【混声三部合唱】《群青》練習・演奏のポイント|背景を踏まえて歌おう

《群青》は、東日本大震災と原発事故で離ればなれになった、福島県南相馬市立小高中学校の平成24年度卒業生たちの言葉をもとに、音楽教諭の小田美樹さんが曲をつけ、信長貴富さんが編曲した作品です。
この記事では、そういった背景も踏まえながら、主に、実際に練習・演奏する際の技術的なポイントに焦点を当てて解説していきたいと思います。
なお、この記事では混声三部合唱版の楽譜をもとに解説しています。他のバージョンについては、リクエストがありましたら別途取り上げたいと思います。
もくじ
《群青》練習・演奏のポイント
楽譜に記載の練習番号に沿って解説していきます。
【A】9小節~ ”(あ)ああのまちで”
「ああ!」のつもりで
歌い出しの”ああ”は、曲の第一声となる大切な言葉です。
単なるア母音として歌うのではなく、「ああ!」と何かを思い出したり、深く感じたりするような気持ちを込めて歌いたいところです。
音域的には少し低くなりますので、無理に出そうとして押しつけるような歌い方になったりしないように注意しましょう。
ユニゾンをよくそろえて
【A】のフレーズは、全員で同じメロディーを歌うユニゾンになっています。
ユニゾンでは、音程・タイミング・音色をぴったりそろえることが大切です。
特に歌い出しの”ああ”は、曲の印象を決める重要な入りになります。
一人ひとりが正しい音を頭の中でイメージしてから、全員で同じ響きに入れるようにしましょう。
また、伸ばす音もばらつきが目立ちやすいところです。
”あのまちで”と伸ばす場面では、音程が下がったり、音色が散らばったりしないように、より集中して歌いましょう。
フレーズを大きく捉えて
13小節のアウフタクトから始まるフレーズは、少し長めのまとまりになります。
途中でブツブツと途切れてしまわないように、歌い始める前からフレーズ全体を見通しておくことが大切です。
言葉を一つひとつ丁寧に扱いながらも、短い単語ごとに区切りすぎず、大きな流れの中で歌いましょう。
低音域は無理せずに
14~15小節はメロディーですが、音域がやや低くなっています。
人によっては出しにくく感じるかもしれません。
ただし、ここは大きく盛り上げる場面ではなく、言葉を丁寧に、語るように届けたい場面です。
無理に音量を出そうとして響きが濁ってしまうよりも、正しい音程で、落ち着いた声で歌うことを大切にしましょう。
全員で音がよくそろえば、強く押し出さなくても、メロディーと言葉は聴いている人にしっかり届きます。
【B】17小節~ ”(い)またびだつひ”
「ここからハモる」を意識して
【B】も【A】と同様、まずはユニゾンから始まります。
変化があるのは、19小節のアウフタクト”みえる”から。
アルトはここからメロディーを離れ、ハーモニーを作る役割になります。
ソプラノと男声は途中まで同じ音でメロディーを担当しますが、19小節の最後の音からは、男声もハモりのパートになります。
このように、「ここまではユニゾン」「ここからハモる」という変化を押さえておくと、音取りがスムーズに進みます。
また、音が取れた後でも、ユニゾンの場面とハーモニーの場面で意識を切り替えることができるため、全体のピッチ感を整えることにもつながります。
ユニゾンでは全員で一つの線を作る意識を、ハモる場面では自分の音が和音の中でどのように響いているかを聴く意識を持ちましょう。
【C】25小節~ ”(またね)と”
小さく歌うときのポイント
【C】の最初の4小節は、男声がメロディーを担当します。
ここでは音量がpとなっていますので、歌い方に注意が必要です。
pのように小さな音量で歌うときは、ピッチが下がりやすくなります。
音量は小さくても、体の支えを失わないように歌いましょう。
また、少し音域が高めになるので、荒っぽくならないように気をつけて、丁寧に、優しく柔らかい音色で歌いたいところです。
役割を意識して
男声のメロディーに対し、アルトはその背景を担当しています。
メインは男声ですので、アルトは前に出すぎず、男声のメロディーに寄り添うように歌うとよいでしょう。
26小節で4分音符の動きがあるところは、特にタイミングを合わせたいポイントです。
男声のメロディーをよく聴きながら、全体で心地よい流れになるように気をつけましょう。
歌詞のズレを活かそう
29小節の”(と)おざかる”からは、今度はアルトがメロディーを担当し、音楽を引っ張っていきます。
ここでは、言葉の頭の子音を少し丁寧に立てるとよいでしょう。
たとえば、”とおざかる”のtの子音です。
この場面では、あとからソプラノが遅れて入ってくる掛け合いのフレーズになっています。
言葉がずれて歌われることで、音楽に奥行きが生まれる場面です。
それぞれの入りがはっきり聴こえるように歌うことで、歌詞が伝わりやすくなり、音楽にも立体感が出てきます。
クレッシェンドは出し惜しみ
29小節からpoco a poco cresc.(ポーコ・ア・ポーコ・クレッシェンド/少しずつだんだん強く)書かれており、33小節まで続いています。
かなり長いクレッシェンドですので、序盤から大きくしすぎると、途中で息切れしてしまい、十分な効果が得られなくなります。
最初のうちは急激に大きくせず、これから盛り上がっていくことを予感させるような緊張感を保ちましょう。
そして、31小節でソプラノの歌詞が合流し、各パートのタイミングがそろうあたりから、本格的に音量を大きくしていくとよいでしょう。
さらに、33小節のロングトーンに入ったところでもう一押しできると、クレッシェンドの効果がよりはっきり出ます。
ロングトーンでクレッシェンドするときは、力押しにならないように注意しましょう。
音量だけを大きくするのではなく、響きが遠くへ広がっていくようなイメージを持つと、自然で美しいクレッシェンドになります。
【D】33小節~ ”(あ)のひみたゆうひ”
一体感を持ったユニゾンで
【D】からは再びユニゾンとなりますが、【A】などでのユニゾンとは少し意味合いが異なります。
ここでは、全員が同じ音で歌うことで、メロディーや言葉の持つ力強さが増す場面になっています。
ただ音をそろえるだけでなく、歌い手全員の気持ちが一つに集まるような一体感を大切にしましょう。
音程・タイミング・音色がそろうことで、ユニゾンならではの力強さが生まれます。
跳躍をクリアして
“あのひみたゆうひ あのひみたはなび”のフレーズで難しいのは、音が離れて跳ぶ「跳躍音程」です。
例を挙げてみたいと思います。下線部が跳躍部分です。
- “あのひみた” 「ミ→ド♯」
- ”みたゆうひ” 「ミ → レ」
- “あのひみた” 「ミ → シ」
- ”みたはなび” 「ソ♯ → ド♯」
跳躍音程では、跳んだ先の音をしっかりイメージしてから歌うことが大切です。
練習では、いったん楽譜に書かれているよりもゆっくりしたテンポで歌ってみると、音程が正確に取れているか確認しやすくなります。
慣れてきたら少しずつテンポを戻し、自然な流れの中でも跳躍をクリアできるようにしていきましょう。
強弱にメリハリをつけて
38小節のアウフタクトで、いったんmfになります。
【D】は大きく盛り上がる場面ですが、ここでいったん冷静になり、音量を落ち着かせることが重要です。
こうすることで、40小節からのcresc.がより効果的なものになります。再び音楽を盛り上げていき、次の【E】へつなげていきましょう。
このように、ただ大きく歌い続けるのではなく、いったん小さくするところを明確にすることで、音楽にメリハリが生まれます。
【E】42小節~ ”(じ)てんしゃをこいで”
母音から始まる言葉に注意
43~44小節では、”うみ”や”あざやかな”など、母音で始まる言葉が出てきます。
母音から始まる言葉は、準備が不十分だと音がつぶれやすくなり、そうすると歌詞も伝わりにくくなってしまいます。
ここでは、語頭の母音を丁寧に準備し、きれいに響かせることを意識しましょう。
ピアノともハモろう
45小節の”きおくが”のロングトーンは、一つの決め所です。
合唱だけで見ると、Fmの和音(ファ・ラ♭・ド)になっています。
そこにピアノパートのレ♭が加わることで、全体としてはD♭M7の複雑な響きになります。
ピアノパートの音もよく聴きながら、ハモるように意識してみてください。
また、ソプラノは高音になりますので、音程がぶら下がらないように注意しましょう。
強弱指示の違いに注意
46小節には、特に新しい音量記号は書かれていません。
そのため、ここはそのままfで歌います。
38小節にmfが書かれていた場面とは指示が異なりますので、注意しましょう。
ここでは最後まで豊かな音量を保ち、49小節のフレーズ終わりまできたところでデクレッシェンドすることで、1コーラス目を締めくくる構成になっています。
バランスに注意
47~49小節では、アルト・男声がメロディーを担当します。
ソプラノはその3度上でハモる役割です。
高い音のほうが聴こえやすいため、ソプラノが前に出すぎると、アルト・男声のメロディーが埋もれてしまうことがあります。
ソプラノは少し音量を控えめにし、アルト・男声のメロディーを活かすように歌いましょう。
また、”ぐんじょう”という言葉は曲のタイトルでもあります。
少し大切に、印象に残るように歌うと、この場面の意味がより伝わりやすくなります。
【F】50小節~ 間奏
歌詞のフレージングを意識して
ピアノパートの右手には、合唱で歌われるメロディーの音型が出てきます。
そのため、ただ音を並べるのではなく、実際に歌詞をつけて歌うときのフレージングを意識して弾くことが大切です。
言葉のまとまりや息の流れをイメージしながら弾いてみてください。
【G】54小節~ ”(あれか)ら”
ピッチが下がらないように
【G】は、基本的には【C】と同じ構造の場面です。
pで歌うことに加え、少し音域が高めになっているため、ピッチコントロールには特に注意が必要です。
”にねんのひが”、”なかをすぎて”などは、少し伸ばす音でピッチが下がってしまいがちです。
フレーズの最後まで気を抜かず、響きを保ったまま歌うことが大切です。
ハ行は伝わりづらい
58~61小節あたりは8分音符が多く、言葉が詰まっているため、歌詞を普段よりも意識して発音する必要があります。
この中で特に伝わりづらいのが、ハ行を含む”ふかれ”という言葉です。
”ふ”の子音は、ろうそくを吹き消すときのように、両唇の間から息を出す音です。
この息の音を少し早めに、長めに準備して入れると、言葉が伝わりやすくなります。
ただし、言葉をはっきり発音することだけに気を取られると、メロディーの自然な流れが止まってしまうことがあります。
子音を丁寧に立てながらも、全体としてはレガートに、滑らかに歌うことをあわせて意識しましょう。
【H】63小節~ ”(ひび)けこのうたごえ”
低い音域の重要な言葉
【H】は、【D】と同じメロディーで進みます。
ここで特に気をつけたいのは、何度か出てくる”ひびけ”という言葉です。
メロディーの中でも低い音域に置かれており、伝わりづらいことが想定されます。
そこで、”ひびけ”のhの子音をしっかり目に発音し、言葉を伝えることを意識しましょう。
言葉のニュアンスを生かして
67小節からの”たいせつなすべてにとどけ”は、文字通り大切に歌いたいフレーズです。
特に”たいせつ”という言葉を、言葉のニュアンスを活かして歌ってみましょう。
tの子音はそれだけを強調しようとすると、音符自体にアクセントがついてきつい印象になってしまうことがあります。
そこで、少し高等テクニックですが、tの後にhの子音を入れて発音すると、子音・母音の響きが柔らかくなり、語感を活かしやすくなります。
【I】71小節~ ”(な)みだのあとにも”
転調の前触れを感じて
78~79小節は、大きな変化が訪れるフレーズ。ここで登場する臨時記号は、次の【J】からの転調の準備、いわば前触れです。
この和音の移り変わりや色合いの変化を味わいながら歌ってみましょう。
また、音程をクリアに歌い、調の切り替えを明確なものにしましょう。
78小節では、アルトと男声のラ♭の音に、括弧書きでソ♯の音が書かれています。
ラ♭とソ♯は、鍵盤上では同じ音です。このように、名前は違っていても実際の高さが同じ音を「異名同音」と呼びます。
ラ♭として見ると、これまでの調である変イ長調の主音として捉えることができます。
一方、ソ♯として見ると、次のイ長調における導音であり、ドミナントであるEの和音(ミ・ソ♯・シ)の構成音として見ることができます。
同じ高さの音に2通りの役割を与えることで、2つの調を繋いでいると言えます。
【J】80小節~ ”(きっ)とまたあおう”
転調によるパワーアップ
【J】からはここでは、変イ長調からイ長調へと転調しています。
音量もffとなりますが、ただ音量を大きくするだけでなく、転調によって響きの明るさやエネルギーが増していることを感じながら歌えるとよいでしょう。
ロングトーンの強さをキープ
83~84小節のロングトーンは、これまでの場面よりも長く伸ばす音になっています。
途中で弱くなったり、ピッチが下がったりしないように、最後までしっかり支えて歌いましょう。
また、音を切るタイミングも重要です。ここでピアノパートの格好良いフレーズが入りますので、合唱とピアノの受け渡しが決まるよう、タイミングを意識しましょう。
【K】89小節~ ”(ま)たあおう”
pに気持ちを込めて
【K】からはpとなり、音楽の表情が大きく変わります。
直前のffのクライマックスとは対照的に、ここでは優しく、柔らかく歌いましょう。
”またあおう”という言葉は、実際に誰かへ語りかけるセリフのように歌ってみましょう。
遠くへ気持ちを送り届けるように
92小節のロングトーンは、遠くへ気持ちを送り届けるような気持ちで歌いましょう。
伸ばすときにピッチが下がらないようにすること、デクレッシェンドで音が完全に消えてしまわないようにするのがコツです。
まとめ
《群青》は、作品が生まれた背景や歌詞に込められた思いを大切にしながら、丁寧に歌い深めていきたい合唱曲です。
一つひとつの言葉を丁寧に扱いながら、歌い手全員の気持ちが同じ方向へ向かうことで、より説得力のある演奏につながります。
本記事が、皆さまの練習や演奏づくりの参考になれば幸いです。
何か分からない点などありましたら、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
この度はリクエストいただき、ありがとうございました。



