こんにちは!
今回は宮沢賢治作詩・千原英喜作曲、《月天子》より『薤露青(かいろせい)』について解説していきたいと思います!
曲調や難易度、曲の魅力・鑑賞のポイント、演奏・練習のポイントなどついて深堀りしていきます。
この曲を知らなかった人、これから聴いてみたい人、これから歌ってみたい人のお役に立てば幸いです。
それではどうぞ!
もくじ
『薤露青』ってどんな曲?
まずは『薤露青』という曲について、「この曲知らない!」「初めて知った!」という人のために、作詩者・作曲者、難易度、曲調についてざっくりと紹介します。
作詩は宮沢賢治、作曲は千原英喜
『薤露青』は「カイロセイ」あるいは「カイロショウ」と読みます。「カイロセイ」が一般的でしょうか。
作詩は宮沢賢治、作曲は千原英喜。
全5曲からなる混声合唱組曲《月天子》の1曲目です。
《月天子は》ピアノ付きの曲が多いですが、『薤露青』のみ無伴奏の作品となっています。
難易度は…中級
『薤露青』の難易度は、中級です。
ゆったりとしたテンポでリズムも難しくないので取り組みやすい作品だと思います。
ただし、曲自体がそこそこ長い(6分40秒)ことやdivisiが多いのが難しいところ。
音楽的に激しい展開はないものの、だからこそ音楽全体の構成感に苦労するかもしれません。
曲調は…宇宙の秩序と静謐を感じる曲
《月天子》の前書きから引用してみます。
天球の回転、大宇宙の静謐な呼吸を感じさせてほしい。
と、演奏について言及されています。
まさに楽譜に書かれている音楽がこんな感じ。
二分音符の規則正しい律動、幻想的な和音、深く遠く遷移する調性が印象的です。
『薤露青』の魅力について語る!
続いては『薤露青』という曲を、「聴いたことある!」「これから聴く!」という人に向けて、曲の魅力や鑑賞のポイントについて語っていきたいと思います。
Alla breveの律動・大宇宙の静謐な呼吸
この曲の多くの部分がAlla breve(アラ ブレーヴェ/ニ拍子で)の拍子で進みます。
二分音符の動きとそれによる和音の変化が曲の土台となっており、それがまるで”天球の回転、大宇宙の静謐な呼吸”のようであるわけです。
曲の後半では”u”や”o”の母音だけでなく、”e”、”a”、”m”(ハミング)などが織り交ぜられ、ニ拍子を奏でます。
母音の質の違いによって「吐く息」「吸う息」が書き分けられているように思えます。
銀の分子の析出・不可思議な現象
”銀の分子が析出される”という歌詩があります。銀鏡反応なんかを連想しますね。
農学校の教員でもあった賢治らしい発想です。
曲の該当部分では、この不可思議な現象に合わせて凝った音が付されています。
アルト・テノール・バスが長調の和音を形作ったまま、半音ずつ下にスライドしていきます。
ソプラノのロングトーンとの間で不協和音が生まれ、幻想的なサウンドになっています。
転調による距離感・宇宙の深遠さの演出
Alla breve, tranquillo e sentito(トランキーロ エ センティート/静かに、そして感情をこめて)から再び”呼吸”のようなニ拍子が始まります。
このあたりから似たフレーズを繰り返し(ゼグエンツ/反復)ながら展開していきます。
トニック(主和音)が現れず、次々と転調していくためか、大宇宙をあてどもなく揺蕩っているような印象です。
♭や#がたくさんついた遠い調に進むにつれ、気の遠くなるような感覚、意識がどんどん遠ざかっていくような感覚になります。
二拍子の「歪み」に星・銀河の誕生・死のイメージが重なる
中盤から終盤にかけて、ニ分音符のリズムに<>のアクセントが登場する場面があります。同時に内声間の音が半音でぶつかっています。
このアクセントと音同士の反発により、瞬間的な「歪み(ひずみ)」あるいは「ムラ」が音楽の中に発生します。
この「歪み」のイメージが、遠い宇宙空間で起こる星や銀河の誕生・死のイメージと重なります。
まとめ:『薤露青』(宮沢賢治/千原英喜)
それではまとめです!
《月天子》より『薤露青』でした。
曲全体を貫く二拍子のリズムに大宇宙の呼吸を感じる、そんな幻想的な美しさを持った曲でした。
詩にインスパイアされた工夫が随所にあり、その点も聴きどころです。
今回はここまで。お読みいただきありがとうございました。