こんにちは!
今回は寺山修司作詩・信長貴富作曲《思い出すために》より『種子』について、詳しく解説していきたいと思います。
それではどうぞ!
もくじ
『種子』の魅力について語る!
まずは『種子』の魅力について語っていきます!
『種子』をざっくり紹介
『種子』は《思い出すために》の6曲目、曲集の最後の曲になります。
読み方は「たね」。
終曲らしくドラマチックな起伏とを持ち、しっかりとした盛り上がり所もあり、ラストは美しく幕を下ろします。
良い曲です。
前奏を聞いて暗い曲? と思うけど…
4/4拍子で、調号は♭6つ。変ホ短調から始まります。
前奏ではピアノが淡々と8分音符のアルペジオを奏します。
一聴して暗い曲なのかな? と思いますよね。
ところがこれが後半への布石となっているのです。
淡々と詩を語り進める
初めのメロディーはアルト。
メロディーを歌うというより、淡々と語っているような雰囲気(Parlando)です。
ピアノパートも前奏から引き続き淡々としています。
そんなわけでこの部分は非常にシンプル。
ここもまた後半の展開に向けての布石と言えるでしょう。
詩の内容に対応した展開
21小節目からは主旋律を担うソプラノ以外にもメロディー的な動きが出てきて、ポリフォニックな展開です。
旋律自体もそれまでの動きを抑えた感じでなく、少々メロディックな感じ、流れるような感じになってきています。
このあたり、詩の内容の変化を反映しているような気がします。
そして29小節目のmeno f(強さを抑えて)は一つ聴かせ所ですね。
印象的に音量を落とすことで、ややショッキングなワードを際立たせることができそうです。
冒頭の語りの再現に光が差し込む
37小節目まで、大きなまとまりとして一巡りです。
38小節目からは再び冒頭の語りが再現されます。
語り担当パートがアルトからバスになりますね。
ここで注目したいのがピアノのコードです。
前半ではE♭m⇔A♭mという風にマイナーコードを切り替えながら繰り返していました。
一方でこの部分ではE♭m⇔A♭という風にメジャーコードが登場します。
CesがCになっている(ナチュラルがついてる)ことがポイントですね。
これにより、前半では暗い雰囲気だったところに、一筋の光が差したような効果が得られています。
当然、ソプラノとアルトの音も同様です!
変ト長調への転調
46小節目からはこの曲で最も盛り上がる部分になります。
ここまでは基本的に変ホ短調で進行してきましたが、ここで変ト長調に転調。
明るく前向きな調になっています。
流れるようなピアノパートが前向きさを後押ししているようにも感じられますね。
問いを投げかけるようなテンションノート
54小節目からffで歌われる部分が、この曲全体通してのクライマックス部分になります。
ソプラノの音がコードに対するテンションノートになっていますね。
具体的には54小節だとE♭mに対する第9音、57小節だとA♭に対する第7音のような感じ。
テンションというのは、そのまま訳せば緊張している音。
つまりまだ落ち着いていない音ということになります。
自己完結しているのではなく、問いを投げかけている、そんな印象に繋がっていると思います。
美しく切ないハーモニーで終幕
59小節目、Meno Mossoからエピローグ的な部分となります。
ここもコードに注目。
例えば59小節目はC♭Maj7。
こういったMaj7コードは長調ながらピュアな悲しみをはらんでいます。
また、ピアノパート右手の音は、4度あるいは5度の音程で硬質な響きをもたらします。
これが繊細で脆いような印象を醸し出していますね。
またソプラノ&テノールと、アルト&バスによる掛け合いも繰り返されるテキストがが非常に印象的ですよね。
音量を弱めていきながら…なんだか遠くにフェードアウトしていくような雰囲気です。
これにて美しく幕引きとなります。
『種子』の難易度・演奏のポイント
『種子』は決して難曲ではありませんが、ドラマの起伏が大きく、構成感を理解して音楽を作っていく必要がありそうです。
冒頭・短調の中での語り、動きを持ったポリフォニックな展開、後半の初めで差し込む光、長調への転調、クライマックス、エピローグ。
各場面が曲全体に対してどのような役割を担っているか、良く考えることが必要だと私は思います。
そうすると曲中に書き込まれている音楽記号の意味も自然と掴めてくるような気がします!
まとめ:『種子』(寺山修司/信長貴富)
それではまとめです!
《思い出すために》より『種子』でした。
終曲らしく、非常に大きなドラマ感を持った曲。
美しく切ないエピローグが魅力的な曲でした。
演奏する際にもやはり、全体の構成感を掴むことがポイントになりそうです。
今回はここまで。それではまた!