【混声合唱】スメタナ作曲・岩河三郎編曲《モルダウ》の練習・演奏ポイント解説

スメタナが作曲した連作交響詩『我が祖国』の中より、最も有名な第2曲《モルダウ》(Vltava)。この名曲を岩河三郎さんが混声合唱用に編曲された作品を取り上げます。
ボヘミアの雄大な自然や情景がドラマチックに描かれる《モルダウ》。
演奏の際は、曲が描く情景をありありとイメージしながら練習・演奏に取り組んでみましょう。
もくじ
《モルダウ》の練習番号と全体構成
練習を始める前に、まずは楽譜に練習番号(【A】【B】…)を書き込んでおきましょう。
小節数と練習番号をつけることには、以下のような大きなメリットがあります。
- 練習の際に「どこから始めるか」を全員でスムーズに共有できる。
- 音楽の場面の繋がりや、曲全体の構成を視覚的に整理できるようになる。
今回は、以下のように練習番号を設定して解説を進めていきます。
- 【A】…7小節~ “(な)つかしき”
- 【B】…16小節~ “(な)がれに”
- 【C】…24小節~ “(い)わに”
- 【D】…33小節~ “(ゆ)たかな”
- 【E】…41小節~ “きょうも”
- 【F】…63小節~ “(つ)きのでと”
- 【G】…71小節~ “(な)つかしき”
- 【H】…89小節~ “わが”
《モルダウ》練習・演奏のポイント
先ほど設定した練習番号に従って、具体的な歌い方のポイントを解説していきます。
ぜひ、ご自身の楽譜に書き込みながら読み進めてみてください。
【A】…7小節~ “(な)つかしき”
歌い出しの音に狙いを定めて
【A】ではまず、”なつかしき”の「な」の歌い出しの音が最初のポイントになります。
3パートが同じ「ド♯」を歌いますので、しっかりと音程の狙いを定めて、声がバラつかないように注意しましょう。
少し低めの音域ということもあり、伝わりにくい音ですが、ピタリと声を揃えることでクリアに聴かせることができます。
ハモリとユニゾンを意識する
先ほど、歌い出しの音が全員同じ音(ユニゾン)であると説明しました。
それに対し、”つかしきかわよ”以降のフレーズは、3パートがそれぞれ別の音を歌う「ハモリ」になります。
このように、どこが同じ音(ユニゾン)で、どこがハモっているか(ハーモニー)を把握することは、美しい響きを作る上でとても大切です。
日頃から楽譜の中で意識できるようにしておきましょう。この意識は、この曲のさまざまな箇所で活きてきます。
言葉を活かすフレージング
“なつかしきかわよ モルダウの”という4小節間の強弱記号に注目してみましょう。
mf(メゾフォルテ)、クレッシェンド、f(フォルテ)、デクレッシェンドが書かれているのが分かります。
最初のmfは、【A】全体の基本的な音量を示しています。
それに対し、クレッシェンドやf、デクレッシェンドは「どのようにメロディーを歌うか」というフレージングの指示と捉えることができます。
最初のクレッシェンドは”かわ”という言葉に向かいます。
《モルダウ》は川をテーマにした楽曲ですから、”かわ”や”モルダウ”は非常に重要なキーワードです。
フレーズの頂点(山)になるのは、fが書かれた”モルダウ”のところです。タイトルでもあり、この曲のテーマでもある言葉で一番盛り上がるのは、非常に自然で音楽的なアプローチです。
“かわ”そして”モルダウ”という歌詩に向かって、息をしっかりと回していくイメージでフレーズの山を作ってみましょう。
【B】…16小節~ “(な)がれに”
明暗の変化を感じて歌う
【A】が少し翳りのある(暗い)雰囲気だったのに対し、【B】に入ると明るい雰囲気への変化が感じられます。
これは、【A】が嬰ヘ短調(F# minor)だったのに対し、【B】最初の4小節間のフレーズがイ長調(A major)に転調しているからです。
これらは「平行調」と呼ばれ、同じ調号(ト音記号やヘ音記号の横にある♯や♭)を共有する長調と短調のペアです。
続く4小節(20~23小節)は再び嬰ヘ短調に戻るため、再び暗い雰囲気が訪れます。
このように、フレーズごとの調の明暗を感じながら歌うことで、メロディーが持つストーリー性をより深く掴むことができます。
メロディーの流れを引き継ぐ
16~17小節の”ながれにやさしく”ではアルトがメロディーを担当しますが、続く”ひはそそぎ”ではソプラノがメロディーを引き継ぎます。
20~24小節でも同様に、アルトからソプラノへメロディーのバトンタッチが行われます。
アルトパートは普段主メロディーを歌う機会が少ないかもしれませんが、ここは「主役」の意識を持って積極的に歌いましょう。
ソプラノパートは、自分の休符の間もアルトの歌い方をよく聴き、その音楽の流れを自然に引き継げるようにスタンバイしておきましょう。
【C】…24小節~ “(い)わに”
アクセントで語感を活かす
【C】では、アクセントの記号に注目してみましょう。
アクセントは「その音を目立たせて」という意味を持ちます。
このアクセントは、”いわにあたり”、”しぶきあげて”、”うずをまく”といった言葉につけられています。
歌詞を味わってみると、川の荒々しく激しい様子が描かれていることがよく分かります。
その情景や言葉の持つ荒々しい語感をイメージしながら、アクセントを音楽的に表現してみましょう。
滔々(とうとう)としたイメージを持つ
29小節からはロングトーンに入ります。 音量はff(フォルテッシモ/とても大きく)です。
先ほど触れたように、【C】は川の激しい流れが最高潮に達する場面です。その滔々たる大河の流れや、有り余る水量をイメージして、量感と深みのある響きのロングトーンを作りましょう。
【D】…33小節~ “(ゆ)たかな”
臨時記号に注意する
【D】は、男声のメロディーからスタートします。
ここで注意したいのが、”ゆたかな”の音につけられている臨時記号の「♯」です。【A】の冒頭のメロディーとは少し音の形(音程)が変わっていますので、混同しないようによく区別しておきましょう。
パートの役割を意識する
【D】の主役は、メインメロディーを歌う男声パートです。 それに対し、ソプラノとアルトは背景を支えるサブ(伴奏的な役割)を担当します。
この役割の違いは、音量記号にもハッキリとあらわれています。男声がf、女声がmp(メゾピアノ)になっていますね。
男声は主役としてくっきりと声を響かせ、女声は美しい背景となってメインメロディーを引き立てるという立体的なバランスを意識しましょう。
【E】…41小節~ “きょうも”
曲想の変化を感じ取る
【E】では、音楽の雰囲気がガラリと変わります。楽想指示として、Piu mosso e vivo(ピウ・モッソ・エ・ビーボ/今までよりも速く、そして生き生きと)と書かれています。
“きょうもひびく”、”つのぶえたかく”という歌詩からイメージを大きく膨らませ、空に向かって高らかに歌い上げてみましょう。
ピアノ伴奏の左手が刻むトレモロ(音を細かく震わせるように素早く反復する奏法)に耳を傾けると、この場面の生き生きとした雰囲気がより掴みやすくなります。
和音の切り替わりを感じる
【E】のセクションでは、4小節ごとに次々と和音が切り替わっていきます。
- 41~44小節:D(レ・ファ♯・ラ)
- 45~48小節:A(ラ・ド♯・ミ)
- 49~52小節:G(ソ・シ・レ)
- 53~56小節:Em6(ミ・ソ・シ・ド♯)
専門的なコードネームまで完全に理解する必要はありませんが、「4小節単位で次々と新しい和音に切り替わっていくんだな」という構造を頭に入れておきましょう。
この和音の切り替わりはピアノパートが大きな役割を担っていますので、歌うときもピアノの響きに耳を澄ませてみてください。
中盤のクライマックスへ
57小節からのffは、この曲の中盤における最大のクライマックスです。 “よろこびのうた”という歌詩の通り、喜びが全身からあふれ出るような豊かな音量で歌いましょう。
内声パート(アルト+テノール)から始まる”ラララ”のフレーズは、明るく輝くような響きを持った声で。
【E】の場面は比較的長いため、練習上、49小節を【E’】、57小節を【E’’】と細かく区切って練習番号を振っておいても良いと思います。
【F】…63小節~ “(つ)きのでと”
テンポ設定と夕景への移り変わり
この場面でも、まずは歌詩に注目してみましょう。
“つきのでとともに(月の出とともに)”とあるように、ここでは夕方から夜の静かなシーンへと景色が移り変わります。
それが音楽的にどう表現されているかというと、まず大きな特徴が「テンポ」です。
指示はAndante(アンダンテ/歩くような速さで)となっています。これは、直前のModerato、そしてその後の活発なPiù mossoに比べると、ゆったりとした遅めのテンポです。
1日の終わりに、村人たちの気持ちも落ち着いてゆったりと寛いでいる……そんな穏やかな夕景の情景を思い浮かべてみてください。
和音的に面白いのが65小節です。男声の音が シ → シ♭ と半音ずつ下がっていく「半音進行」をしています。
♭(フラット)が入ることで、和音に少し翳りやブルーな色彩が加わり、夜の訪れを見事に描写しています。
四声の充実したハーモニーを味わう
67小節からは男声パートがさらに2つに分かれ、全体で充実した「混声四部合唱」になります。
テノールとベースが奏でる「レ・ラ」や「ド♯・ソ♯」といった音程関係は「完全5度」と呼ばれ、非常に太く力強い響きを生み出します。
この男声の完全5度が全体のハーモニーの土台をがっちりと支え、混声合唱らしい重厚な厚みを与えています。
一度、女声はお休みして、男声だけでアカペラで合わせてみると、この響きがよく実感できるはずです。
【G】…71小節~ “(な)つかしき”
曲想のダイナミックな変化を感じ取る
【G】からは、再び大きく曲想がドラマチックに切り替わります。
まず注目したいのが、Allegro con brio(アレグロ・コン・ブリオ)という指示です。
Allegroは生き生きと速く、con brioは輝くように、という意味で、テンポもこの曲の中で一番速くなります。
そしてもう一つの大きなポイントが「転調」です。ここでは変ト長調(G♭ major)へと転調します。
少し専門的なお話になりますが、これまでの主調は嬰ヘ短調(F# minor/ファ♯が主音の短調)でした。
それに対し、変ト長調はソ♭が主音の長調ですが、鍵盤の上で弾いてみると「ファ♯」と「ソ♭」はまったく同じ鍵盤(同じ音)であることが分かります。
このように、主音が同じ音でありながら短調から長調へ切り替わる関係を同主調と呼びます。
主音が同じだからこそ、暗い調から明るい長調へのコントラストが強烈に際立ち、聴き手にとって非常に印象的な場面として演出されます。
大河の雄大さを讃えるこの場面にふさわしい、見事な作曲技法です。
臨時記号付きの和音と半音進行に注意
80小節や84小節では、臨時記号がつく細かい音程に注意しましょう。
ここを正確にヒットさせることで、ハーモニーの美しい色彩変化がクリアに響きます。
また、85~86小節は、各声部が下降音型(下り坂のメロディー)で一斉に降りていく非常に印象的なフレーズです。
アクセントをしっかり活かして歌いましょう。
ただし、すべてが等間隔の半音で下がっているわけではない点に注意が必要です。
例えばソプラノでは、ミ♭ → レ♮ → レ♭ は半音で下がりますが、その次のド♭へ進むときは全音の幅になります。
こうした細かな音程の罠を見落とさないようにしましょう。
【G】の場面も比較的長いため、必要に応じて77小節を【G’】、85小節を【G’’】などと練習番号の小分けを作っておくと便利です。
【H】…89小節~ “わが”
大きな期待感を持ったリズムで
【H】は、生き生きと躍動するようなリズミカルさが印象的な場面です。
ここは、音をあまりベタッと繋げすぎる(レガートすぎる)ことなく、リズムのキレをハッキリと目立たせて歌う方が、この曲の躍動感を表現しやすくなります。
f(フォルテ)のなかでのメリハリをつける
89~91小節にかけてクレッシェンドが書かれており、92小節でffへと一気に盛り上がります。
ここは先ほどのリズム感を大切にしながら、ぐっとエネルギーを集中させていきたい場面です。
ffの小節にはアクセントもつけられていますので、より一層リズムの躍動感を強調しましょう。
その後、94小節からは再びクレッシェンドが指定されていますが、その直前の93小節あたりでいったん音量をfに落ち着かせておく(落としておく)ことが重要です。
そうすることで、その後のクレッシェンドによる高まりがより一層ドラマチックに聴こえるという仕掛けになっています。
どちらも「大きく歌う記号」ではありますが、作曲者がそこに込めた意図のニュアンスの違いを汲み取り、メリハリをつけて表現してみましょう。
フィナーレを堂々と歌い切る
97小節からは、いよいよフィナーレに突入します。
豊かな音量と響きを保ったまま、最後までエネルギーを減衰させることなく歌い切りましょう。
その一方で、土台となるG♭(ソ♭・シ♭・レ♭)の和音自体の美しさや透明感も不可欠ですので、練習の際には各パートの音の統一感をよく確認しておく必要があります。
ロングトーンに入る手前のフェルマータでは、指揮者をよく見て十分に「タメ(間)」を作っておくと、その後のロングトーンがより劇的で印象的なものになります。
ピアノ伴奏パートも、accel. e non dim.(だんだん速く、しかし音量は落とさずに)の指示通り、最後まで駆け抜けて。
まとめ
今回はスメタナ作曲・岩河三郎作詩・編曲の混声合唱曲《モルダウ》の練習・演奏のポイントを、練習番号に沿って詳しく解説しました。
情景描写の読み解き方や、調の変化、フレーズの山場の作り方など、明日からの練習ですぐに実践できるヒントが詰まっています。ぜひ、歌い手の皆さんと共有して練習に役立ててみてください。
もし「ここをもっと詳しく知りたい」「別の曲の解説も読みたい」といったご質問やリクエストがございましたら、お気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。 この度は素敵な楽曲のリクエストをいただき、ありがとうございました!



