信長貴富

男声合唱曲『こころよ うたえ』練習のポイント|少人数でも感動的な演奏にするには

『こころよ うたえ』練習・演奏のポイント
今回の記事はお問い合わせからリクエストしていただいたものになります!詳しくはこちら>>【お知らせ】合唱曲解説の記事執筆をお受けいたします【サンプルあり】

信長貴富さん作曲の『こころよ うたえ』(男声合唱版)の歌い方・練習のポイントをまとめた解説記事です。

今回は男声合唱バージョンですが、混声合唱バージョンを演奏する際にも役立つ内容になっていると思います。(混声版の解説が必要な場合はこちらよりご連絡いただければと思います。)

また、「少人数でも感動させられるようなコツを教えていただきたいです。」とのリクエストもいただいているので、本文にて触れたいと思います。

『男声合唱曲 こころよ うたえ』(作詩:一倉宏/作曲:信長貴富/カワイ出版)を参考に、本文中で歌詩などを引用する場合には「””」で示しています。
(補足)『こころよ うたえ』はdiv.およびsoloがあるため、本来は8人程度以上での演奏を推奨します。

少人数でも感動的な演奏にするコツ

始めに、リクエストにある「少人数でも感動させられるようなコツ」について触れておきたいと思います。

『こころよ うたえ』は、作品自体が非常に感動的な曲となっています。

そのため、聞いている人を感動させたいからといって、奇をてらった表現をする必要はありません。

曲自体の魅力を素直に引き出すことができれば、それで十分です。

なのでここでは、少人数でも曲の魅力を引き出すためのコツをいくつかお伝えしておきたいと思います。

コツ1. フレージング

フレーズというのは、メロディーのまとまりのこと。フレージングはフレーズをどのように歌うか、ということと考えてもらって問題ありません。

少人数で歌う場合、フレージングの問題となってくるのが息継ぎです。ある程度人数がいれば、フレーズの途中で誰かが息継ぎをしてしまっても大丈夫なのですが、少人数ではそうはいきません。途中で音楽が途切れてしまわないよう、よく考える必要があります。

『こころよ うたえ』では、多くのフレーズが4小節(または8小節)でひとまとまりとなっています。そのため、できれば4小節単位でのブレスで歌いきれればそれがベスト。ですが、少人数で歌う場合にはそれが難しい場合があります。

そういった場合ではもっと短い単位でフレージングを行う必要もでてきます。ただし、あまりにフレーズが短くなりすぎると音楽として不自然になってしまいます。

練習番号ごとの解説で、そのあたりのコツに触れたいと思います。

コツ2. ハーモニー

ハーモニーの美しさは合唱の大きな魅力のひとつです。

少人数での演奏では迫力に劣る分、アカペラならではの繊細な響きを作り出せると、聞いている人の大きな感動に繋がるはずです。

ハーモニーで特に押さえたいのはフレーズ終わりの和音です。

こちらに関しても後ほど詳しく解説します。

コツ3. 強弱のドラマ

『こころよ うたえ』は大変ドラマチックな展開を持つ作品です。その魅力を引き出すたために大切なのが強弱表現です。

音量のメリハリをしっかりつけて、クライマックスで大きな感動を呼べるよう、全体の構成をよく考えることが大切です。

加えて、少人数で歌うときに注意したいのが、p系の場面で言葉をしっかり伝えること。

人数が少ない場合、小さい音量は表現しやすいのですが、同時に小さくなりすぎて歌詩が伝わらない、ということも起こりやすいです。歌詩が聞き取れないというのは、聞いている人にとってはフラストレーションになります。

逆に歌詩が伝わると、曲の世界に入り込んでもらいやすくなり、大きな感動に繋がります。

『こころよ うたえ』練習のポイント

ここからは練習番号ごとに詳しく解説していきます。

先ほど挙げた3つのポイントも思い出しながら読んでもらえるとよいと思います。

【冒頭】1小節~

2小節ごとにしっかりブレス

【冒頭】の場面のフレーズでは2小節ごとに4分休符が出てきます。ここでしっかりとブレスを取るようにしましょう。

ブレスを取るときには、

  • タイミングをメンバー全体でよく合わせること
  • ブレスを取るギリギリまでしっかり伸ばすこと

を意識してください。

このフレーズに限らず、ブレスをしっかり取ることは、1曲を通じて良い発声で歌い切ることに繋がります。

ロングトーンのハーモニーを意識

4小節目の最後の音符にはフェルマータがついているので音を伸ばします。

ここで和音がビシッと決まるよう意識して練習してみてください。

ポイントをいくつか挙げておきます。

  • それぞれのパートが正しい音を歌えているか
  • バリトン・バスの「ラ」の音はぴったりと合っているか
  • fだからといって荒々しい発声になっていないか

お互いの声をよく聞き合ってハーモニーを作りましょう。

強弱表現を印象的に

この【冒頭】の場面は、曲のオープニングだけあり、色々な工夫が凝らされています。

その一つが強弱です。流れを整理してみます。

  • 最初はp。小さい音量でも”こころ”という大切な言葉がしっかり伝わるように
  • cresc.で、3小節目の<>の記号に向かって膨らませる
  • デクレッシェンドがあり、一旦引く
  • 再びクレッシェンド。fまで盛り上げて【冒頭】の山を作り、【A】に続ける

複雑ですが、しっかり表現できれば、聞いている人の心を掴むような、印象的な歌い出しになるはずです。

メロディーのパートを意識

この【冒頭】の場面でのメロディーは実はバリトンが担当しています。混声版ではソプラノが歌っているメロディーとなっているので、聴き比べてみるとそれが分かると思います。

バリトンパートの人は、「ここでは自分が主役だ」という意識で歌えるとよいと思います。

4小節目などで別のパート(テナーⅠ・ベース)が動く際には、そちらが主役として目立つように。

【A】2小節~

フレージングを工夫して

【冒頭】の場面では2小節ごとに休符がありましたが、ここからは休符(=息継ぎできる場所)がぐっと減ってしまいます。

最初に述べたように、できればフレーズを4小節単位でまとまりを捉えたいところ。具体的には8小節目の”せめて”(テナー系)、”うたえ”(ベース系)の後、短くブレスを取るイメージです。

これで歌えるならそれでOKです。ですが、それだと息が苦しい場合は2小節単位でのフレージングを検討しましょう。つまり、6小節目の”こころよ”の後で瞬間的にブレスを取る方法です。

ポイントは、ブレスはできるだけ短く、またブレス直前まで”よ”の音を伸ばすこと。こうすることでフレーズが短くなっても、自然な音楽の流れになります。

メロディーパートを引き立たせる工夫

【A】の後半となる9小節目からはメロディーを担当するパートが変わります。9~10小節はテナーⅡ、11~12小節はバリトンです。

通常、メロディーというのは一番高音を担当するパート(男声合唱ならテナーⅠ)が歌うことが多いです。そうするとメロディーがはっきりと聞こえやすいからですね。

テナーⅡやバリトンがメロディーを歌う場合、その上に別の音が重なることになりますので、メロディーを引き立たせるために工夫が必要となります。

次のことを気をつけてみてください。

  1. メロディーのパートがしっかりと主役意識を持って歌うこと
  2. 他のパートが少し抑えめに歌うこと(特にメロディーより高いテナーⅠ)

ちなみに、楽譜を見るとメロディーのパートはmf、それ以外のパートはmpとなっており、バランスに配慮されていることが分かります。

【B】13小節~

【A】との違い、掛け合いでのポイント

【B】は【A】と対になる場面です。そのため、似ているフレーズは【A】と同様の点に注意して練習してください。

大きく違うのは19小節~の”くりかえしを”というフレーズ。4つのパートがそれぞれのタイミングでメロディーを歌い出す「掛け合い」となっています。

こういった場所では、メロディーのずれがクリアに聞こえることが大切。

ポイントは以下の通り。

  • 前のパートを聞いてタイミングをはかる
  • 入りの言葉をはっきりと
  • 後に入るパートほど大きめに

こうすることで、複数のメロディーが絡み合う、複雑なサウンドが生まれます。

【C】23小節~

メロディー・伴奏を分けて練習

【C】からはまずバリトンがメロディー、続いてテナーⅡがメロディー、他のパートは”lu”でリズムとハーモニーを作る伴奏の役割となっています。

こういった場所ではまずハーモニーのパート・メロディーのパートに分けて練習するのが効果的です。

具体的には、まずテナーⅠ・テナーⅡ・ベースで歌って23~24小節のハーモニーを確認、続いてテナーⅠ・バリトン・ベースで歌って25~26小節のハーモニーを確認します。

次にバリトン(”あまりにさんぶんてきな日々も”)→ テナーⅡ(”あんまりなエピソードも”)と歌い繋いで、メロディー流れを確認します。

最後に、4パートをあわせます。こうすることで、きめ細かく各役割を確認することができます。

タテの関係

27小節からはテナーⅠとベースがそろって歌詩を歌います。これをテナーⅠとベースの「タテがそろう」とい言います。

タテがそろう箇所ではお互いのパートがよく聴き合って、タイミングをしっかり合わせることが重要になります。

30小節までくると、全員が”せめて”と歌います。4パートの「タテがそろう」わけですね。

ここでもタイミングを意識できると、4声そろったときの一体感と迫力が出てきます。

【D】31小節~

一体感が大切

【B】~【C】では掛け合いなどが多かったのに対し、【D】は4パートの「タテがそろった」フレーズが多いです。

【C】の最後でも言いましたが、こういった場面では一体感が大切。

なんとなくで合わせるのではなく、お互いの声やタイミング、息づかいまで感じ取って、力強く歌いましょう。

フレージングの工夫

34小節に8分休符があるので、【D】からここまでをひとまとまりで歌えるのがベストです。

ただしそれが大変な場合は、33小節などで短くブレスを取るようにしましょう。

【E】39小節~

弱声の場面こそ言葉を大切に

【E】では久しぶりにpの記号が登場します。ここが曲全体を通して一番小さく歌う場面ですね。

ここでしっかりと音量を落とすことで、この後のクライマックスでのfやffがいっそう際立ちます。

ただし、小さく歌うときは言葉を普段よりはっきりと伝えることを意識してください。

次に繋がるハーモニー

48小節のロングトーンは、【冒頭】で練習したハーモニーと同じ「ラ・ド♯・ミ」の和音です。(パートの役割は少し違います。)

【F】の場面での盛り上がりを予感させる重要な和音となっています。

【F】49小節~

【A】との違いを表現しよう

【F】は【A】の繰り返しの場面ではありますが、異なる部分がいくつかあります。

この違いがとても重要です。次の3点を押さえましょう。

  1. Grandioso…壮大に。ここでは堂々と、と思っても良いかもしれません。
  2. テンポ…Grandiosoに伴って少し遅くなっています。少しずっしりとした重量感を持って。
  3. 音量…【A】のfの比較して一段階大きなffです。これもGrandiosoと関連しています。

piu forteの意図

60小節目の”いのちつきるまで”のところには「piu forte(ピウ フォルテ)」と書かれています。

「piu」というのは、記号の意味を強調する効果を持っています。ですから、「piu forte」は「フォルテより強く」という意味になります。

そうするとffと同じようなのですが、「piu」を用いる時、作曲者の信長貴富さんはそこに特別な意味合いを持たせていることがほとんどです。

ここでは”いのちつきるまで”という力強く印象的な言葉をぜひとも強調して歌ってほしい、という意図があるように思います。

ややアクセント気味に目立たせて、内面的な熱さも込めて歌ってもよいところだと思います。

ラストのハーモニー

いよいよラストです。

最後の”こころよ”のロングトーンでは、まずfffの音量が大事。

ですが、同時にハーモニーも大切です。大きく歌おうとするあまり、雑になってしまわないように気をつけましょう。

この和音ではテナーⅡとベースのが歌う「ファ」の音が全体の土台。まずはこの2パートの音がぴったりとそろうように練習しましょう。

そしてテナーⅠとバリトンは、「ファ」の音を聴きながらハモって歌うようにしてください。

練習の段階では小さめの音量で歌い、正しいハーモニーを作って確認するのも大切なステップです。

終わりに

最後までご覧いただきありがとうございました。

『こころよ うたえ』を少人数で歌うには大変なところもあるかもしれませんが、良い演奏ができることを願っております。

なにか質問がありましたら、お問い合わせからお気軽にご連絡いただければと思います。