合唱曲の詳しい解説

『海神』(池澤夏樹/木下牧子)を解説|軽妙、そしてユーモラス

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こんにちは!

今回は池澤夏樹作詩・木下牧子作曲、混声合唱組曲《ティオの夜の旅》より『海神』の紹介です。

曲調や難易度、曲の魅力・鑑賞のポイント、演奏・練習のポイントなどについて解説したいと思います!

この曲を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人のお役に立てば幸いです。

それではどうぞ!

『海神』ってどんな曲?

まずは『海神』という曲について、「この曲知らない!」「初めて知った!」という人のために、作詩者・作曲者、難易度、曲調についてざっくりと紹介します。

作詩は池澤夏樹、作曲は木下牧子

『海神』の作詩は池澤夏樹、作曲は木下牧子

全5曲からなる混声合唱組曲《ティオの夜の旅》の2曲目です。

難易度は…中級

『海神』の難易度は、中級です。

《ティオの夜の旅》の中では間奏曲的な位置づけとあって、比較的小規模な作品となっています。

音もそんなに難しくなく、divisiも例えば1曲目の『祝福』なんかと比べて少なめ。

《ティオの夜の旅》の中ではかなり取り組みやすい作品です。

曲調は…軽妙でユーモラス

『海神』は軽妙でユーモラスな作品。

テンポ速めの6拍子で、細かい音符のメロディーや掛け合いが楽しい曲です。

タイトル『海神』、これって何と読むのでしょう?

私は普通に「かいじん」だと思ってましたが…。

ウィキペディアによると、

海神(わたつみ、わだつみ、うながみ、かいじん)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より

とのことです。

「わたつみ」「わだつみ」というのは日本神話っぽいですよね。綿津見。

詩の雰囲気とか曲の雰囲気とかからするとやっぱり「かいじん」で良いのではないかと思えますがどうでしょう?

『海神』の魅力について語る!

続いては『海神』という曲を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、曲の魅力や鑑賞のポイントについて語っていきたいと思います。

想像を掻き立てられる大胆なオープニング

『海神』は曲の始まり方がなかなか特徴的です。

初っ端にジャラ~ンと鳴るのはピアノによるアルペジオ。A9のコードです。

ト長調(#×1の長調、実際にこの曲はホ短調でしょうが)においてはドッペルドミナントとなる和音で、これをいきなり最初に使うのはなかなか大胆な発想です。

続く和音にも良い意味で予想を裏切られます。普通ドッペルドミナントには当然ドミナントが続くのでD7の和音が続く…と思いきやCm。しかもCmM7ですね。これまた珍しめの音。

初めの2小節でいきなり驚きの連続。”海が神だとは思えない”という歌詩もあいまって、「いったいどんな曲が始まるんだろう?」、そんな想像を掻き立てられるオープニングです。

軽快なフレーズ、いたずらっぽい歌詩

曲は短調で進みますが、重々しさはなくむしろ軽やかな感じ。

”椰子の葉を”からは男声女声の掛け合い。16分音符の軽快なフレーズといたずらっぽいような歌詩が楽しい部分です。

下向きに重なっていくメロディーとドライな和音進行

”ぐらぐらと”の部分はソプラノ、アルト、トップテノール、セカンドテノール、バスの順で歌詩を歌っていきます。

それぞれのパートが歌詩を歌った後はロングローンとなりそれらが和音を作りますが、どんどん音が重なって和音が変化していくのが面白いところ。

G9 → B♭M7 → E♭M7(9)Em7(9)

という感じですね。

特に最後の赤色で示したところの和音進行は、結構予想を裏切られる感じです。

一応ホ短調のトニック(主和音)ですが、どっしりとした終止感はありません。テンションがついていて解決しきらないことや、捻った和音進行のが理由でしょうか。(普通はB7 → Emのように進みます。)

D音とFis音(ピアノパートにあります)のテンションがドライ・乾いた感じを醸し出しているように思います。皮肉的、冷笑的とも言えるかもしれません。

美しく叙情的な場面、でもちょっと虚ろな感じ

中間部にソプラノのパートソロの場面があります。途中からアルトも合流。

とても美しく叙情的な場面です。しかしどこか虚ろな感じも受けます。

ピアノパートの伴奏も含め低音部が無いので浮足立ったというか、しっかりとした土台が無い感じになっています。

歌詩とも対応していますね。

”おれたちは”→カッコいい

男声合唱による”おれたちは”のフレーズ。これがとてもカッコいいのです。

テノール、バスとも結構高音域ですがめちゃくちゃ魅力的なフレーズ。

『海神』において男声のいちばんの歌い甲斐はこの部分かも。

”たしかに” ”しかし” ”そんなわけで”

要所で登場する歌詩、”たしかに” ”しかし” ”そんなわけで”

詩っぽくないというか、散文チックな感じで面白いですね。

それぞれアルト、バス、テノールがパートソロで歌いますが、その瞬間だけピアノパートの音がスッと消えて、歌詩を印象付ける工夫がされています。

音楽的にもこの歌詩をきっかけに場面が切り替わる、トリガーの役割を果たしています。

ふわっと盛り上がって潔く終幕

『海神』の最後の場面はfまでふわっと盛り上がって、そのままストンと終わります。

ピアノパートがスタッカートの付いたフレーズを軽やかに奏でて終幕。

なんとも潔く、ユーモラスなエンディングです。

まとめ:『海神』(池澤夏樹/木下牧子)

それではまとめです!

混声合唱組曲《ティオの夜の旅》より『海神』でした。

軽妙なフレーズが特徴的なユーモラスな作品です。

要所で登場する散文的な接続詞と捻った和声進行にも注目です。

今回はここまで。お読みいただきありがとうございました!