本記事では寺山修司作詩・信長貴富作曲による、寺山修司の詩による6つのうた《思い出すために》を紹介致します。
- 曲集全体の解説
- 作詩者・作曲者について
- 編成・難易度について
- 曲集の魅力
- 各曲の紹介
をまとめています。
この曲集を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人は是非役立ててください!
もくじ
《思い出すために》の概要
まずは寺山修司の詩による6つのうた《思い出すために》の全体的な解説および収録曲の紹介を行いたいと思います。
《思い出すために》の概要は以下の通りです。
- 作詩者:寺山修司
- 初演:合唱団響ーkyoー(2004年)
- 全曲の演奏時間:約15分
- 編成:ピアノ付き
- 難易度:初~中級
- レパートリー:合唱祭、演奏会などに
収録曲
思い出すためには全部で6つの作品からなる曲集となっています。
演奏時間は2分~3分30秒と比較的コンパクトな作品となっています。
- 『かなしみ』(ca.2’20”)
- 『てがみ』(ca.2’00”)
- 『世界のいちばん遠い土地へ』(ca.3’10”)
- 『ぼくが死んでも』(ca.2’30”)
- 『思い出すために』(ca.2’50”)
- 『種子』(ca.3’30”)
解説:四声の立体
《思い出すために》の初演は2004年。もともとは女声二部+ピアノという編成だった作品を混声四部に編曲したものが今回取り上げる曲集となっています。
楽譜の巻頭言によれば、
混声版への編曲は、旋律を四声の立体の中に置き、投射された新しい陰影を描きとる作業となった。
のだそうです。
四声になることで使える音域の幅が広がり、ハーモニーが厚くなり、たくさんの旋律を絡めることが可能になります。
この際に補うべき音やメロディーが、信長さんには影絵のように浮かび上がって感じられたのでしょうね。
作詩者・作曲者について
《思い出すために》の作詩者は寺山修司、作曲者は信長貴富さんです。
信長貴富さんは合唱界では知らぬ人はいないと言っても良いほどの人気作曲家です。
寺山修司の詩をテキストに用いた作品は他に
- 《カウボーイ・ポップ》
- 《季節が僕を連れ去ったあとに》
- 《不完全な死体》
などが思い浮かびます。
寺山詩の切なさと、信長さんの持っておられる叙情的なサウンドとがマッチした作品が多いですね。
編成・難易度について
《思い出すために》の収録曲はすべてピアノ付きの混声四部合唱となっています。
全体的な難易度は中級程度。大学生~一般団のコンサートの1ステージとして歌うのに適したレパートリーと言えるでしょう。合唱祭で歌っても良さそうですね。
中高生の校内合唱コンクールで歌うには少々厳しい難易度です。
逆に全日本合唱コンクールなどの選曲としてはやや弱いかもしれません。
《思い出すために》の魅力
続いては《思い出すために》という曲集を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、その魅力について語っていきたいと思います。
魅力1.どこを切ってもメロディック!
魅力1つ目は、どこを切ってもメロディックなこと。
《思い出すために》では、
- ソプラノ以外のパートが主旋律を担当する
- 対旋律(サブのメロディー)が絡む
ことがとても多いです。
そのため、どのパートを担当しても、ほとんどすべての場面で動きのある楽しいフレーズを歌うことができます。
前書きで書かれていますが、
いい旋律を明快に提示するというねらい
が作曲の意図としてあるそうです。
そのためこんなに魅力的なメロディーが溢れているんですね。
魅力2.ただの伴奏じゃない! ピアノパートの存在感
ピアノパートの存在感の大きさが《思い出すために》の2つ目の魅力。
良くある伴奏のパターンとして、コードを4分音符で叩く、アルペジオで鳴らすなどが考えられます。
《思い出すために》それとは異なり、曲ごと・場面ごとに多彩なパッセージを弾き分け、空気感を作り出しています。
ダイナミックな動きをしたり、繊細なコードを弾いたりしたかと思えば、ギターのリフや、ジャズ的なアドリブを思わせる部分もあり、本当に変化に富んでいます。
魅力3.全6曲・個性鮮やかな音の世界
《思い出すために》は全部で6曲から成る曲集ですが、そのそれぞれが個性鮮やかな音の世界を持っています。
寺山詩に滲む孤独の闇
を共通して背景に持ちながら、それぞれの曲が全く違った曲想で展開していきます。
《思い出すために》の収録曲紹介
《思い出すために》に収録されている全6曲を一言ずつ紹介したいと思います。
1.『かなしみ』
《思い出すために》1曲目は『かなしみ』。
ピアノパートでは右手がダークなコードを細かく刻み、左手のベースラインが暗躍し、アングラ(使い方合ってるか?)な雰囲気を作り出します。
畳みかけるように歌われる言葉の切迫感・緊張感に、1曲目から心を掴まれること請け合いです。
2.『てがみ』
《思い出すために》2曲目は『てがみ』。
不思議なふわふわとした浮遊感が全体に漂う曲です。
ピアノパートの表現は”つきよのうみ”の情景が目に浮かぶようです。
3.『世界のいちばん遠い土地へ』
《思い出すために》3曲目は『世界のいちばん遠い土地へ』。
骨太なメロディーラインと力強いピアノパート。
とても雄大・勇壮な雰囲気。
突如暗転するような終わり方も必聴です。
4.『ぼくが死んでも』
《思い出すために》4曲目は『ぼくが死んでも』。
繊細のコードと優しいメロディーで、癒されるような雰囲気。
潮風の匂いと波の音が感じられるような叙情的な曲です。
5.『思い出すために』
《思い出すために》5曲目は『思い出すために』。
曲集のタイトルにもなっている通り、重心を成す一曲です。
冒頭のピアノパートのアドリブ的なフレーズから始まります。
ジャズワルツのリズムにブルーなコードが載せられ、大人な雰囲気。
スキャットによる熱唱が逆に悲哀を誘います。
6.『種子』
《思い出すために》6曲目は『種子(たね)』です。
終曲らしく、ドラマチックな音楽性を持っています。
前半では短調で淡々と歌い進められますが、後半からは長調に転調して前向きな展開に。
熱く歌われるクライマックス部、しかしその中にもやはり滲む孤独の闇。
エピローグはとてもピュアで繊細に、大切な歌詩が歌われます。
終曲にふさわしい内容です。
まとめ:《思い出すために》(寺山修司/信長貴富)
それではまとめです!
寺山修司の詩による6つのうた《思い出すために》を紹介しました。
メロディックで非常に親しみやすい作品です。
多彩なピアノパートに象徴されるように、6曲各々が鮮やかで明確な個性を持っている、魅力的な曲集です。
機会があれば是非取り上げてみてください!
以下の記事で各曲をそれぞれ詳しく紹介しています。あわせてどうぞ!