合唱において、上質な演奏をするにはきちんとポイントを押さえて練習することはとても大切です。
この記事では合唱曲『未来』の歌い方のコツについて、合唱歴10年以上、合唱指揮者歴5年以上の筆者が詳しく解説します。
この記事を読みながら練習に取り組めば、確実にワンランク上の演奏を目指すことができるはずです。
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『未来』パート練習のコツ
全体練習に入る前に、まずはパート練習を行いましょう。
パート練習では次のようなことを意識してみてください。
- 自信を持って歌えるようにしっかり音を取る
- 音の長さやリズムを守れるようにする
- パート内で声を良く揃える
『未来』の全体練習(アンサンブル)のコツ
ここからは『未来』の全体練習(アンサンブル)のコツについて解説していきます。
練習は闇雲に何度も繰り返すのではなく、ポイントを押さえることで効率的にレベルアップしていくことができます。
次の練習番号をつけ、それに従って解説していきます。あらかじめ楽譜に書き込んでおくと練習がスムーズです。
- 【冒頭】1小節~
- 【A】13小節~
- 【B】21小節~
- 【C】29小節~
- 【D】38小節~
- 【E】44小節~
- 【F】49小節~
- 【G】59小節~
- 【H】67小節~
- 【I】76小節~
- 【J】84小節~
- 【K】92小節~
- 【L】100小節~
【冒頭】おおらかにたっぷりと歌おう
きらめくようなピアノの前奏を4小節聞いてから歌い出します。
最初のフレーズはおおらかに、たっぷりと歌いましょう。
フレーズ後半で登場するpoco dolce(ポーコ ドルチェ/少し甘く、柔らかく)とスラーにも注目。
ここからはよりいっそうなめらかに、優しい質感で歌えると良いと思います。
具体的にどう歌ったらdolce感が出るのかと言うと難しいですが、母音唱(子音無し、母音だけで歌う)という練習が効果的かもしれません。
“それはみらいのようだった”という歌詩なら、”おえあーいーあーいおーおーうーあーあー”のようになります。
【A】パートソロは自信を持って
13小節目から【A】です。
まずは男声によるパートソロ。こういったフレーズはちょっと不安になりそうですが、自信を持って堂々と歌いましょう。
途中からアルトが合流します。4小節分、アルトと男声は全く同じ音を歌うユニゾンです。
ユニゾンの箇所は簡単なようで、音がバラけていると悪目立ちします。
お互いの声をしっかりと聴きあって歌いましょう。
【B】リズムの変化を感じてシャッキリ歌おう
21小節目から【B】です。ここではリズムに注目。
これまでは8分音符~2分音符の比較的ゆったりとしたリズムのメロディーでしたが、ここで初めて16分音符が登場します。
“きまっている”という固めのニュアンスの言葉に対して音楽が対応していますね。このリズムを活かすために、ここは「シャッキリ」としたイメージで歌ってみましょう。
リズムを際立たせることが大事です。
【C】スケール感のあるクレッシェンドを
29小節目から【C】です。
やるべきことが多いので次の2点に分けて解説します。
- 男声のクレッシェンドの考え方
- 音量と歌い方の対比
C-1. 男声のクレッシェンドの考え方
【C】ではまず男声がメロディーを繰り返します。
30~31小節目に掛けて書かれているクレッシェンドがポイント。
前後の音量を確認してみると、直前の音量はf、続く音量もfです。
差が無いのでクレッシェンドしようがないようですが、ここでは「全体はfで歌いつつ、ここで瞬間的なクレッシェンドを見せる」というふうに捉えましょう。
ちょっと難しいですが、fの記号が単なる音量ではなく「f的な音楽」を指示しているという捉え方もできるでしょう。
もう一つ、このクレッシェンドは4分休符に向かって書かれていますね。
これは「伸ばした音が休符まではみ出してしまっても良い…」という意味ではもちろんありません。長さは守りましょう。
この書きっぷりからは、「休符のタイミングでスパッと切ったときに余韻が残るようなイメージで歌って欲しい」という作曲者の意図が読み取れます。
休符をめがけて「ぐぐっと」と盛り上げ、タイミングよく一気に解き放つ(音を切る)、そんなイメージで歌うと良いと思います。
“どこまでも”は注釈にて上の高いパートは歌わなくても良いと書かれていますが、個人的にはここはぜひ歌ってほしい部分です。
非常にロマンがあってかっこ良いメロディーです。
C-2. 音量と歌い方の対比
その後すぐにmp、そしてpoco dolceです。
【冒頭】でも登場したpoco dolceですが、これまでの勇ましい歌い方から変化をつけ、優しく歌いましょう。
その後クレッシェンド。このクレッシェンドはmp~ffとかなり音量の幅があります。
最終的な音量を見据えて、段々と音が膨張していくような、スケール感のあるクレッシェンドをイメージしてほしいと思います。
ffまでいった後、今度は一気にpへ。ここで一気に音量を絞ることで、聞き手を「ハッ」と引き込むような表現ができるでしょう。
またpoco dolce(少しドルチェで)からdolceになっているので、より優しく、ヒソヒソ声のような歌い方をしてみても良いかもしれません。
ヒソヒソ声のような歌い方を表す記号としてsotto voce(ソットヴォーチェ)という記号があります。まさしく「そっと歌う」という意味です。
【D】p系への変化を感じて。色合いは淡く
38小節目から【D】となります。ここから変ロ長調へ転調しています。
ポイントは次の2つ。
- 非常に繊細な和音。アルトがミソ
- p系への音楽の変化を感じて
D-1. 非常に繊細な和音。アルトがミソ
まずは前のフレーズ(”とけこむようだった”)を締めくくる和音を練習しましょう。
この和音は非常に繊細で複雑です。パートどうしで音がぶつかっており、音を取るのがかなり難しいですがしっかり練習しておきましょう。
和音の構成を整理しておきます。
- ソプラノの「ファ」…第5音
- アルト↑の「レ」…第3音
- アルト↓の「ド」…第9音
- 男声の「シ♭」…根音
これでB♭add9(ビーフラットアドナインス)という和音が完成します。
アルト↓の音が第9音となり、和音に普段とは異なる響きを添えています。
和音の練習が上手く行かないときは、まずはアルト↓以外の人で和音を作ってみましょう。こちらのほうがうまくいきやすいはず。その後アルト↓の人に入ってもらいます。
こうすることでどのように響きが変化するのかが分かり、和音の全体像が見えてきます。
この和音のロングトーンはデクレッシェンドしてppへ。歌詩の通りピアノの鳴らす和音の中に溶け込んで行きます。
D-2. p系への音楽の変化を感じて
続くフレーズである”あおぞらのそこには”からはこれまでとはまた違った雰囲気に変化しています。
これまで、どちらかといえばmf~f系の「歌う」音楽だったのに対し、ここからはしばらくp系が中心の音楽。
このような音楽の構成感が意識できているのとそうでないのでは、完成したときの説得力や統一感が違ってきます。
【E】ppは思い切って繊細に。謎めいた雰囲気に
44小節目から【E】です。
最初の音量はppで、”むげんのれきしが”という歌詩はやや謎めいた雰囲気。ちょっと哲学的な雰囲気も感じますね。
加えてテヌートがたくさんついています。この解釈は難しいですが、「音量は小さく、しかし言葉ひとつひとつが軽々しい感じにならないよう、少し噛み締めて」というような感じで捉えてみてはどうでしょうか。
具体的にどう歌ったら良いかというところまで噛み砕くと、「言葉を大切に、mとnの子音
をしっかり響かせて」という言い方もできると思います。
“むげん”のmとnは聞いている人に届きにくい音です。これが十分に響かないと”うげーのれきし”のように聞こえてしまいます。
【F】アクセントはハッキリと固く
49小節目から【F】です。
この場面のポイントはアクセント記号の表現です。”それに”、”くわわろうと”といった言葉についていますね。
ハッキリと、固い質感で歌ってみましょう。
この歌詩では「休符に向かって解き放つクレッシェンド」がここでも再び登場していますので、この点もアピールポイントです。
【G】f系をキープしつつ、一転してなめらかに
59小節目から【G】です。ここで変イ長調へ転調しています。
【G】でのポイントはf系をキープしつつ、音どうしをなめらかに繋げる歌い方はキープするということです。
音量がアップするとついついアクセント系の固い歌い方になってしまいがちですが、それだけがfの表現方法ではありません。
音量とアーティキュレーション(歌い方)の組み合わせはいろいろと考えられます。整理してみましょう。
- f系+アクセント系(大きく、そして固く)
- f系+スラー系(大きく、しかしなめらかに)
- p系+アクセント系(小さく、しかし固く)
- p系+スラー系(小さく、そしてなめらかに)
この場面では「②f系+スラー系(大きく、しかしなめらかに)」が該当します。
たっぷりと豊かに、という言い方がされるようなフレーズです。
先程は「アクセント=固く」のように表現しましたが、必ずしもそれだけではありません。
他に「バウンド感」、「短く切って」といった解釈方法が考えられます。
また、dolceに関しても、例えばppの場面では、「淡く」、「ミステリアスに」、「声をひそめて」などの表現をすることができます。【E】の解説などがその例です。
【H】アーティキュレーションの対比で魅せよう
67小節目から転調してホ長調となります。
ここからはアクセント記号が登場しています。
先程整理した歌い方の分類で言えば、「①f系+アクセント系(大きく、そして固く)」が該当しますね。
アクセント以外の記号もあるので、まとめてみます。
- “ぼくもまた”…記号なし
- “それを”…アクセント
- “めざして”(1回目)…テヌート
- “めざして”(2回目)…スラー
かなり難しいですが、これらをすべて歌い分けることができるとかなり音楽に深みが出てきますし、作曲家のイメージした音像に近づいていけるでしょう。
難しいのはテヌートだと思います。アクセントのように固くはならず、しかし一つ一つの音をしっかりと踏みしめて歌うようなイメージ。
かつ、強いアタックは無いものの、スラーやdolceよりはカドの立った感じです。
スラーの”めざして”はfffで、『未来』全体を捉えたときに、中間部の大きな山となる部分です。
dolceでなくスラーなのは、なめらかに歌いつつもソフトタッチにならないように、と捉えることができます。
【I】冒頭の再現。切り替えが必要
76小節目から【I】となります。変ト長調に転調しています。
場面としては『未来』冒頭の場面の再現部となります。
これまでにfをどんどん歌って来ていますが、ここで一旦落ち着きますので切り替えが肝心です。
【J】転調部分あり。音をしっかり確かめて
84小節目から【J】です。
曲の前半の【B】に当たる部分ですが、違いは90~91小節目。次の【K】に向かう部分です。
ここでは【K】での転調を予期させる和音進行となっており、そのため音が難しくなっています。特に動きの多い男声が難しいですね。
何回も練習して体に染み込ませるのが1つの方法。
そしてもう1つ重要なのはピアノパートの音をよく感じ取ることです。それによって和音全体の感じがつかめるはず。そこから音を拾い上げてみましょう。
ピアノをよく聞くと、正しい音が歌えたときに「ピタッ」とはまる感覚があるはずです。
音取りに関してはこちら(【苦手を克服】合唱の音取りが早くなるコツ11選|絶対音感無しでもできる)が参考になると思います。
【K】ラストの盛り上がり! しっかり歌い上げよう
92小節目から【K】です。予告通り転調し、ト長調となります。これで曲最初の調に回帰してきました。
ラストの盛り上がり、クライマックス部分なのでしっかり歌いましょう。一番の山は98小節目からの”みらいのようだ”ですね。
スラーがついているので全体としてはなめらかにですが、その上テヌートがついていて解釈に苦慮するところでもあります。
ここでは次のように考えてはどうでしょうか。
- スラー…”みらいのようだ”を1つのまとまりとしてとらえる
- テヌート…一つ一つの言葉をしっかり踏みしめて、充実した響きで歌う
途中で4分休符がありますが、ここではブレス(息継ぎ)をしない約束にすると、1つのフレーズとしてまとまります。
このように記号のつき方が複雑なところでも、一つひとつ考えて自分たちなりの解釈にたどり着くことが大切です。
また、それをメンバー全体で共有して、なるべく同じイメージを持てるようにしましょう。
【L】休符が命!
100小節目から【L】です。ラスト!
次の2点を解説します。
- 休符ではブレスを合わよう
- fpからのクレッシェンドのポイント
L-1. 休符ではブレスを合わよう
【L】の場面では休符が命です。休符をしっかり合わせることで音符が生きてきます。
[重要な休符]
- 100小節目、3拍目、4分休符
- 103小節目、1拍目、2分休符
- 105小節目、3拍目、2分休符
- 108小節目、2拍目、4分休符
これらの休符では次のようなことを意識してみてください。
- 休符の直前まで音を伸ばしきる
- 休符ではブレス(息継ぎ)のタイミングを合わせる
- 切り口がモヤッとならない(大根切り)
特に最後の休符(108小節目、2拍目、4分休符)では、直前の4分音符に注意が必要です。
小節の頭でピアノが「ジャン!」と鳴った瞬間に切ってしまうのではなく、1拍分の音価を保ちましょう。
この1拍の中でさらにダメ押しのクレッシェンドを決めて、空間に響きを放り投げるようなイメージで切ると、曲の最後を圧倒的な迫力で締めくくることができます。
fpからのクレッシェンドのポイント
106小節目の強弱記号を見てみましょう。
fからすぐにpに向けて小さくし、その後ラストに向けてクレッシェンドがあります。
次のことを意識すると、効果が倍増します。
- どのタイミングでどこまで小さくするか
- どれくらいのペースで大きくしていくか
- クレッシェンドしたときに発声・和音を崩さない
音量を変化させる足並みを揃えること、良い発声をキープすること、お互いの声を聴きあうことを忘れないようにしましょう。
まとめ:合唱曲『未来』歌い方のコツ【ダイナミックさと繊細さがカギ】
お疲れさまでした! まとめです。
- 【冒頭】おおらかにたっぷりと歌おう
- 【A】パートソロは自信を持って
- 【B】リズムの変化を感じてしゃっきり歌おう
- 【C】距離感のあるクレッシェンドを
- 【D】p系への変化を感じて。色合いは淡く
- 【E】ppは思い切って繊細に。謎めいた雰囲気
- 【F】アクセントはハッキリと固く
- 【G】一転してなめらかに
- 【H】アーティキュレーションの対比で魅せよう
- 【I】冒頭の再現。切り替えが必要
- 【J】転調部分あり。音を確かめて
- 【K】ラストの盛り上がり! しっかり歌い上げよう
- 【L】休符が命!
全体として、強弱とアーティキュレーションの表現がポイントとなります。
一つひとつの記号の解釈、作曲者の意図を自分たちになりに考えてみて下さい。
その他、全体練習のポイントについてはこちらの記事(【ポイント6つ】全体練習(アンサンブル)をまとめる方法|合唱指揮者が解説)も参考になると思います。
また、コンクールまでにやるべきことはこちらの記事(【まとめ】合唱コンクール完全攻略ロードマップ|3ステップで解説)でまとめていますのでぜひ参考にされて下さい。