こんな疑問に答えます。
合唱の練習をする際にはきちんとポイントを押さえることが大切です。闇雲に練習してもレベルの高い演奏には繋がりません。
この記事では合唱歴10年以上のノウハウをもとに『初心のうた』歌い方のコツについて解説しました。
読みながら練習に取り組めば、確実にワンランク上の演奏を目指すことができるはずです。
楽譜に記載されている練習番号(【A】【B】【C】~)に沿って進めます。ぜひ最後までご覧ください。
https://esutawachorus.com/chorus-contest-song/
もくじ
合唱曲『初心のうた』歌い方のコツ
それでは早速解説していきます。
音取りに不安がある場合、まずはしっかりとパート練習を行いましょう。
こちらの記事(【5ステップ】質の高いパート練習の進め方とコツ|経験者のノウハウ公開)もご参照ください。
【冒頭】「闇」を象徴する響き。雰囲気作りが大事
『初心のうた』冒頭のピアノパートは、不協和音が用いられたかなりショッキングな響きです。
これは
混迷する社会の闇の部分を表しています。
音楽之友社『クラス合唱曲集 レッツ・コーラス! 第二版』
と作曲者の信長貴富さんが語っておられます。
まずはこの雰囲気をよく感じ取ってみましょう。感じることが表現にも繋がります。
その後、合唱パートが”M”(ハミング)で入ります。これはピアノの残響から浮かび上がってくるように作曲者が意図しています。
入りの音量はできるだけ小さく、そこからクレッシェンドして大きくしていきましょう。
そしてその流れを今度はピアノパートが受け継ぎ、曲が始まります。
【A】ひそやかに語るように。hとmの子音に注意
【A】は木島始さんのテキストを淡々と、ひそやかに語る場面となっています。
こういったところでは音量を抑えつつも、歌詩はしっかりと伝えることを意識しましょう。
特に伝わりにくいのは次のような言葉です。
- “ほし”のh
- “ひとりひとり”のh
- “まち”のm
これらの言葉・子音をはっきり発音するように意識してみましょう。歌詩を伝えるには子音が肝心です。
【B】全体の構成感を捉えて山場を作ろう
【B】から男声が合流します。全体が同じ音を歌うユニゾンとなっていますので、ぴったりと音が合うように意識しましょう。
音量はmpです。男声が合流することでに急に音量がアップしないようにするのも大切。ここで大きくなってしまうと、その後のクレッシェンドの効果が薄れてしまいます。
“つきとめよう”まできてpoco f(ポーコフォルテ/少し強く)となります。mfよりはやや大きい音量を表す記号で、”つきとめよう”という意志の強さが現れています。
一方で、単にfと書かない理由は何でしょうか。
ここで『初心のうた』の全体の構成を考えてみると、次のようになっています。
- 最初のまとまり…【A】【B】
- 真ん中のまとまり…【C】【D】
- 最後のまとまり…【E】【F】
今歌っているのは最初のまとまりとなります。
まだ曲の前半部分ということで、大きな盛り上がりは後半に取っておきたい、だからpoco fを使っているのですね。
【C】歯車のモチーフに乗り遅れないように
【C】からテンポがこれまでよりも速くなります。乗り遅れないように歌いましょう。
それに加えて、これまではユニゾンだったのがここから合唱らしいハモリやヴォカリーズ(”U”)が登場します。それがここまでとの違いです。
入るタイミングや音が難しいのでしっかり練習しておきましょう。
【D】ずれて歌うメロディーを活かそう
【D】の最初はソプラノと男声が同じメロディーを歌いますが、しだいに掛け合い(ずれて歌う)のメロディーが登場します。
順番に整理してみましょう。
- 全員…”ゆめをうごかす”
- アルト…”はぐるまをかくれた”
- 男声…”はぐるまを”
- 女声…”さがしあて”
- 男声…”まきなおそう”
このように次々と新しいメロディーが現れる場面となっています。
ここでは各パートのメロディーが始まる歌詩に丸をつけるなど、分かりやすくなるように工夫してみましょう。
その上で音量記号にも注目です。piu f(ピウフォルテ/fよりも強く)が登場しています。
ここには後から入ってくるパートのメロディーを引き立てて欲しい、という作曲者の意図が現れていると思います。
【E】音楽は光の差すほうへ。ポリフォニックに展開
【E】からは曲調が明るくなり、光が差してくるようにも感じられる雰囲気です。
調号(ト音記号・ヘ音記号近くの♭)は変わっていませんが、ここでは転調しています。
- これまで…ヘ短調(暗い調)
- ここから…変イ長調(明るい調)
『初心のうた』は【冒頭】の闇を象徴する響きから始まり、曲が進むにつれてしだいに前向きな音楽へ変化していく構成となっています。
【E】でのもう一つのポイントはポリフォニックな展開(メロディーが複雑に絡み合って進む音楽)です。
まずは【D】と同じようにメロディーが始まるところに印をつけてみましょう。
次のようになっています。
- 男声…”どこを”
- アルト…”どこを”
- 男声…”星を見上げ”
- ソプラノ…”星を見上げ”
- アルト…”ひとりひとり”
- 男声…”ひとりひとり”
- ソプラノ…”わたし”
- アルト…”わたし”
このように3本のメロディーラインが非常に巧みに絡み合うように作曲されています。
このような部分ではまずは、各パートがどんなタイミングでどんなメロディーを歌っているのか知ることが大切。その上でお互いによく聞き合いながら歌い進めてみて下さい。
【F】力強いメッセージを伝えきろう
【F】は直前の【E】とは対象的に3パートが歌うタイミング(タテ)がそろう場面です。
3つのポイントに分けて解説します。
1. ユニゾンとハモリを意識しよう
“アジアのかがみにうつるみらいを”と力強く歌います。
“みらい”までは全員が全く同じ音を歌っているユニゾンです。音をよく揃えて、たっぷりと豊かに歌うのがポイントです。
そして”を”のロングトーンに入ってからハモリ、一気に音が広がります。
気をつけるべきことは次の3点。
- 同じ音(ソプラノとアルトの「ファ」)を特に合わせる
- まずはアカペラ(ピアノなし)で練習し、耳をしっかり使う
- ピアノを入れて練習するときは、その響きもしっかりと感じる
ハーモニーの練習ではお互いの音をよく聴きあうことが必要不可欠です。
ここの和音はピアノパートの左手の「レ♮」が入ることで和音の色合いが変わるので、注目してみましょう。
2. アーティキュレーションの意味を捉えて表現しよう
【F】の後半ではアーティキュレーションを表す記号に注意しましょう。
- 1回目の”みらいを”…<->
- 2回目の”みらいを”…—
<->は三善アクセントと呼ばれ、作曲家の三善晃が多用する書き方です。
今回の場合は、クレッシェンドとデクレッシェンドのちょうど真ん中にあり、フレーズの頂点を示す役割もあるでしょう。“み”をたっぷりと豊かに響かせます。固くてきつい言い方にならないように注意です。
2回目についている記号はテヌートです。音の長さを保って歌う記号ですが、この場合は一つひとつの言葉を丁寧に、大切に伝える気持ちを持って歌うと良いと思います。
3. ピアノの後奏にも注目
合唱がロングトーンに入った後、ピアノが後奏が挿し込まれます。
この音形は【冒頭】で闇の響きとして提示された音形が、今度は非常に透明でピュアな響きとして再現されたものです。
これまで解説してきた通り、『初心のうた』では全体を通して、闇から光へというドラマが描かれています。
この構成感をつかみ、演奏に活かせるとバッチリです。
『初心のうた』練習のポイントまとめ
まとめです。
『初心のうた』は全体の構成感をつかみ、それぞれにふさわしい表現をすることが大切になってきます。
- 【冒頭】「闇」を象徴する響き。雰囲気作りが大事
- 【A】ひっそりと語るように。hとmの子音に注意
- 【B】全体の構成感を捉えて山場を作ろう
- 【C】歯車のモチーフに乗り遅れないように
- 【D】ずれて歌うメロディーを活かそう
- 【E】曲は光の差すほうへ。ポリフォニックな展開
- 【F】力強いメッセージを伝えきろう
合唱の練習方法についてはこちら(【ポイント6つ】全体練習(アンサンブル)をまとめる方法|合唱指揮者が解説)でまとめています。
コンクール攻略へ向けてやるべきことはこちらの記事(【まとめ】合唱コンクール完全攻略ロードマップ|3ステップで解説)にてまとめていますので合わせてご覧ください。