作曲者・編曲者|か行

【混声三部合唱】『証』練習・演奏のポイント|情熱的に歌い上げよう

『証』解説

2011年度Nコン中学の部課題曲の『証』(作詞:山村隆太 作曲:阪井一生 編曲:加藤昌則)の解説記事です。

合唱歴10年以上、指揮者の経験をもとに詳しく解説しました。ぜひ参考にしてください。ワンランク上の演奏に繋がるはずです。

「もっと詳しく解説してほしい!」という場合は、お問い合わせからお気軽にご連絡いたください。補足・追記いたします。

NHK出版「NHK 全国学校音楽コンクール 課題曲集 90回記念 中学校 混声合唱」に収録されている楽譜を参考にし、本文中で歌詞などを引用する場合には「””」で示しています。
(2025/10/29)全体的に追記しました。

練習・演奏のポイント

【A】

小さな音量でも歌詞をしっかり伝えよう

【A】の音量は、ソプラノがp(ピアノ/小さく)となっています。

音量としては小さいのですが、歌詞ははっきりと伝えられるようにしましょう。

歌詞は子音をしっかり目に発音することで伝わります。

[子音の例]

  • えを”…m
  • りかえってちゃ”…f
  • おざかる”…t
  • みに”…k

アルトはサブのメロディーです。ソプラノを邪魔しないようpp(ピアニッシモ/とても小さく)となっています。

伸ばす長さをそろえよう

【A】に限らないことですが、フレーズ終わりの音の長さをそろえることは、合唱の統一感を出す上でとても大切です。

例えば8小節に注目してみましょう。

まずソプラノの”あるけない”は、2拍目まで音が伸びています。3拍目には四分休符がありますから、ここに掛からないように音を切る必要があります。

一方、アルトの”あるけない”は3拍目まで音が伸びており、四分休符があるのは4拍目となっています。つまり、ソプラノと同じタイミングで音を切ってはいけないということになります。

【B】

ソプラノ・アルトでタテをそろえよう

【B】からはソプラノとアルトが同じタイミングで同じ歌詞を歌うようになります。(「タテがそろう」と言います。)

なんとなく歌うのではなく、「ここからはタテがそろうんだぞ」ということをお互いのパートが意識しましょう。

意識することで一体感が生まれ、よくハモるようになります。

アルトの存在感をアピールしよう

【B】では、アルトがしっかり目立ってアピールするべきフレーズがいくつかあるので取り上げておきます。

まずは17小節のアウフタクト(16小節4拍目)の、”ぼくは”のフレーズ。ソプラノのメロディーに対し、半拍先行する形でアルトが入ります。ここは自信を持って、声をしっかりと響かせて入りましょう。そうしないと、「間違えてしまったのかな?」とも思われてしまいかねないところです。むしろ、自分たちがソプラノを引っ張るんだ、という意気込みで歌っても良いでしょう。音量的にはmpですが、音域的に少し低いので、少し大きめかなと思うくらいでもバランスは取れると思います。

次に18小節の2拍目裏、”ゆめへ“です。この「ファ♯」の音は非常に取りにくい音だと思います。歌うべき音を頭の中に明確に思い描いた上で、音に上がるようにしましょう。

その上で、<>という記号が付けられています。これは>よりも柔らかなアタック感を持つアクセント記号です。少し目立たせてアピールして欲しい音ですが、攻撃的な感じにはならないようにしましょう。

【C】

クレッシェンドのやり方を工夫しよう

【C】では頻繁にクレッシェンドが登場します。

クレッシェンドはだんだん大きの意味ですが、毎回毎回大きくしていくと、いつか限界が来て息切れしてしまいます。少し工夫が必要です。

ここではクレッシェンドを次の2つに分けて考えてみたいと思います。

  1. 実際に音量を変化させるクレッシェンド
  2. 勢いをキープするクレッシェンド

①としては、21~22小節にかけてのクレッシェンドが挙げられます。ここではmpからmfへと大きく盛り上げます。28~29小節にかけてのクレッシェンドも同様で、mfからffへ、しっかりと盛り上げましょう。

②として挙げられるのは26小節、27小節のクレッシェンド。ここでは2拍分伸ばす間に勢いがなくなってしまわないよう、音量やピッチ(音程)をキープするイメージで歌いましょう。②パターンのクレッシェンドは毎回やると先程行ったように息切れしてしまいますし、音楽的にも少々しつこい感じになってしまうと思います。

24~25小節のクレッシェンドは①②の中間的な役割だと捉えましょう。

男声は音量バランスに気をつけて

【C】では男声が初登場します。低音部が強化されることで、一気に響きの厚みが増し、サウンドにボリューム感が出てきます。

この、「男声が入ることで生まれる効果」を十分に活かすには、パート間の音量バランスに配慮する必要があります。

混声三部合唱の男声パートは、次のような特徴があります。

  1. ソプラノ・アルトに比べてパートの人数が多くなりやすい
  2. 全体的に音域が高い

そのため、普通に歌ってしまうと、自然男声の音量ばかりが大きくなってしまい、バランスが悪くなってしまいます。結果として、最初に触れたような、「効果」が十分に現れてきません。

そうならないために、男声パートは女声の声をよく聴いて、寄り添うようにして歌ってみましょう。

特に、音が高くなっていくようなところでも荒っぽくならず、なるべく丁寧に歌うようにしいましょう。パートの人数が多いため、一人ひとりが頑張りすぎずとも、十分な音量は出るはずです。量より質を意識してみてください。

練習の際にできる工夫として、少しレベルの高いですが、パートの立ち位置をバラバラ(ソプラノ・アルト・男声が固まらずに混じり合った状態)で歌うという方法があります。

こうすることで、いつもはまり聴けないパートの声がよく聴けるようになり、全体のまとまり感がグッとアップする効果が見込めます。

また、どうしても男声が大きくなってしまうという場合は、男声を後列に配置する並び方も検討すると良いでしょう。こちらの記事(【7種類+】合唱パートの並び方(オーダー)を工夫しよう|メリット・デメリットも解説)も参考にしてみてください。

また、こちらの曲(【混声三部】《ふるさと(嵐)》(編曲:富澤裕)練習・演奏のポイント)においても、「男声が大きくなってしまう」という悩みに答えています。

【D】

主役意識を強く持とう

ここからはサビ。主役のメロディーを担当するのはアルトです。

普段アルトの人がメロディーを担当することは少なめですので、主役意識を強く持って歌いましょう。

音量はff(フォルティッシモ/とても強く)です。もし十分に音量が出ないときは、この部分だけソプラノから数人応援に来てもらっても良いと思います。

ソプラノはサブの旋律なので、少し人数が減ってもバランスは取れると思います。

言葉と言葉のまとまりを意識しよう

【D】のフレーズはメロディーのリズムが非常に複雑です。

こういった箇所では、「今どんな歌詞が歌われているのか」ということを見失ってしまいがちです。

例えば、最初のフレーズは”あふれだす なみだが きみを さえぎるまえに”ですが、リズム通りに歌うと、「あふれー」「だすなー」「みだがきー」「みを」「さえー」「ぎるー」「まえ-」「にー」のように、言葉が途切れ途切れのようになってしまいます。棒読みのように聴こえてしまう原因の一つでもあります。

このような場合、楽譜に歌詞を「漢字」で書いてみるというのが、第一の対策です。

歌になる前の歌詞に基づけば、”溢れ出す”、”涙が”、”君を”、”遮るまえに”となります。これだけで、ずいぶん言葉が浮かび上がってきたように感じられます。

その上で、今度は「どの言葉がどの言葉に掛かっているか」という点を意識してみましょう。そうすると、全体では”溢れ出す 涙が 君を 遮るまえに”というフレーズは、リズムや休符に関わらずひとまとまりのものとして捉える必要があることが浮かび上がってきます。

以上のことを意識していくと、段々とメロディーを魅力的に歌えるようになっていくと思います。

【E】

メロディーの交代を意識しよう

【E】の特徴はメロディーを担当するパートが短いスパンで切り替わること。

どのパートがメロディーを担当するかは矢印で示されています。

[メロディーを担当するパート]

  • “きずつけあーっ”…アルト
  • “てはなんども”…ソプラノ
  • “ゆるー”…アルト
  • “しあえたこと”…ソプラノ

自分のパートはどこでメロディーを担当することになるのか、頭に入れて歌いましょう。

パートが切り替わるところでは、メロディーがひとつながりで聞こえるよう、声質やピッチを統一することを意識して練習してみてください。

切り口を揃えよう

37~39小節は、1コーラス目を締めくくる大切なフレーズですから、伸ばす音の切り口をしっかり揃えて決めましょう。

タイで繋がれた音は、「◯拍伸ばす」という数え方では揃えにくいので、「このタイミングで切る」という考え方のほうがやりやすいと思います。

ここでは2拍目いっぱいまで伸ばし、3拍目ちょうどで音を切ります。

ピアノパートが四分休符を4回鳴らしますから、2回分は伸ばす、3回目に掛からないようにギリギリで切る、というふうに考えると良いと思います。

もちろん、指揮の動きに合わせて切っても良いでしょう。

【F】

音量バランスに注意

【F】は曲頭の【A】と同様のフレーズです。

【A】との違いは男声が入ること。これによりハーモニーがより豊かになります。

【C】でも触れましたが、ハーモニーを整える上で重要なことの一つが音量のバランスです。

43~44小節では男声の音域が高く、自然に声が大きくなり、バランスが崩れやすいフレーズですか。そこで少し抑え気味にし、丁寧に歌うと、バランスを取りやすいです。

逆に、42小節あたりは音が低いので、ややしっかりめに歌うほうが良いと思います。

ここでも切り口に注意

【F】の場面でも、伸ばす音の長さ、切り口を揃えることに注意しましょう。

例えば44小節では、女声は2拍目まで(3拍目に掛からないように切る)、男声は3拍目まで(4拍目に掛からないように切る)、それぞれ伸ばします。パートごとに切るタイミングが異なるのが正解です。

一方、46小節では、女声も男声も3拍目まで伸ばし、4拍目に掛からないように音を切ります。ここでは全員で切るタイミングを揃えることが重要です。

【G】

ロングトーンの注意点

【G】での注意点は【C】と同様です。

その他に注意したい点として、ロングトーン(伸ばす音)があります。

[ロングトーンの箇所]

  • “ぼくがもし
  • “ゆめ
  • “あきらめたな
  • “とおく
  • “しかって

ロングトーンでは長さをそろえたり、ハーモニーを整えることが重要になります。

ハーモニーを確認するためには、アカペラ(ピアノパート無し)で歌ってみるのが非常に効果的。また、テンポを落として練習してみると、どのような響きになっているのか、うまくいっているのか、そうでないのかということが実感できると思います。

【H】

アルトと男声で息を合わせよう

ここからはアルトが主役。

ソプラノはメロディーをオブリガート(メロディーを装飾するサブメロディー)的なフレーズを担当するため、【E】とは異なり、57~60小節の間はずっとアルトが主役です。

アルトの音量が不足してしまう、ソプラノばかりが聴こえてしまうという場合は、ソプラノのうち何人かがアルトを手伝っても良いでしょう。

また、アルトと男声はタテがそろっているので、タイミングを良くそろえて歌いましょう。

男声はハモリのとき(57小節など)とユニゾン(59小節など)のときがあるのでその点も意識すると音が早く取れると思います。

【I】

フレーズ終わりの違いを考えよう

【E】では37~39小節に「しだいに落ち着けて」という指示が書かれていました。フレーズの終わりに向かって、音楽を収束させる意図です。

一方で【I】には同様の指示はありません。

ここもフレーズの終わりではあるのですが、続く指示としてに「テンポを上げてリズミックに」があります。

つまり、ここでは音楽を収束させていくのではなく、むしろ前向きに押し出していくような歌い方が相応しい場面となっています。

続く音楽の内容によってフレーズの締めくくり方を変えましょう。

【J】

テンポを上げてノリよく弾こう

ここからはPoco piu mosso(ポーコ ピウ モッソ/前よりも少し早く)となります。

シンコペーションのリズムやアクセントを活かしてノリよく弾きましょう。

【K】

変化を感じて柔らかく歌おう

大きな変化がある場面です。音量やピアノパートの音形、テンポが異なります。

またdolce(ドルチェ/甘く、柔らかく)、legato(レガート/なめらかにつなげて)といった記号もありますので、見逃さずに表現しましょう。

【L】

テンポ感を切り替えて、遅れずに歌おう

TempoⅠ(テンポ プリモ/もとの速さで)があり、ゆっくりになっていたテンポがもとに戻ります。

ゆったりと優しい雰囲気から、またノリの良いテンポへしっかり切り替えましょう。

早くなったテンポに遅れないようにするのが大切です。

【M】

転調を明確に、熱く歌い上げよう

ここから♭の数が増えて転調します。サビの部分に関してはニ短調 → 変ホ短調という変化です。

この転調は前触れが短く、かなり突然切り替わります。瞬時に切り替えることができれば、聞いている人を驚かせるような効果が出せるでしょう。

半音高くなる転調ですので、その分音域も高くなります。ボルテージを上げて熱く歌い上げましょう。

【O】

お互い聴き合ってハーモニーを響かせよう

ラストは合唱らしいハーモニーが魅力的な場面です。

自分のパートの音をしっかり取るだけでなく、お互いの声を聴きあうことで豊かな響きが生まれます。

sfz(スフォルツァンド)はその音を特に大きくという記号です。

ポイントの振り返り

最後までご覧いただきありがとうございました。

「もっと詳しく解説してほしい!」という場合は、お問い合わせからお気軽にご連絡いたください。補足・追記いたします。