こんにちは!
今回は千原英喜作曲、混声合唱のための《どちりなきりしたん》より『Ⅴ(Ave Verum Corpus)』の紹介です。
曲調や難易度、曲の魅力・鑑賞のポイント、演奏・練習のポイントなどついて解説します。
この曲を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人のお役に立てば幸いです。
それではどうぞ!
もくじ
『Ⅴ』《どちりなきりしたん》ってどんな曲?
まずは『Ⅴ』《どちりなきりしたん》という曲について、「この曲知らない!」「初めて知った!」という人のために、作詩者・作曲者、難易度、曲調についてざっくりと紹介します。
作曲は千原英喜 歌詩は日本語とラテン語
『Ⅴ』の作曲は千原英喜。
全5曲からなる混声のための《どちりなきりしたん》の5曲目、終曲です。
ラテン語のテキスト『Ave Verum Corpus(アヴェ ヴェルム コルプス/幸いなるかな、まことの御身体よ』が用いられています。
難易度は…初級~中級
『Ⅴ』《どちりなきりしたん》の難易度は、初級~中級です。
シンプルなハーモニーが中心で取り組みやすい作品です。
ややdivisiが多いことと、弱音(p、pppなど)の表現がこの曲の難しいところです。
曲調は…どこまでも純粋で静かなエピローグ
この曲には《どちりなきりしたん》のエピローグとして、全体を締めくくる役割があります。
激しさはなく、どこまでも純粋で静かな音楽。
全4曲での音楽的ドラマで高ぶった心を鎮めるような、癒すような、そんな曲調です。
『Ⅴ』《どちりなきりしたん》の魅力について語る!
続いては『Ⅴ』《どちりなきりしたん》という曲を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、曲の魅力や鑑賞のポイントについて語っていきたいと思います。
おだやかに、ゆったりと流れるハーモニー
冒頭のフレーズではおだやかに、ゆったりとハーモニーが流れます。
大きな河を遠くから眺めると激しい流れは感じませんが、しかし確実に水は流れて行っていますよね。私ならそんな印象を受けるところです。
この印象を作り出しているのはバスパート。Ges音をペダル的に鳴らし続けることでこのような効果が得られています。
内声によるハーモニー的な装飾も無駄を削ぎ落した最低限のものです。
短調で血が流れる痛みを。しかし生々しくなく
続くフレーズからは短調(平行調)に切り替わります。
ここで歌われる歌詩を巻末から引用しますと、こんな感じ。
御脇腹を刺し貫かれ、水と血とを流し給えり。
イエス・キリストが十字架にかけられ、処刑される場面のことを言っています。
暗いの響きに切り替わり、音量もppからmpに変化。これによりサウンドの存在感を増して流れる血の痛みが表現されます。
しかしあくまでもメロディーやハーモニーは美しく。生々しさは感じません。
あくまで抑制された音楽の中での表現がこの曲の良さでもあります。
天に昇るようなメロディーとハーモニー
続くのは天に昇るようなイメージのメロディー・ハーモニー。
ハーモニーを担当するアルト・テノール・バスが高音域で和音を構成しているのがその理由のようです。
第二転回形(バスが第五音を歌う)ことで浮遊感も生まれています。
ここで歌われる歌詩は、
願わくば死の試練に先立ち、われらに天国の幸いを味わしめ給え。
です。
私の和音の転回形のイメージはこんな感じ。
- 基本形:どっしりと地に足がついた感じ
- 第一転回形(バスが第三音):ふわーんとした浮遊感
- 第ニ転回形(バスが第五音):天空の城
いきなり「天空の城」って意味不明ですが…。
第二転回形は和音を構成する音同士の結びつきが強い感じがして、ソリッドな感じの響きに感じるのです。
しかし転回形特有の浮遊感(地に足がついてない感じ)もあり…。
全体で「天空の城」というイメージになっています(笑)。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
どこまでも静謐に、純粋に。《どちりなきりしたん》の世界を締めくくる癒しの響き
曲の締めくくりはどこまでも静謐で純粋な響きのハーモニーで終わります。
《どちりなきりしたん》4曲目までには様々なドラマがありました。
その中で高ぶったり擦り減ったりした気持ちを慰め、安息を与えてくれるような響きに感じられます。
Adagissimo(Adagio=緩やかにの最上級)にそれが現れているようにも思います。
まとめ:『Ⅴ』《どちりなきりしたん》(千原英喜)
それではまとめです!
《どちりなきりしたん》より『Ⅴ』をご紹介しました。
静かで、美しい調和のある作品でした。
途中、テキストに対応した痛みの表現もありますが、あくまでも抑制された音楽の中でなされます。
最後は癒しの響きによって《どちりなきりしたん》の世界全体を締めくくります。
今回はここまで。お読みいただきありがとうございました。