練習・演奏のポイント

『知った』(混声三部)の練習のコツ・演奏のポイント

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この記事では組曲『IN TERRA PAX』より『知った』(混声三部版)の練習のコツ・演奏のポイントをまとめています。

参考になれば幸いです。

現在、簡易バージョンにて公開しています。(2025/06/01)
『知った』(作詩:鶴見正夫/作曲:荻久保和明/音楽之友社)を参考にし、本文中で歌詩などを引用する場合には「””」で示しています。

『知った』の練習番号

楽譜に練習番号(【A】【B】…)が書かれていない場合は、自分でつけてみることが大切です。また、楽譜に小節数が書かれていない場合は、このタイミングで書き込んでおくと便利です。

曲全体の構成の見通しが良くなり、練習する際の指示出しもスムーズになります。

以下の通りつけてました。

練習番号
  • 【A】…1小節 Adagio
  • 【A’】…6小節 “それは”
  • 【B】…14小節 Allegro molto
  • 【B’】…29小節 “うばわれ” “ちちを”
  • 【C】…35小節 “ベトナムの”
  • 【C’】…41小節 “くちもとから”
  • 【D】…50小節 “かえせ”
  • 【D’】…63小節 “おまえは”
  • 【E】…70小節 “しゅんかん”
  • 【F】…83小節 “そのとき”
  • 【G】…86小節 Andante
  • 【H】…92小節 “あっ”

『知った』の練習・演奏のポイント

ここからは、先ほどつけた練習番号に沿って解説していきます。

【A】…1小節 Adagio

言葉に緊張感を持って

【A】は大変緊張感のある場面です。

子音をしっかり立てて、ささやくように歌うと、そういった雰囲気が出てきます。

作曲家の工夫を読み取る

“しらない”と言い続ける男声パートは次のようにだんだんと音が上昇していきます。

「ド~レ」→「レ~ミ♭」→「ミ♭~ファ」→「ファ~ソ」→「ソ~ラ♭」→「ラ♭~シ♭」→「シ♭~ド」

音域が上昇していくに従って、緊張感が高まっていくようなフレーズになっています。これは混声四部バージョンの『知った』にはない工夫です。

もう一つ、混声四部バージョンと異なる点が、ソプラノのハミングです。「ソ」の音で伸ばし続けますが、ここにアルトのメロディーが「まとまわりつく」ことで、ぶつかるハーモニーが生まれ、これまた緊張感が生まれます。

混声四部バージョンでは、ソプラノとアルトによるメロディーの掛け合いで進みます。(男声は休み)

タテをそろえる

6連符のメロディーはタイミングを取るのが難しいですが、しっかりそろえることが大切です。楽譜をよく見て、どこが表拍なのか、裏拍なのかを見極めましょう。

表拍ではピアノパートのタイミングとそろいますので、それを意識すると分かりやすいです。

例を以下に示します。

  • ろうは”
  • らない”
  • んそうを”
  • らない”
  • “そのそろしさを”
  • らない”
  • “むごらしさを”
  • らない”

※下線部が表拍でピアノとそろう

“その”や”むご”が裏拍で歌い出す歌詞になります。

【A’】…6小節 “それは”

アーティキュレーション

アルトと男声は伴奏の役割。

“m”のテヌートには、若干のアクセントをつけて歌いましょう。ただし、本当のアクセントではないので、きつくなりすぎないように。

この部分は混声四部バージョンでは、”m” が “Om”となっており、さらにmfpの記号が付けられています。音の立ち上がりをより強調するような指示になっているのですね。

色の変化を感じて

上記に加えて、伴奏役のパートはハーモニーの移り変わりにも意識を向けてみましょう。

特に♭などの臨時記号がついたときに、どのように「色」が変わるのか感じてみてください。

スラーと言葉を両立

メロディーはスラーの流れを大切にしながら、同時に言葉も伝える必要があります。

sやtなどの子音は言葉を伝えるうえで不可欠ですが、それが母音の流れを阻害しないように気をつけましょう。

母音だけで歌う(「おえあいいあおうおいる(それはちちやそふのしる)」)というのも効果的な練習です。

【B】…14小節 Allegro molto

テヌートの歌い方

テヌートがついたメロディーは、やはり少しアクセントがつくようなイメージ。

ただし、これもきつくなったり、音が短くなったりしないよう、一つ一つの音符をしっかり響かせるようなイメージで。

3パートの掛け合い

【B】は、3パートのメロディーがそれぞれ掛け合うような場面となっています。

複数のメロディーが絡み合いながら進む音楽を、ポリフォニーと言います。

ポリフォニーでは、メロディーそれぞれが独立した存在感持つのが理想です。

特に、後から入るパートは「入ったよ」ということが分かるよう、少し主張しましょう。

アーティキュレーションが生み出す音像

【B】では、メインとなるべきメロディーにはテヌートが書かれており、背景となるパートスラーや、強弱で差がつけられています。

また、26小節で出てくる3連符系のリズムにはアクセントが登場します。

これらをしっかり歌い分けることは必要ですが、ただ単に記号の通り歌うのではなく、合わさったときにどんな音楽が出来上がるのかをイメージすることがもっと大事です。

言い方が悪いですが、いろいろなアーティキュレーションがごちゃまぜになっていて、カオスな雰囲気が出てきそうな場面です。

【B’】…29小節 “うばわれ” “ちちを”

クレッシェンドしていき、34小節のffに向かいます。
この小節はG(ソシレ)のハーモニー担っているので、決め所です。
ただ大きく歌うだけにならないよう、耳を使って。
ハーモニーが大事なところではアカペラ(ピアノなし)で歌うと練習になります。

【C】…35小節 “ベトナムの”

【B】が3パートによる掛け合いだったのに対し、
【C】では女声&男声の掛け合いになります。その変化を知っておきましょう。

【C’】…41小節 “くちもとから”

“くちもとから きこえるのは”はユニゾン。
歌詞の力強さ、エネルギーがよりいっそう高まるところ。

“さけび”からは一転ハーモニー。
Am(ラドミ)とB♭m(シ♭レ♭ファ)が交互に現れます。
男声はdiv.があり大変ですが、これによっていっそうハーモニーに厚みが生まれますので、しっかり歌いたい音です。
ここもアカペラで、しかもゆっくり歌うと、よりハーモニーを味わえます。
また、ここでは8分休符も大事。これをしっかり守るとリズムがいきてきます。

【D】…50小節 “かえせ”

女声の”かえせ”は子音はもちろん大事。
ですが、ただ単にkやsを飛ばすだけだと軽い感じになってしまいます。
ささやくような声(ひそひそ声)で歌うと(pの中での)迫力が出るかもしれません。

【D’】…63小節 “おまえは”

“おまえは おまえの くに”までユニゾン。
難しいところばかりが気になってしまいそうですが、音楽的にはむしろこういったユニゾンの箇所には注目したいところ。
ここも執念というか、強い恨みの気持ちというかが表現できると良さそうな箇所です。
楽譜上はそういった気持ちはテヌートによって書かれています。
66小節の”へ”で一気にハモる(G:ソシレ)のも聞かせどころ。
fpは、fをしっかり鳴らす時間をつくってやると効果的です。(fの時間が一瞬すぎると何が起こったのか分からないことが多いため)

【E】…70小節 “しゅんかん”

ここは再びポリフォニーです。
いくつかの言葉・音型が多発的に現れて、カオスっぽい雰囲気です。
それが”よせ やめろ”、そして”ああ”という高ぶりに焦点を結ぶような構造となっています。

【F】…83小節 “そのとき”

TempoⅠと戻ります。16分音符などのメロディーは急いでしまいやすいので注意して。
言葉を噛みしめるように。

【G】…86小節 Andante

ここから女声合唱となります。div.があり大変ですが、大変ハーモニーが美しいところです。
ppは単純に音量が小さいだけでなく、メロディーのながれを柔らかく、美しく。
また、情景もイメージしながら歌うとよいでしょう。
(太陽のきらめき、空の高さ・広さ・青さ、ジェット機の白さなど)

【H】…92小節 “あっ”

“あっ”の言い方は工夫要りそうです。演技力が必要な場面。
ラストのロングトーンは切り口のタイミングがズバッとそろうように、よく練習しておきたい場面です。