合唱曲紹介・解説

『祝福』(池澤夏樹/木下牧子)を解説|古代の海と神秘の和音

こんにちは!

今回は池澤夏樹作詩・木下牧子作曲、混声合唱組曲《ティオの夜の旅》より『祝福』の紹介です。

曲調や難易度、曲の魅力・鑑賞のポイント、演奏・練習のポイントなどについて解説したいと思います!

この曲を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人のお役に立てば幸いです。

それではどうぞ!

『祝福』ってどんな曲?

まずは『祝福』という曲について、「この曲知らない!」「初めて知った!」という人のために、作詩者・作曲者、難易度、曲調についてざっくりと紹介します。

作詩は池澤夏樹、作曲は木下牧子

『祝福』の作詩は池澤夏樹、作曲は木下牧子

全5曲からなる混声合唱組曲《ティオの夜の旅》の1曲目です。

《木下牧子アカペラコーラスセレクション》にも収録されている作品です。

難易度は…上級

『祝福』の難易度は、上級です。

前書きにも書かれている通り、4パートがそれぞれ2ずつに分かれて歌う実質八部合唱の作品です。

ハーモニーも一筋縄ではいかない複雑なものを持っており、なかなかの難曲です。

曲調は…重厚・神秘的・厳粛な無伴奏作品

前書きによれば

無伴奏の厳粛な雰囲気を湛えた曲

とのこと。まさしくそんな感じです。

8パートが織りなす重厚で神秘的なサウンドも魅力です。

『祝福』の魅力について語る!

続いては『祝福』という曲を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、曲の魅力や鑑賞のポイントについて語っていきたいと思います。

古代を感じるメロディーと深い海のハーモニー

冒頭の部分ではアルトとバスのユニゾン。骨太なメロディーで、厳粛な雰囲気を予感させる始まり方です。

ラの音につけられたナチュラルに注目。これによって教会旋法の一つ、ドリア旋法となっています。古代の趣を感じますね。

続いてソプラノ・テノールによるハミングが入りハーモニーの彩を添えます。

それぞれがニ声に分かれて構成する複雑な和音です。

これにより音楽全体が一気に鮮やかに。深い海を思わせる色彩です。

アルト・バスの単旋律との対比が効果的ですね。

降り注ぐように・湧き上がるように折り重なる音

冒頭のメロディーの後、続いては折り重なるようにハミングが奏でられます。

まずは女声から。2つに分かれたソプラノの上からアルトの低音域へ。海中へ光が降り注ぐような印象です。

次は男声。女声とは逆にローベースからテノールへ、高い声部が後から重なってい行きます。海底から響く地鳴りのように、あるいは海底から湧き上がるような印象です。

”光”、”光あれ”、繰り返されるフレーズで立体的に

『祝福』の曲中、メロディーの合間で”光”・”光あれ”という言葉が繰り返されます。

メインのメロディーとは異なる意志を持っているかのような、または別の階層から響いてくるような感じを私は受けます。

これによって音楽に奥行き・立体感が与えられます。

先行するバスのメロディーと宙に浮く四声帯

中盤ではバスが低い音域でメロディーを歌います。バスパートの見せ場的な部分。

ここでは女声が4パートに分かれてハーモニーおよび対旋律的な動きを務めます。

両者の音域が結構離れているため、それぞれがまるで独立して動いているかのような感じを受けます。もちろん実際には音楽的に矛盾しないメロディーやハーモニーとなっています。

海底を這うように響くバスと、水深の浅い部分でたなびくような女声の対比が印象的です。

クライマックス部分 圧倒的なC-moll

クライマックス部分で轟轟と鳴り響くのは圧倒的なC-moll(Cm、ハ短調)の響き。

それまで用いられてきた和音は基本的にセブンスやメイジャーセブンスのやや複雑な和音でしたが、ここではシンプルなCmのコードが用いられています。逆に新鮮です。

シンプルな響きだからこそこの力強さが得られているのでしょうね。

冒頭のメロディーの再現とオブリガート

クライマックス部分のC-mollの和音の背後から現れるのは、アルトとバスのユニゾンによる骨太なメロディー。冒頭で示されたものの再現です。

冒頭との違いはソプラノとテノールがただ和音を奏でるだけでなく、動きのあるオブリガートを担当しているということ。

特にソプラノのフレーズははかなりの高音域で、劇的な雰囲気づくりに大いに寄与しています。

”光”を孕んだ終止の和音

終止の和音はCadd9。『祝福』は基本的にハ短調(♭3つの短調)の進行なので、C-durの和音はピカルディ終止の趣です。

ナインス(D音)が加えられたコードは”光”を孕んだ響き

また、和音の色彩を決定づける第3音(E音)に解決するトップテノールの動きも魅力的ですね。

まとめ:『祝福』(池澤夏樹/木下牧子)

それではまとめです!

混声合唱組曲《ティオの夜の旅》より『祝福』でした。

古代の海を思わせるメロディー、八声による重厚で神秘的なハーモニーなどが魅力の作品です。

終盤に訪れる圧倒的なクライマックスと”光”を孕んだ終始和音も印象的。

かなり難曲ですがその分演奏効果も高い作品です。

今回はここまで。お読みいただきありがとうございました!