【無伴奏混声合唱】《くじけない》練習・演奏のポイント|場面ごとに詳しく解説
今回は、無伴奏混声合唱曲《くじけない》の練習・演奏のポイントを解説します。
《くじけない》は、冒頭のユニゾンから始まり、各パートが絡み合うポリフォニックな場面、複雑なハーモニー、そして力強いクライマックスへと展開していく作品です。
ピアノ伴奏のないアカペラ作品ですので、ピッチ、母音、言葉のタイミング、ハーモニーの響きなど、合唱団の基礎力がそのまま演奏に表れます。
この記事では、楽譜の練習番号に沿って、歌い方のコツや和声のポイントを実践的な視点からまとめました。
日々の練習のヒントとして、ぜひご活用ください。
もくじ
《くじけない》の練習番号
練習を始める前に、楽譜に練習番号(【A】【B】…)を書き込んでおくと便利です。
練習番号をつけておくことで、”どこから歌うか”をスムーズに共有できます。
また、場面ごとの役割や音楽の流れを整理するうえでも役立ちます。
今回は次のように設定しました。
- 【A】…1小節~ 「(くじ)けない」
- 【B】…17小節~ 「(くじ)けない」
- 【C】…33小節~ 「だれかの」
- 【D】…43小節~ 「(ぐん)にゃりと」
- 【E】…51小節~ 「(た)だ」
- 【F】…59小節~「(なん)となく」
- 【G】…67小節~「(くじ)けない」
《くじけない》練習・演奏のポイント
楽譜に記載の練習番号に沿って解説していきます。
ぜひ楽譜に書き込みながら読み進めてみてください。
【A】…1小節~ 「(くじ)けない」
ユニゾンだけで音楽を作る
【A】はまず女声のユニゾンで4小節、続いて男声のユニゾンで4小節、合計8小節のユニゾンで始まります。
ここではピアノ伴奏もなく、メロディーだけが音楽の構成要素です。
ピアノ付きの曲であれば、伴奏のハーモニーやリズムが曲を前へ引っ張ってくれます。
しかし、アカペラのユニゾンでは、歌い手自身の声とメロディーだけで音楽を進め、聴かせなければなりません。
合唱団の自力が試される場面だと言えるでしょう。
このセクションをきちんと聴かせるためのポイントとして、次の5つを挙げたいと思います。
- ピッチの統一
- 母音の統一
- フレーズ終わりのロングトーン
- 言葉の積極性
- 積極性と推進力
1. ピッチの統一
ユニゾンでは、わずかなピッチのズレも非常に目立ちます。
パート全員で、音程の芯をしっかりそろえましょう。
特に、音の出だしでピッチがばらつかないように注意が必要です。
2. 母音の統一
ピッチと同じくらい大切なのが、母音の統一です。
声質や母音の形がばらつくと、同じ音を歌っていても響きが一つにまとまりません。
特に、女声の1小節、男声の5小節にある「くじけない」の「け」は注意したい母音です。
e母音は口が横に開いて平たく潰れやすいため、口の中を高く保ち、響きをキープして歌いましょう。
3. フレーズ終わりのロングトーン
4小節目の「ろう」のように、フレーズ終わりで伸ばす音にも注意が必要です。
伸ばしているうちに音量が減衰したり、ピッチが下がったりしないようにしましょう。
ただ音を長く伸ばすのではなく、伸ばしている間もテンポ感や推進力を保ち続けることが大切です。
4. 言葉の扱い
子音が遅れると、テンポがどんどん重く、モタモタしていってしまいます。
「くじけない」の[k]など、語頭の子音は少し早めに発音するようにしましょう。
ただし、子音を立てることだけに意識が向きすぎると、フレーズの流れが止まってしまいます。
言葉の輪郭をはっきりさせながらも、メロディーは自然に流れるように歌いましょう。
母音唱・フレーズ読みなどの練習法も有効になります。
5. 積極性と推進力
このような場面では、指揮者に合わせることはもちろん大切ですが、それだけでなく、”自分自身で音楽を前へ歌い進める”という意識も欠かせません。
誰かに寄りかかる受け身の歌い方になると、曲の推進力が失われてしまいます。
一人ひとりが自立心を持ち、メロディーを前へ運んでいくような意識で歌いましょう。
【B】…17小節~ 「(くじ)けない」
ポリフォニックな場面の構造を整理しよう
ユニゾン主体だった【A】から一転し、【B】は各パートが緻密に絡み合うポリフォニックな場面へと変化します。
ポリフォニックとは、複数の旋律が同時に進んでいくような音楽の作りのことを表します。
まずは、どのパートがどのように動いているのかを整理しておきましょう。
17小節〜:「(くじ)けないと」はソプラノが主旋律。そこにバスが対旋律として絡みます。
18小節〜:「いけないときが」からはアルトが主旋律を引き継ぎ、他の3パートが対旋律として重なります。
このように、【B】では一つのメロディーを全員で歌うのではなく、各パートの旋律が受け渡されながら音楽が進んでいきます。
2つのアプローチ
今回の場面においては、大きく分けて2つの歌い方が考えられます。
- 主旋律を明確に浮き立たせるアプローチ:
メインとなるパート(ソプラノやアルト)をやや強めに歌わせ、他のパートは一歩引いて主役を引き立たせる形。 - すべてのパートを等価に絡み合わせるアプローチ:
4パートが均一な音量を保ち、各声部のメロディーが対等に織り合わさる形。
どちらのアプローチでも考えられますが、楽譜上では全パートに同じ強弱記号pがつけられており、特定のパートを主役と指定する指示もありません。
そのため、個人的には【2. すべてのパートを等価に絡み合わせるアプローチ】を取ってみたい気がします。
pの音楽の中で、各パートの歌うパッセージが次々に浮かび上がってくるような音像が作曲者のイメージに近いのではないかと考えています。
ポリフォニックな場面でのコツ
こういったポリフォニックな場面では、メロディーどうしの網目が潰れて、混沌としてしまっては良くありません。
そうならないために、練習のポイントを2点、挙げておきたいと思います。
1. どこのメロディーを聴くかを整理する
ポリフォニックな場面では、ただ自分のパートを正確に歌うだけでは不十分です。
他のパートの動きを聴きながら、自分の旋律をその中にどう重ねるかを考える必要があります。
練習では、「ここはこのパートを聴きながら歌いましょう」と整理しておくとよいでしょう。
たとえば、ソプラノの「くじけない」からバスの「くじけない」へ、さらにアルトの「いけないときがある」へと、旋律が受け渡されていく流れを確認しておきます。
このように、パート同士の関係を意識しておくと、音楽の流れが分かりやすくなります。
2. pの中でも子音をしっかりと立てる
ポリフォニックな場面では、ただ自分のパートを正確に歌うだけでは不十分です。
他のパートの動きを聴きながら、自分の旋律をその中にどう重ねるかを考える必要があります。
練習では、「ここはこのパートを聴きながら歌いましょう」と整理しておくとよいでしょう。
たとえば、ソプラノの「くじけない」からバスの「くじけない」へ、さらにアルトの「いけないときがある」へと、旋律が受け渡されていく流れを確認しておきます。
このように、パート同士の関係を意識しておくと、音楽の流れが分かりやすくなります。
pの中でも子音を立てる
ポリフォニックな場面では、各パートの入りがはっきり聴こえることが重要です。
そのため、pの中でも子音を少し丁寧に立てることを意識しましょう。
特に「くじけない」のk子音や、「ときが」のt子音などは、入りの輪郭を作るうえで大切です。
ただし、子音を強く出しすぎると、pの繊細な響きが壊れてしまうことがあります。
小さな音量の中でも言葉の輪郭が自然に浮かび上がるように、子音のタイミングと響きのバランスを大切にしましょう。
【C】…33小節~ 「だれかの」
バスが音楽を引っ張る場面
【C】も【B】と同様に、各パートが絡み合うポリフォニックな場面です。
ただし、【B】と大きく異なるのは、どのパートが主役であるかがよりはっきり示されている点です。
全パートの音量はmpから始まりますが、バスにのみcantabile(カンタービレ/歌うように)の指示が書かれています。
さらに、他のパートに先駆けて、バスがmfへとクレッシェンドしていきます。
これらのことから、ここはバスが音楽全体を力強く引っ張る場面だと考えられます。
他のパートは、自分の音を歌うだけでなく、バスの旋律がどのように音楽を導いているかにも注目しましょう。
41〜42小節の転調を攻略する
41~42小節の和音進行は、この曲の中でもしっかり練習しておきたいポイントです。
コードで書けば、Fm7/B♭ → B7 となっています。やや複雑な和音なので、分解して丁寧に練習しておきましょう。
Fm7/B♭のコード
Fm7/B♭のコードはバス以外のパートだけで歌うとFm7の響きになります。
さらに分解すると、女声だけではA♭の響き、内声だけではFmの響きとして捉えることができます。
このように、いきなり全体で合わせるのではなく、女声だけ、内声だけ、バスを加えて全体、というように段階的に確認すると、和音の構造が見えやすくなります。
Fm7/B♭(シ♭・ファ・ラ♭・ド・ミ♭)というコードは、変ホ長調におけるドミナントセブンスB♭7(シ♭・レ・ファ・ラ♭)の第3音を半音上げてsus4(レ → ミ♭)にし、第9音(ド)を加えた和音として理解することができます。
B7のコード
42小節のB7は、次の【D】から始まるホ長調へ向かうためのドミナントセブンスです。
つまり、この和音が次の場面への転調を準備していると考えることができます。
ここで注意したいのが、ミ♭とレ♯の関係です。
この2つの音は鍵盤上では同じ高さですが、音楽の中での役割は異なります。
前の響きの中ではミ♭として捉えられていた音が、次のホ長調へ向かう流れの中ではレ♯として機能していきます。
このような異名同音の感覚を持っておくと、ただ音を当てるだけでなく、”次の調へ向かって響きが変わっていく”という感覚を持ちやすくなります。
【D】…43小節~ 「(ぐん)にゃりと」
転調後の響きを感じて
直前の41~42小節で転調の準備が行われ、【D】からはホ長調となります。
全体に半音上がることで、新しい場所に出たような明るさや推進力が生み出されます。
ただ音を取るだけでなく、”ここから新たな場面になる”という意識を持って歌い始めると、場面転換がより鮮やかなものになります。
mfとfの違いをつけよう
48小節からのfは、この曲ではじめて登場するfです。
そのため、ここでの音量が新鮮なものとして聴かせられるように、ここまでの音量設計を考えておくことが大切です。
mfとfは、どちらも比較的大きな音量の指示なので、違いが曖昧になってしまうことが多いですが、この場面では、それらの差をはっきり見せられると良いと思います。
一瞬ですが先行するアルトの「ぐん」が力強く他パートを引っ張れると良いと思います。
【E】…51小節~ 「(た)だ」
sub. p を効果的に
【E】となる51小節のアウフタクトにsub.p(スービト・ピアノ/急に小さく)があります。
直前までfで進んできた音楽が、ここで一気に小さくなるため、とても印象的な聴かせどころになります。
この効果をはっきり出すために大切なのは、その手前で小さくならないようにすることです。
51小節に入る前から中途半端に音量が弱くなってしまうと、sub. pの変化がぼやけてしまいます。
直前まではfの音量を保ち、sub. pのところで瞬時に表情を切り替えましょう。
小さい音量でもピッチ・ハーモニーを保つ
小さく歌おうとすると、息の支えが抜けたり、ピッチが不安定になったりしやすくなるため、sub. pでは注意が必要です。
特にここでは、「た」のB7、「だ」のC♯mのハーモニーが不安定にならないよう、よく確認しておきましょう。
練習では、「た」と「だ」の和音をそれぞれロングトーンで伸ばして確認しておくと効果的です。
テヌートにニュアンスを込めて
sub. pの場面では、「た」の8分音符と、「だ」の付点4分音符にテヌートが付けられています。
テヌートは、音の長さを十分に保つという意味ですが、ここではそれだけでなく、言葉に重みやニュアンスを加える記号として捉えるとよいでしょう。
「ただ」という短い言葉ですが、この曲の中ではとても大切な切り替わりの言葉です。
音量は小さくても、言葉の存在感が薄くならないように、一音一音を丁寧に歌いましょう。
表現としては、sotto voceのように声をひそめて歌う方法も考えられますし、pの中に力強さを込めて歌う方法も考えられます。
どちらの場合も、ただ小さくするのではなく、”ここで音楽の表情が変わる”という意識を持って歌うことが大切です。
【F】…59小節~「(なん)となく」
クライマックスを充実させて
【F】からは、この曲の中で最も大きく盛り上がるクライマックスの場面に入ります。
豊かなfで歌うことは必要ですが、音量を出そうとして発声が荒くならないように注意しましょう。
強い音量の中でも、丁寧な発声とレガートを保つことが大切です。
59小節からは、ソプラノ、アルト、男声へと「ひとりで」の言葉が歌い継がれていきます。
前のパートからのメロディーの流れを受け取るような意識を持つとよいでしょう。
61小節のC7をクリアに
60小節からcresc.していき、61小節でエネルギー・和音の響きを充実させましょう。
ここでのコードはC7となります。ラ♯をシ♭と読み替えるとコード的には分かりやすいですね。
ホ長調のなかにあってはかなり新鮮に響きますので、クリアなピッチ感が欲しいところです。
62小節を曲全体の頂点に
62小節の「くじけない」は、全パートがそろうtuttiで。音量もffとなり、この曲全体の頂点となる場面です。
ただし、アクセントではないので縦割りにならないように、大きな弧を描くようなフレーズとして捉えるほうが良いかと思います。
そうすることで、その後の「だけ」に付けられたテヌートとの違いも表現しやすくなります。
ヴォカリーズでも熱量を保って
続くヴォカリーズでは、音量はfになります。
ffの頂点を過ぎたあとではありますが、ここで急激に熱量が失われないようにし、クライマックスの余韻を保ちましょう。
特にソプラノは1パートで歌うことになりますので、頼りなく聴こえないように、十分な響きを保ちましょう。
デクレッシェンドの選択肢
65小節の<>が書かれた音のコードはD7です。やはりホ長調のなかでは新鮮な響きですので、ピッチを整理しておきましょう。
ここでのデクレッシェンドは、次の【G】の入り方に大きく関わります。
rit.を利用して、十分に音量が収まるまで、たっぷりと時間を使いましょう。
デクレッシェンドの処理としては、たとえば次のような選択肢が考えられます。
- pよりも小さくし、次の「くじけない」を少し大きめに入り直す
- pまで小さくし、そのまま次の「くじけない」へ入る
- pより大きに残し、次の「くじけない」をより小さく入り直す
最も自然なのは2の形かもしれませんが、1や3にもそれぞれ異なる演奏効果があります。
大切なのは、なんとなく小さくするのではなく、次の【G】をどのような表情で始めたいのかを考えてデクレッシェンドを作ることです。
自分たちの表現したい方向に合わせて、音量の収め方を選んでみましょう。
【G】…67小節~「(くじ)けない」
ユニゾンへの回帰
【G】では、まず女声のユニゾン、続いて男声のユニゾンで「くじけない」と歌われます。
その後、ミ♭音のロングトーンに入ると、全パートが完全なユニゾンになります。
曲の冒頭も女声・男声のユニゾンから始まっていましたので、ここは冒頭のユニゾンへ回帰する場面として捉えることができるでしょう。
ただし、冒頭とまったく同じ表情で歌うわけではありません。
ここまでさまざまな掛け合いやハーモニー、クライマックスを経てきたあとのユニゾンです。
そのため、pの中にも、曲全体を歌い切ったあとの深まりや、静かな意志の強さを感じさせたいところです。
表情のない棒歌いにならないように、一つひとつの言葉を丁寧に扱いながら歌いましょう。
sosten.を印象的に
69小節はソプラノのロングトーンに対し、下三声が「くじけないだけ」と歌います。
sosten.(ソステヌート/音を十分に保って)の表現として、8分音符1つ1つの和音を丁寧に確認しておくことがキーになると思います。
下三声の和音は、次のように整理できます。
- 「く」…3パートがラ
- 「じ」…G
- 「け」…D/F♯
- 「な」…C/E
- 「い」…C
- 「だ」…D
- 「け」…E
ここにソプラノのミが入ると、下三声が構成する和音との関係から、新しい響きが生じます。
例えば、コードがCのときは和音の構成音となりますが、GやDのときにはそれぞれ6thや9thのテンションとなります。Eでは構成音、特に根音となりますから、”落ち着く感じ”を最も強く受けると思います。
ソプラノの人は、単に伸ばすだけでなく、和音から受ける圧力の変化を感じてみてください。
まとめ
《くじけない》は、冒頭で提示されるユニゾンを軸に、掛け合い、ポリフォニックな展開、ハーモニーの変化へと展開してく作品です。
練習では、まずユニゾンのピッチ、母音、言葉のタイミングをしっかりそろえることが大切です。
そのうえで、ポリフォニックな場面ではどのパートが主役になるのかを意識し、他のパートと響きを絡ませながら音楽を作っていきましょう。
また、ハーモニーの変化やsub. p、クライマックスのffなど、場面ごとの表情の違いを丁寧に磨き上げることで、作品の魅力がより伝わりやすくなります。
本記事が、皆さまの練習や演奏づくりの参考になれば幸いです。
何か分からない点などありましたら、お問い合わせからご連絡ください。
この度はリクエストありがとうございました。



