この記事では『前へ』(混声四部版)について、練習・演奏でのポイントをまとめています。
『前へ』は様々なバージョンが作曲されており、今回は混声四部の楽譜を参照しています。ただし、他のバージョンを歌う際にも応用できる内容になっているかと思います。
参考になれば幸いです。
もくじ
練習番号
練習を始める前に、まずは練習番号(【A】【B】…)をつけておきましょう。楽譜にあらかじめつけられている場合はそのまま使ってもかまいません。
今回は以下の通りつけました。
- 【A】…7小節 “(おぼえてい)る”
- 【B】…23小節 “(め)をとじれば”
- 【C】…31小節 “おんがくの”
- 【D】…42小節 “(お)ぼえている”
- 【E】…50小節 “(あ)なたとの”
練習番号をつけることで、曲全体の構成の見通しをよくすることができます。また、練習する際の指示出しもスムーズです。例えば、「次は【A】のアウフタクトから」のように言えますね。
以降の解説も、練習番号に沿って行いたいと思います。
練習のコツ・演奏のポイント
【A】…7小節~ “(おぼえてい)る”
【A】ではなんといっても歌い出し、”おぼえている”のフレーズが練習でのポイントになります。これが第一声になりますので、最初の印象がここで決まります。入りの音を正確に取れるように練習しましょう。
ピアノ伴奏をつける場合には、直前5小節目の和音から音を取る必要があります。右手の最上声のD音(レ)が歌い出しの音になります。アカペラ・ピアノ伴奏いずれの場合でも、入りの音を頭の中にしっかりと思い浮かべてから歌い出すことが大切です。
また、指揮の動きも重要で、2拍目裏の8分音符を引き出せるように、動きを練習しておきましょう。
7小節に入ったところの和音が次なるポイントです。このハーモニーは繊細で、なかなか決めるのが大変です。次のように順を追って練習しましょう。
まずはソプラノとテナーだけで、A(ラ)の音がピタッと合っていることを確認します。
次はそこにアルトを加えます。D(レ)とA(ラ)なので、完全5度という音程になります。これは空虚5度ともいって、がらんどうの音がします。
今度はテナーとベースだけで歌います。G(ソ)とA(ラ)の音は長2度、つまり鍵盤上では隣同士の音です。こういった音の関係を不協和音程と言い、「ぶつかった音」と言われることもあります。不協和とか「ぶつかった」というと、何だか嫌な音がしそうですが、それがどんな印象で響くかは、周辺(他パート)の音やメロディー、前後の流れなどによって変わります。ここでの長2度は優しく繊細なハーモニーとして用いられていますので、透明感のある響きに近づくよう、確認しておきましょう。
最後に、4パートで合わせてハーモニーを確認します。
なお、8小節まで進むと、テナーとベースの「ぶつかり」が解消され、コードネームで言えばG(ソシレ)の和音になります。その流れも合わせて確認しておくと良いでしょう。
なお、『前へ』ではここで確認したような2度のハーモニーが多用されています。繊細に優しく歌いたい場面で使われていますので、ここで解説したことを応用してみてください。
2度のハーモニーの例:
- 13~14小節 “こえを”
- 29小節 “(おも)いだ(す)”
- 57小節 “いっぽいっぽ”
- 61小節 “(まえ)へ”
【B】…23小節~ “(め)をとじれば”
【B】ではまず、メロディーと”nn”のパートに分けて練習すると良いでしょう。なお、”nn”は自然と音量が押さえられますので、必要以上にpを意識する必要はなく、むしろ少し歌い目のほうが全体のバランスが取れることが多いです。
ソプラノのメロディーは優しく語りかけるように。言葉を大切に歌いましょう。アルトとテナーは動きがそろっているので、お互いの声を意識して一体感を感じて。
ベースは比較的低い音域なので、存在感が大事です。p的な音楽の雰囲気はキープしつつも、少ししっかり目に歌うとバランスが取れ、和音を支えることができます。特に、25小節のH音(シ)は、和音の切り替わりにおいて重要な音です。
27小節からは”あなたとともにうたったことを”のメロディーがテナー→アルト→ソプラノと引き継がれていきます。それぞれがお互いのメロディーを聴き合いながら、一つの大きな流れをつくりましょう。
【C】…31小節~ “おんがくの”
ここから音楽が前向きになっていくのが感じられると思います。その理由の一つは31小節”おんがくの”の和音です。ここはコードネームで言えばC、つまり「ドミソ」の和音です。
ここまではC音(ド)には♯がつきました。ですがここ以降は「ド」が♮になることで、今までになかった響きが生まれ、新鮮な印象がもたらされているのです。
この後、【D】に入ると転調してト長調になります。この【C】の部分はニ長調からト長調へ向かう、変化の場面と言っても良いでしょう。
37小節から”なんどでも”というフレーズは、男声→ソプラノ→アルトとずれて入っていきます。掛け合いを意識して、8分音符が流れるようにすると美しいフレーズかと思います。
38小節からのクレッシェンドはサビ的な場面である【D】に向かって盛り上げて。クレッシェンドやデクレッシェンドは目的地を意識することが大切です。
【D】…42小節~ “(お)ぼえている”
先ほど触れたとおり、ここからはト長調になります。
42小節から、ソプラノ→内声→ベースと、”おぼえている”というメロディーが順に受け渡されていきます。その後、”たいせつな”で合流します。
このように「掛け合い→合流」のパターンでは、どこでずれるのか、どこでタテがそろうのかということを確認しておきましょう。ずれるところではメロディーどうしの絡み、タテが揃うところでは一体感を意識します。
45小節からは先程とは逆に、男声→アルト→ソプラノの流れでメロディーが受け渡されていきます。
ここではいったんmpまで音量を落ち着けた後クレッシェンドして、再度fを作り直すことも練習しておきたいポイントです。
【E】…50小節~ “(あ)なたとの”
【D】と比べてtutti的な(=タテがそろう)部分が多くなっています。その分、よりエネルギーが増して盛り上がる場面と言ってよいでしょう。
16分音符が登場するフレーズは、より丁寧に歌詞を伝えることを意識すると良さそうです。
57小節からのpはとても繊細なフレーズです。コード的には「ドミソ」の和音に、「レ」を加えたCadd9ということになります。まずは、アルト以外のパートで「ドミソ」を作ることから始めてみましょう。
このとき注意が必要なのはベースパートです。ベースは普段なら「ド」の音、つまり和音の根音を担当することが多いです。ですが、ここでは第3音である「ミ」の音を歌っています。歌い慣れていない人も多いかもしれません。
根音はどっしりと和音を支えるようなイメージで歌いますが、第3音は和音の中にふんわりと浮かべるようなイメージで歌うのがコツです。
「ドミソ」が完成したらそこにアルトの「レ」の音を入れます。テナーの「ド」と2度でぶつかりますが、最初に述べたように、ぶつかっていても透明感のある響きになるようにトライしてみましょう。
ベース(最低音)が和音の第3音になる形を「第1転回形」と呼びます。
最低音が根音となるのが基本形は、どっしりとした重厚感のある響きが感じられるのに対し、第1転回形では、浮遊感のある繊細な響きが感じられます。
58~70小節にかけてはベースの動きが非常に難しいです。まずはこのフレーズを正確なピッチで歌えるようにしておきたいところです。
注意点としては、音が上下したときの音量です。五線より上の高めの音は少し抑えめに、低めの音は逆にしっかりと歌うと、ハーモニーのバランスが取りやすくなります。
具体的には、59小節の”ぼ”はしっかりと、61小節の”へ”はなるべく抑えめに。ここは全体としては女声合唱のような響きをイメージしても良いと思います。
普通に歌うと、高いところで大きくなってしまいそうですが、そうならないように気をつけましょう。難しいですが、ぜひクリアしたいポイントです。
終わりに
最後までご覧いただきありがとうございました。
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