【混声三部合唱】《春に》演奏・表現のポイントを詳しく解説

《春に》は、谷川俊太郎さんの詩と木下牧子さんの音楽が結びついた人気合唱曲。瑞々しいサウンドが魅力的です。
この記事では、混声三部合唱《春に》の演奏・表現のポイントを、実践的な視点から分かりやすく解説します。
もくじ
《春に》の練習番号
まずは楽譜に練習番号(【A】【B】…)を書き込みましょう。
練習の際の指示出しで「次は【A】から!」などと使えますし、曲全体の構成を分析するためにも役立ちます。
- 【冒頭】1小節~
- 【A】6小節~ ”(この)きもちは”
- 【B】15小節~ ”(この)きもちは”
- 【C】26小節~ ”えだのさきの”
- 【D】38小節~ ”(こころ)のダムに”
- 【E】47小節~ ”(この)きもちは”
- 【F】61小節~ ”(ちへ)いせんのかなたへ”
《春に》歌い方のコツ
【A】6小節~ ”(この)きもちは”
アウフタクトに注意
《春に》の全体的な特徴として、アウフタクトから始まるフレーズが多いことが挙げられます。
アウフタクトとは、小節の頭ではなく、その前の弱拍からフレーズが始まることを言います。
例えば”このきもちはなんだろう”の下線部分などが挙げられます。
特に、【A】のアウフタクトは16分音符であることが多く、リズムが細かいためバラけやすいので注意が必要です。
全員でテンポ感を共有して、タイミングをしっかり合わせるようにしましょう。
テンポ感を作るのはピアノパートです。8分音符が滞りなく流れるように意識して練習しておきましょう。
また、16分音符のような短い音符では言葉が分かりにくくなったり、母音の響きが乗りにくかったりすることが多いため、なるべく丁寧に処理することを心がけましょう。
異なる動きをアピールしよう
12小節ではアルトが他のパートとずれるタイミングで”だいちから”という歌詩を歌うことが分かります。
このように、他とは異なるパートの動きはぜひとも存在感をアピールしてほしいと思います。
半音進行のベースライン
同じく12小節、ここでは男声パートが和声の上で重要です。
ミ♭ → ミ♮ → ファと半音ずつ上行していくラインが、じわじわと気持ちが盛り上がっていくような響きを支えています。
”だいちから あしのうらを つたわって”という歌詩と音楽がリンクしているフレーズです。
臨時記号が出てくると音程が不安定になりやすいので、半音ずつ確実に上がり、クリアな響きを目指しましょう。
【B】15小節~ ”(この)きもちは”
男声のメロディーを魅力的に
【A】では女声がメロディーを担当してきましたが、【B】の最初は男声がメロディーを担当し、音楽の主役になります。
- メロディー意識を持つ
- フレーズのまとまりをなめらかに歌う
- 最高音(ミ♭)を丁寧に、正確な音程で歌う
以上のポイントを押さえて魅力的に歌いましょう。
背景の色彩感を豊かに
男声がメロディーを歌っている間、女声は”n”で音楽の背景を作ります。
ソプラノとアルトの動きの絡み合いや、ハーモニーの変化が重要です。
特に17小節の臨時記号での色彩感の変化を感じ取ってみてください。
”n”は少し響きにくく、パートとしての存在感が不足することがあります。そんなときは、鼻先や眉間のあたりに響きを集めるような感覚を持つとよいでしょう。
fに向かって序盤の山を作ろう
20小節からクレッシェンドがあり、fとなり、さらに21~22小節にかけてクレッシェンドがあります。
ここで歌われる”さけび”の歌詩が、【A】【B】をあわせた序盤の大きなまとまりにおける山となります。
音楽的な盛り上がりと、テキストの”さけび”という激しい印象の言葉をうまく一致させているところが、作曲上、とても効果的なポイントです。
この”さけび”という言葉は、単純な音量だけでなく、情感も含めて表現したいところです。
”さけび”では、語頭のs子音を丁寧に立て、母音をたっぷり響かせましょう。
軽く流れてしまわないよう、内側から湧き上がるような情感を込められると良いと思います。
締めくくりを大切に
24~25小節は序盤のまとまりを締めくくる2小節です。
fの後のmfですから、音量的には少し落ち着かせます。
アルトと男声のヴォカリーズ(母音で歌うこと。ここでは”u”)のハーモニーを美しく響かせましょう。
25小節のデクレッシェンドは3パートで足並みを揃えて、丁寧に。次の場面のppに流れを引き継いでください。
【C】26小節~ ”えだのさきの”
転調による色合いの変化を感じて
【C】に入ると、楽譜に♭の臨時記号が多く出てくることに気づくと思います。
調号(ト音記号やへ音記号の近くにつく♯や♭)に変化はありませんが、ここでは臨時記号によって部分的な転調が実現されていると考えて良いでしょう。
具体的には、26~27小節については、シ・ミ・ラ・レ・ソの5つの音に♭がつけられているので変ニ長調、28~29小節ではさらにドについてるので変ト長調になっていると捉えることができます。
この先も少しずつ♭の数が変化し、響きの色合いが繊細に、かつダイナミックに変化していきます。
喜び、悲しみ、いらだち、あこがれ、怒りという、さまざまな感情が次々に現れる場面なので、和音の変化もその感情の揺れと結びつけて歌えると良いでしょう。
臨時記号が多く難しい場面ではありますが、音を追いかけるだけでなく、調・和音の行き先を感じながら歌い進めることが大事です。
少し詳しく、各フレーズでの調性の変化を見てみましょう。
まず26~27小節は、シ・ミ・ラ・レ・ソの5つの音に♭が付けられているため、変ニ長調(D♭ major)として捉えることができます。
フレーズ頭のコードはG♭ですが、これは変ニ長調におけるⅣの和音と考えられます。
続く28~29小節では、さらにド・ファにも♭が付き、変ハ長調(C♭ major)として捉えることができます。
フレーズ頭のコードはF♭で、ここでもⅣの和音となります。
さらに30~33小節の4小節間では、シ・ミ・ラに♭が付きます。これは短調として見て、ハ短調として捉えることができます。
最後に34~37小節では、ラの♭が消えるため、♭2つの調として捉えられます。前半はト短調、後半はもともとの調である変ロ長調に戻っていく流れと考えられます。
【D】冒頭のコードまで含めると、E♭→F→B♭という進行になります。これは変ロ長調におけるⅣ→Ⅴ→Ⅰにあたります。
細かく調が揺れ動いたあとで、この安定した進行に戻ってくることで、強い解決感が生まれ、「戻ってきた」という感覚を与えています。
なお、この部分は細かく転調していると見ることもできますが、短い範囲で次々と響きが変化し、最終的にもとの調へ戻ってくるため、転調というよりも、別の調から一時的に和音を借りてくる「借用和音」として捉える方が自然かもしれません。
ppを繊細に
【C】で登場するppは、曲全体を通しても、最も小さい音量になります。
先ほど触れたように、ここは非常に繊細な色合いを持つ場面であり、それにふさわしい音量設定となっています。
ppではただ音量を小さくすると支えのない発声になってしまいます。そうならないよう、身体全体を十分に使って弱声を歌うことを意識しましょう。
感情を表す言葉の掛け合い
30小節からは【C】後半に入ります。
テノールが”よろこびだ”に対し、それを否定するように女声が”しかし かなしみでもある”と被せて歌います。このように、相反する感情がパートによる掛け合いで表現される場面となっています。
そのため、これらの感情を表す言葉一つ一つを、聴いている人にしっかり伝えるようにしたいところです。
そのためには、言葉の頭をクリアに発音することが重要です。子音を丁寧に強調すること、母音始まりの単語では、十分に準備してよく響かせられる状態で入るようにしましょう。
発語上ポイントとなるところを以下に示します。
- ”よろこび”…yの子音
- ”かなしみ”…kの子音
- ”いらだち”…iの母音
- ”やすらぎ”…yの子音
- ”あこがれ”…aの母音
- ”いかり”…iの母音
特に34小節のアルトの”あこがれ”は他にはない動きなので、埋もれないようにアピールしましょう。
【D】に向けての音量・テンポ変化
34小節からは確実に押さえておきたい表現が2つあります。
- cresc.(クレッシェンド/だんだん強く)
- poco a poco accel.(ポーコ・ア・ポーコ・アッチェレランド/少しずつ、だんだん速く)
これらの記号は、次の【D】の”こころの”というフレーズへ向かうためのものです。
さまざまな感情が心の中で”うずまき”、そして”あふれようとする”ほどに高まっていく。
その流れが、クレッシェンドとアッチェレランドによって表現されています。
音量だけ、テンポだけを機械的に変化させるのではなく、内側の感情が少しずつ高まっていくイメージを持って歌いましょう。
【D】38小節~ ”(こころ)のダムに”
テヌートに重さを乗せて
【D】のアウフタクト(小節の頭より前に置かれた音)の”こころ”にはテヌート(音の長さを十分に保って)の記号がつけられています。
テヌートはどのように表現したら良いのか分かりにくい記号ですが、ここでは音符一つ一つに「重さ」を乗せるようなイメージで、たっぷりと歌いましょう。
ここまでaccel.によってテンポが速まってきていますが、テヌートのところは若干テンポが緩んでよいでしょう。
あわせて”こころ”のkの子音と、oの母音を十分に鳴らすことも意識すると良いと思います。
歌い方を切り替えて
【D】は基本的にfで、レガートにたっぷりと歌いたい場面です。
ですがその中でも、”よどみ うずまき”というフレーズは16分音符の細かい動きを際立たせるために、音の粒を少しはっきりと出すような歌い方にするほうが良いかと思います。
それに関連して、繰り返しになりますが、”よどみ”のyの子音をしっかりめ立て、”うずまき”のuの母音を意識的に響かせるようにすると良いでしょう。
【E】47小節~ ”(この)きもちは”
男声の”なんだろう”をなめらかに
48小節の男声の”なんだろう”のフレーズは、【A】の場面にはありませんでしたので、アピールのしどころです。
スラーがつけられていますので、滑らかに。”な”のnで作った響きを活かしながら、1つのフレーズを歌い切るのがコツです。
細かい歌詩を自然に歌えるようにしよう
【E】のメロディーでは日本語の抑揚に沿って、16分音符や3連符などの細かい音符が使われていることが特徴です。
こういったフレーズでは、メロディーをしゃかりきに歌おうとすると、かえって不自然になってしまいやすいです。
そうではなく、parlando(パルランド/話すように)に近い感覚で歌うことがポイントとなります。
リズム読み(音程をつけずに、リズムと言葉だけを喋るように歌う)の練習法がとても有効です。
【F】61小節~ ”(ちへ)いせんのかなたへ”
曲集のタイトルにもなっている歌詩
今回は混声三部合唱版の《春に》を解説していますが、混声四部版もあり、『混声合唱曲集 地平線のかなたへ』に収録されています。
この曲集のタイトルは【F】の”ちへいせんのかなたへ(地平線のかなたへ)”という歌詩から取られています。
直接的な歌い方のポイントではありませんが、こうした情報を知っておくことで、作品全体のイメージが広がるかもしれません。
曲全体を通しての山
63小節からcresc.があり、65小節の”こえにならない”でffを迎えます。
ffは曲全体を通じて最も大きな音量で、ここがクライマックスになります。
【C】のppが最小だったこととあわせて把握しておくと、曲全体の構成を意識した音楽づくりに繋がると思います。
大きく歌いたいフレーズではありますが、乱暴にならないように、レガートに歌うことを意識してください。
細部の違いを表現に活かそう
65~69小節は、【A】にも似たフレーズがありましたが、細かい部分が異なります。
ここでは、特に表現に反映したいポイントとして、次の2点を挙げておきます。
- ”さけびとなって”の長さとテヌート
- ”こみあげる”のユニゾン
まず、”さけびとなって”の長さについて。【A】では8分音符となっており、【F】では付点8分音符となっています。そのため、【A】の”なって”は比較的あっさりめ、【F】ではこってりめの印象です。
テヌートがつけられているのも同様の効果があり、曲の最後の盛り上がりで、より感情のこもった歌い方が求められていると考えられます。
次に、”こみあげる”です。【A】ではハモっていたのに対し、【F】ではユニゾン、つまり全員が同じ音を歌っています。
このユニゾンに集中して、”こみあげる”という言葉のニュアンスをより力強く表現しましょう。
まとめ:
《春に》は、繊細な言葉の表現と、感情があふれ出すようなクライマックスが魅力的な作品です。
アウフタクトの入り、臨時記号による響きの変化、ppからffへ向かう音楽の流れなどを丁寧に意識しながら、気持ちの微妙な動きを、言葉・響き・テンポ・音量の変化と結びつけて歌ってみてください。
表現力豊かな演奏になると思います。



