こんな方に向けた記事です。
合唱において、上質な演奏をするにはきちんとポイントを押さえて練習することがとても大切です。ですが合唱に関するしっかりとした知識を持っている人は多くありません。
この記事では合唱曲『あなたへ』の歌い方のコツについて、合唱歴10年以上、合唱指揮者歴5年以上の筆者が、どこよりも詳しく解説します。
この記事を読みながら練習に取り組めば、確実にワンランク上の演奏を目指すことができるはずです。
ぜひご利用ください。
もくじ
『あなたへ』パート練習のコツ【歌い方を解説】
どんな曲でもそうですが、まずはしっかりとパート練習を行いましょう。
パート練習では次のことが大切です。
- 各パートの音をしっかり取る
- パート内で音を合わせる
- パートごとの課題を克服する
各パートで取り組んでおくべきことに関しては以下の記事に詳しくまとめてあります。あわせてご活用ください。
合唱曲『あなたへ』歌い方のコツ【全体練習のポイント】
ここからは、歌い方・練習のポイントを解説していきます。
特にアンサンブル(全体練習)に特化した内容になっています。
【練習番号A】ユニゾンは全員で協力して歌おう
5小節目~【A】となっています。Aメロ的な部分と言っても良いでしょう。
ここで難しいのは例えば次のフレーズです。
- ”そのしろいつばさで”
- ”まだみぬせかい”
ここでは非常に幅広い跳躍(音が飛ぶこと)があるため、飛んだ先の音がはずしてしまったり、バラついたりすることが予想されます。
低い音はアルトの人を中心に、上がった音はソプラノの人を中心にお互い協力し合いましょう。男声も低い音が得意な人、高い音が得意な人がいると思いますので同じようにします。
合唱全体でメロディーが繋がって聞こえるようになるとバッチリです。
その他に跳躍のあるメロディーを上手に歌うためのポイントを挙げておきます。
- 上がった先の音をしっかりイメージ
- 音と音とをなめらかに繋ぐことを意識
- 低い音と高い音で大きく音量が変わらないように
【A】その他のポイント
- 言葉の切れ目を意識する(楽譜に漢字を書いておこう)
- “はくもくれん”、”はてしない”など、ハ行で始まる言葉をしっかり伝える
【練習番号B】音の粒をはっきりと歌おう
21小節目~【B】です。サビ的な部分となっていますので、以下のことを意識してみましょう。
- 音量…f(フォルテ/強く)
- 指示…”(力強く)”
- リズム…16分音符主体
特徴的なのはメロディーを形作るリズム。16分音符が主体となっており、ビート感と力強さを醸し出しています。ここではそれをより強調して、音の粒をはっきりと、リズム感を生かして歌いましょう。
一方、2分音符主体がフレーズは滑らかに歌うことで対比が生まれます。こちらの記事(【ポイント解説】合唱曲『あなたへ』男声(テノール)パートの歌い方とコツ)で触れています。
【練習番号C】cresc.を見逃さずに表現しよう
29小節目~【C】です。【A】の繰り返しで、2番の歌詩となっています。
まずは【A】と同じく跳躍音程に注意して、メロディーを上手に歌えるようにしましょう。
また、33小節目にはcresc.(クレッシェンド/だんだん強く)の記号が書かれています。字で書いてあるクレッシェンドは見逃しがちなので忘れず表現しましょう。
クレッシェンドでは、どこからどこまで強くするかということを確認しておくのが大切です。ここおでまmp~mfまでじわじわと高めていくクレッシェンドとなっています。
【練習番号D】【B】との違いを表現しよう
45小節目~【D】です。
【B】と同じくサビの場面で似ていますが、違いもあります。先ほどは”(力強く)”と書かれていましたが、こちらでは”(訴えて)”となっています。
少し先取りして、サビに当たる場面に書かれている指示をまとめてみましょう。
- 【B】…”(力強く)”
- 【D】…”(訴えて)”
- 【E】…”(決然と)”
- 【F】…”(輝いて)”
このように、場面ごとに書かれている指示が異なります。これらをどう表現するか、歌い分けるかということが『あなたへ』を演奏する際のポイントとなりそうです。
”(訴えて)”というのは、他の箇所での指示に比べて激しい感情を思わせます。感情的な表現をするコツのひとつは子音を強調して歌うことです。
子音とは、息が口の中の舌、歯、唇などによって作られる音のこと。例えば「か(ka)」と言う時のk、「さ(sa)」と言う時のsの音です。
強調すべき子音と該当する箇所をいくつか挙げておきたいと思います。
- “はりさけるような”…h子音
- “かなしみのいきば”…k子音
- “にえたぎるような”…n子音
- “にくしみのでぐち”…n子音
ここで示したように、語頭(=言葉の1文字目)の子音が強調すべき子音です。これらをはっきり発音すると歌詩が伝わりやすくなりますが、それをさらに拡張して表現することで、”(訴えて)”の表現につなげることができると思います。
【練習番号E】オブリガートのラインを生かそう
53小節目~【E】です。ここからオブリガート、つまり主旋律に対する装飾的なメロディーのラインが加わります。
新しい要素となりますから、入ったことをしっかりとアピールしましょう。
また、主旋律とオブリガートのアンサンブルも重要です。お互いの声を聴き合い、ハーモニーやタイミングを感じながら歌いましょう。
【練習番号F】音量・声質の違いを明確につけよう
61小節目~【F】です。これまではト短調でしたが、ここでイ短調に転調します。キーが全音上がりこととなり、いっそうヒートアップしてきます。
特に前触れなくいきなり調が変わるため、「ここで転調するぞ」ということを事前にしっかり把握しておくことが必要です。特に、61小節アウフタクトの“てとて”の「シ♮」はクリアに取りたい音です。
強弱の面ではpiu f(ピウ フォルテ/fより一層強く)と書かれていますから、fよりワンランクアップさせ、より盛り上げていきたい場面です。
先ほど確認した通り”(輝いて)”とありますから、歌詩の変化とも関連させて表現しましょう。
68小節は一瞬2/4拍子となりますから、注意が必要です。男声は”あい”の入りに遅れないように。十分に歌わないと埋もれてしまうおそれもありそうですから、しっかり歌ってアピールしましょう。指揮者は男声に向かってキュー出しをしたいフレーズです。
【練習番号G】ハーモニーを決めて曲を締めくくろう
最後はff(フォルティッシモ/とても強く)で壮大に曲を締めくくりましょう。
また、音量と合わせてハーモニーも大切です。気持ちを熱く持ちつつも、周りの音を聴きながら歌うことも忘れないようにしましょう。
ハーモニーを確認する際には、ピアノパートはお休みにしてアカペラで歌ってみるのが効果的な練習法です。その際には、ffで歌わなくても良いので、一つ一つのハーモニーをしっかり感じ取ることに注力しましょう。
ここではアルトが伸ばし続ける「ド」の音が全体を支える土台の音となります。ソプラノ、男声は特にアルトの音を聴きながら、自分の音を出すようにしましょう。
合唱曲『あなたへ』指揮のコツ
『あなたへ』の特徴として、メインメロディーを担当するパートが頻繁に入れ替わることが挙げられます。
この入れ替わりを明確にアピールするためにも、指揮者はそのパートの方にしっかりキュー出しをすることがポイントとなります。
キュー出しは、歌い出す直前(1拍前など)で、そのパートに向かって振ったり、アイコンタクトを活用して行います。
この際、「どんなふうにメロディーを歌ってほしいか」ということをイメージし、それを振り方に反映できると更に良くなります。
例えば、大きく歌ってほしければ大きく振る、リズムを際立たせてほしければ、腕を緊張させて固く振る、などです。
まとめ:合唱曲『あなたへ』歌い方のコツ
合唱曲『あなたへ』を解説させていただきました。まとめて振り返ります。
- 【練習番号A】ユニゾンは全員で協力して歌おう
- 【練習番号B】音の粒をはっきりと歌おう
- 【練習番号C】cresc.を見逃さずに表現しよう
- 【練習番号D】【B】との違いを表現しよう
- 【練習番号E】オブリガートのラインを生かそう
- 【練習番号F】音量・声質の違いを明確につけよう
- 【練習番号G】ハーモニーを決めて曲を締めくくろう
全体練習をしていると「ここの音が不安だな」「このリズムがばらつくな」というところが出てくると思います。
そういうときはまたパート練習に立ち返って繰り返し練習しましょう。
パート練習⇔全体練習を何度も行き来して繰り返すことで、演奏の完成度は加速度的に高まっていくはずです。
その際、この記事も繰り返し活用していただけますと幸いです。



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