『輝くために』は、メッセージ性に富んだ、若松歓さんらしい作品です。
練習・演奏のコツやポイントをまとめましたので、どうぞご利用ください。
『輝くために』練習・演奏のポイント
教育芸術社「MY SONG(7訂版)」に収録されている楽譜には、あらかじめ練習番号(【A】【B】など)が付されていますので、解説もこれに沿って勧めます。
【A】ユニゾンを磨き上げよう
【A】のフレーズの特徴は何と言ってもユニゾン。つまり合唱パート全員が同じ音を歌うということです。
女声パートにunis.(ユニゾン)の記号が書かれていて、ソプラノとアルトは分かれずに同じ音を歌う、ということも読み取れますね。
同じ音を歌うということは、つられる心配がないということなので、一見簡単そうです。
ですが、このユニゾンというのはとても奥が深いのです。
全員が同じ音を歌うということは、声によるハーモニーがありません。
そのため、何も意識せずに歌ってしまうと、聞いている人を退屈させてしまう可能性があります。「なんだかフツーだな…」と、そんな感じです。
逆に、全員が同じ音を歌うために、音程や音色が不揃いだと悪目立ちもしやすいのです。
それなのに作曲家がユニゾンで書いているのはなぜでしょう。
それは、ユニゾンではシンプルなメロディーの美しさや、そこに乗せて歌われる歌詩を効果的に表現できるからです。
最初はユニゾンで、後半でハモって歌うことで、音楽の構成に変化を出すような効果もあります。
そこでここからは、ユニゾンで意識したいポイントを3点お伝えしたいと思います。練習の際に意識してみてください。
1. ピッチ(音程)
何度も言うようですが、ユニゾンは全員が同じ音を歌います。
このことを知って、意識するだけでもピッチ(≒音程)の合い方は変わってきます。
そして、練習を繰り返しながら、精度を出来るだけ高めましょう。
良い演奏を目指すなら、「なんとなく合っている」というレベルで留まらず、「これ以上ない」というところを目指してみましょう。
ピッチが揃ってくると、響きに透明感が出てきて、メロディーをより一層美しく聞かせることができます。
フレーズの入りの音はバラつきやすいので集中して音をよく狙いましょう。例えば”どこまでも”の”ど”などですね。
入りの音の精度を上げるには、歌い出す前に音を頭の中に思い浮かべるのがコツです。
2. リズム・音の長さ
『輝くために』では全般的にリズムが細かく、シンコペーション(タイで拍をまたぐリズム)が多用されています。
このリズムをしっかりそろえることも、ユニゾンを磨くためには必要です。
まずは音取りの段階で正確にリズムをつかむこと。
そして、プレイヤーそれぞれが自分勝手なスピードで歌わず、タイミングをピタッとそろえることが必要です。
どちらかというと、走る(意図せずテンポが速くなってしまう)ことが多いフレーズですので、落ち着いて歌いましょう。
練習の初期段階ではメトロノームを使うのも効果的です。
また、ピアノと合わせるときには、ピアノパートの4分音符をよく聴きましょう。これがテンポの基準となります。
リズムに関して言えば、伸ばすところの長さにも注意です。
伸ばす長さがバラバラだと、統一感がなく、締まりの無い音楽になってしまうからです。
3. 言葉の処理
音程、リズムに続いて、最後のポイントは言葉です。
言葉の処理、と難しく書きましたが、簡単に言えば歌い方をそろえよう、ということになります。
日本語の歌詩を歌うときは、みんなが同じように歌っているようで、実はそろっていないことが多いです。
これを統一するためには、どの言葉を大切に歌うかということを、共通の意識として持っておくことが大切です。
合唱では各分節の1文字目を少しはっきりと発音するようにすると、歌詩全体がクリアに伝わりやすくなります。
具体例を挙げてみます。
- “どこまでも つづく みちを”
- “はてしない この みちを”
※アンダーラインを引いたところが大切な言葉です。
逆に強く歌いすぎないように気をつけるべき言葉もあります。
例えば10小節目の”ぼくたちは“です。
この”は”で力みすぎると、そこだけ飛び出して聞こえてしまいます。
そうすると日本語としても、フレーズとしても不自然になってしまうのです。
この”は”は、あまり口を大きく開けすぎないように、また跳躍(音が大きく上がる)ところで、音と音とを丁寧に繋げるようにすると、上手に処理できます。
【B】音量の表現で立体的なサウンドに
12小節目から【B】の場面に入ります。
場面が切り替わったところでは、その前後でどのような変化が起きているのかをしっかりつかんで、演奏に反映させるのが大切です。
音量の変化
まず分かりやすいところでは、音量が変わっています。
【A】ではp(ピアノ/小さく)だったのが、【B】からはmp(メゾピアノ/少し小さく)となっています。1段階アップですね。
【A】ではメロディーをしっとりと語りかけるように歌う場面でしたが、【B】からはもう少し力強さが出てきているような印象を受けます。
音量の変化は、壮大な歌詩と絡めて考えることもできるでしょう。
また、次に触れるポイントと関係することですが、【B】ではメロディーを歌うのが男声だけなので、それを補う意味で音量をアップさせているという意味もあるかもしれません。
役割をつかんで
【A】では全員がメロディーの役割でした。
それに対し、【B】のメロディーは男声だけが担当になっていいます。
男声は主役として堂々と、そしてリズムや言葉を少しはっきり立てて歌ってみましょう。
女声は”Uh”によって、サブのメロディー担当になっています。男声のメロディーを装飾するフレーズです。スラーが書いてあるとおり、滑らかな歌い方で、音量を気持ち控えめにしてみましょう。
男声・女声それぞれが、それぞれの役割を意識し、歌い方も少し変えることで、【A】のユニゾンとの違いが引き立ちます。
次に繋げるクレッシェンド
15小節から【B】の後半のフレーズになります。
ここではcresc.(クレッシェンド)の記号に注目。「だんだん大きく」の指示です。
クレッシェンドが出てきたときには、どこまで、どれくらい大きくするのかがポイント。その答えは、少し先、【C】のところにあります。
【C】からはf(フォルテ/大きく)の指示となっています。ここから盛り上がる場面になるのですね。
【B】の後半に書かれたクレッシェンドは【C】を目標に大きくしていくイメージを持つととても効果的なものになります。
クレッシェンドの歌い方をもう少し詳しく見てみましょう。
このフレーズは男声が先行します。”いのちだから”を少し控えめに入り、”すてきに”で少し大きく歌います。
女声は男声の流れをを受け継ぐイメージで歌いましょう。
ロングトーン(伸ばす音)では、女声が後から同じ「シ」の音で合流します。ここからエンジンを吹かしていくと、効果的なクレッシェンドになります。
このときピアノパートの四分音符(”ジャンジャンジャンジャン!”)も感じてみましょう。
このクレッシェンドは3小節にまたがっていて長いので、あまりはじめの方に大きくしすぎると、【C】の直前で息切れして盛り下がってしまうので、注意しましょう。
【C】ハーモニーを充実させて
【C】からはサビに当たる場面です。fで盛り上がることはすでに触れました。
そのことに加え、ここではハーモニーを意識してみましょう。
お互いの声をよく聴き合って
ハモる場面では、釣られないことに一生懸命になってしまいがちです。
慣れないうちはそれでもOKなのですが、練習が進んで慣れてきたら、お互いの声・音をよく聴き合いながら歌うことにトライしてみましょう。
そうすることで、声と声が溶け合って、合唱ならではの豊かな響きが生まれます。
二声から三声へ
【C】に入って最初の2小節、”せつないおもいも わかれのなみだも”というフレーズは、ソプラノがメロディー、そして男声も実はソプラノと全く同じ音を歌っています。
それに対し、アルトはメロディーと違う音を歌ってハモっています。
したがって、このフレーズは2種類の音(=二声)でのハーモニーなのですね。
続く2小節、”すべてむねにだきしめて”のフレーズでは、これまでソプラノと同じ音を歌ってきた男声が、別の音を歌います。
そのため、音の種類は3種類(=三声)のハーモニーとなります。
少し遡ると、【A】ではユニゾン(一声)だったので、その部分との対比にもなっています。
つまり、曲が進むごとに、響きがより豊かに、複雑になっていくという仕掛けになっているのです。
このように、作曲家が意図した構成を読み取ることも、良い演奏をする上で大切になります。
テンポを落としてアカペラで
ハーモニーが大切な場面を練習するときは、テンポを落とし、アカペラ(=ピアノ伴奏なし)で歌うのが効果的です。
アカペラで歌うことで、よりいっそう合唱の響きを感じながら歌えます。
加えて、テンポを落とすことで、今まで見逃してきたような細かなハーモニーの変化を体感することができるのです。
【D】これまでとの違いをアピール
繰り返しの2番のあと、【D】に入ります。
【C】とはどのように違うかをつかみ、表現することが大切です。
転調
【C】と【D】で大きく違のが調です。
これまで♯3つのイ長調だったものが、♭2つの変ロ長調に転調しています。
これにより全体的に半音上がり、テンションが一段階上がるような効果が生まれています。
音量の指示は【C】と同じフォルテですが、調が変わったことを含めると、それより一段階アップになると考えてもOKです。
ちなみに、♭系の調になるからと言って、暗くなるわけではないので注意しましょう。
パートの役割
前述のように、【D】は音量的により盛り上げたい場面です。
しかし、”いきるよろこびも”のフレーズでは、男声が別の役割を担うことになります。メロディーを歌う人数が減る分、ソプラノよりしっかりと歌うことを意識しましょう。
男声は女声とずれて歌うのが正解ですが、自分勝手に歌わず、女声のメロディーを聴きつつ、タイミングをはかってみてください。
男声が女声のメロディーの隙間を埋めることで、音楽に立体感が出てきます。
歌詩の違い
歌詩にも注目です。ラストの場面にふさわしい、エネルギーに満ちたものになっています。
伝えるべき言葉を押さえて意識することで、リズムの細かいフレーズでも、しっかりと言葉を伝えることができます。
“いきる よろこびも”
“いきる かなしみも”
“すべて むねに だきしめて”
のように、文節の1文字目をはっきり言うようにすると、格段に伝わりやすくなります。
また、できれば言葉の持つ意味やニュアンスも歌い方に反映できると、より良い演奏になると思います。
最後の締めくくり
33~34小節の”どんなときも かがやくために”というフレーズでは曲のタイトルを歌うことになります。
この部分が本当のクライマックスだと思って、ここに向かって気持ちを持っていきましょう。ラストに相応しい雰囲気で締めくくることができると思います。
楽譜には明示されていませんが、ほんの少しだけテヌート気味に、タメて歌うのもありだと思います。
終わりに
最後までお読みいただきありがとうございます。
練習を進めていく中で、上手くいかないことや、分からないことも出てくると思います。
そんなときは、またお問合せフォームからご連絡ください。
なるべく対応しようと思います。
それでは、健闘をお祈りしております!