音です。

特に7のテンションが特徴。M7でなく7。

そのため終止感が弱く、どこまでも続いていくような印象をもたらしています。

ヘミオラによってより拍感が引き延ばされ、また終止感の弱い和音によって、どこまでもゆったりと流れていく「灯篭」との距離感や海と空の広がりなんかがより感じられますね。

まとめ:『灯籠ながし』(金子みすゞ/新実徳英)

それではまとめです!

《金子みすゞの八つのうた》より『灯籠ながし』でした。

繊細なハーモニーがゆったりと移ろう美しい曲です。

様々な和音による色彩のグラデーションや、余韻たっぷりのエピローグに感じ入りましょう。

今回はここまで。お読みいただきありがとうございました!