『樹氷の街(竹岡範男作詞 矢田部宏作曲)』の解説記事になります。
今回、以下のようなリクエストを頂きました。
80代中心の高齢者の合唱団で取り組もうと思っています。若いこ
ということで、どのようなことに気をつければ合唱らしい豊かな響きを作り出せるのかというところに重点を置いて解説したいと思います。
リクエストいただいた方はもちろん、『樹氷の街』を演奏されるすべての方々の参考になる記事になればと思います。
もくじ
倍音を豊かに響かせるためには
曲の解説に入る前に、倍音を豊かに響かせるために気をつけたいことに触れておきたいと思います。
- 【発声】
- 【アンサンブル】
これら2つの面から説明します。
【発声】柔らかく響く、合わせやすい声で歌おう
まずは発声。個々人が気をつけたいことです。
豊かな倍音を作り出すうえで目指すべきは柔らかい響きの声です。
声質が柔らかいとメンバー同士声を合わせやすくなります。うまく声が合わさり、溶け合うと互いの声が共鳴し、豊かな響き(倍音)を生みます。
逆にどんなに美声であっても、声質が硬いと声が溶けにくくなり、全体として豊かな響きは生まれにくくなっていきます。
もう少し具体的に、気をつけたいポイントを上げたいと思います。
次の5点です。
【発声】で気をつけたいこと
- まずはリラックス
- たっぷりとしたブレスで
- 息の流れはゆったり遠くに
- 頑張りすぎず、力まずに
- 喉をよく開いて
1. まずはリラックス
まずはリラックスが大事です。
緊張して体が固くなっていると、声質も固くなりがちです。
体操をして体を温めたり、全身のストレッチをすることも効果的です。
2. たっぷりとしたブレスで
声を出すときはたっぷりと息を吸う(ブレスを取る)ことも大切。
深く息を吸うと発声にも余裕ができ、柔らかい発声に繋がります。
3. 息の流れはゆったり遠くに
ウォーミングアップとしてブレスの練習をすると思います。
このときに息を流す向きを気をつけましょう。
正面に直線的に流すのではなく、頭蓋骨の後ろを回って、アーチを描いて遠くに届けるような軌跡をイメージで。
4. 頑張りすぎず、力まずに
声を出すときは力みは禁物。力みは硬くて響きにくい発声につながりやすいです。
声量は自然に出せる範囲で構いません。
喉周りでは決して無理をせず、むしろ体全体を使って深くブレスを取ることや、あとに述べるように周りの声をよく聴くことに力を振り向けましょう。
5. 喉をよく開いて
喉(軟口蓋)を開いて発生すると、深みと響きのある声になります。
意識しすぎて力が入ってはいけませんが、できる範囲で意識してみましょう。
「あくび」をするときのような声を出すと、喉を開くイメージをつかみやすいです。
【アンサンブル】声を合わせて豊かな響きを作ろう
合唱ではお互いの声を合わせ、溶け合わせることで倍音が生まれ、効果的に豊かな響きを得ることができます。
そのためにアンサンブルの際に意識したいポイントをまとめました。
次の3点です。
【アンサンブル】で気をつけたいこと
- パート内で1つの音にしよう
- 全体のハーモニーを感じよう
- 練習はぜひ、アカペラで
1. パート内で1つの音にしよう
まずはパート内で音程・音色をしっかり合わせましょう。
同じパートですから当然音は同じになりますが、以外にもこれがバラついてしまうことが多いです。
声がよく合っていると、1つのパート、1つの音でも豊かな響きが生まれます。
2. 全体のハーモニーを感じよう
各パートの音がしっかりとそろったら、次は全体で合わせてハーモニーを作りましょう。
慣れないうちはつられそうになって、自分が声を出すことに必死になってしまうと思います。
ですが、だんだんと慣れていきながら、自分以外のパートの音も聴けるよう、また全体のハーモニーがどうなっているかを聴けるようになっていきましょう。
全体の和音の中で、自分の音がどのような位置づけにあるか、役割を感じ取りながら歌ってみましょう。
3. 練習はぜひ、アカペラで
『樹氷の街』はピアノパートがある曲ですが、練習の段階ではピアノパートなしで、アカペラで練習することをおすすめします。
なぜなら、その方が合唱の繊細なハーモニーを意識して歌いやすいからです。
ピアノパートがついていると、ピアノパートが音楽を推進させてくれますし、コード(和音)を支えてくれますので楽に歌えます。
なのですが、その分ピアノに頼りすぎてしまってお互いの声を聴きあうことを忘れがちなのです。
ピアノと合わせる、ピアノの音を聴きながら歌えるようになることもとても大切なのですが、アカペラでの練習も積極的に取り入れていただければと思います。
『樹氷の街』の練習番号について
曲の練習に取り組む前に、以下のような練習番号をつけておきましょう。
- 【A】…3小節
- 【B】…23小節
- 【C】…35小節
- 【D】…48小節
- 【E】…57小節
- 【F】…75小節
- 【G】…79小節
- 【H】…88小節
- 【I】…96小節
練習番号は全体像を掴むのに役立ちますし、練習をどこから始めるのか指示する際にもスムーズです。
詳しくはこちら記事(【入門】合唱曲のアナリーゼ(楽曲分析)|やり方・ポイント【書き方の具体例あり】)をご参照ください。
『樹氷の街』の練習のポイント
ここからは、どうすれば豊かな響きを作れるかというところに重点を置き、練習番号ごとにポイントを解説していきたいと思います。
【A】入りとハーモニーに集中して
【A】の場面はロングトーンでのハーモニーの美しさに特徴があります。
伸ばすところで一つ一つ和音が決まっているか確認しながら練習を進めたいところです。
例えば3~4小節の”ゆきが”で伸ばすところは「ソ」「シ♭」「レ」のGm(=ト短調)の和音となっていたます。
同様に各箇所での和音と構成音をまとめておきます。
- 3~4小節(”ゆきが“)…Gm「ソ」「シ♭」「レ」
- 5~6小節(”ふる“)…D7「レ」「ファ♯」「ラ」「ド」
- 7~8小節(”ゆきが“)…D7「レ」「ファ♯」「ラ」「ド」
- 9~10小節(”ふる“)…Gm「ソ」「シ♭」「レ」
- 11~12小節(”ゆきが“)…E♭「ミ♭」「ソ」「シ♭」
- 13~14小節(”しろく“)…B♭「シ♭」「レ」「ファ」
- 15,19小節(”ふり“)…Cm「ド」「ミ♭」「ソ」
- 16小節(”しき”)…D7「レ」「ファ♯」「ラ」「ド」
- 17~18小節(”る“)…Gm「ソ」「シ♭」「レ」
- 20小節(”しき”)…F7「ファ」「ラ」「ド」「ミ♭」
- 21~22小節(”る“)…B♭「シ♭」「レ」「ファ」
※下線部がロングトーンの箇所
ちょっと細かくなってしまいましたが、どんな和音になっているのか、それらがどう繋がっているのかを、アカペラで練習して感じ取ってみましょう。
特に【A】は静かな場面ですので、より耳を使いやすいと思います。
また、入りの8分音符ではタイミングに遅れないように、6/8拍子のリズムに乗りながら、子音(y, f)を早め、長めに歌いだしましょう。
【B】メロディーの跳躍で力まずに
【B】は和音が主役だった【A】とは対象的に、男声→アルト→ソプラノとメロディーを歌い継ぐ場面となっています。
男声のポイント
25小節の”うずめ”は7度というかなり幅の広い跳躍があります。
高いのですが力まずに、上がった先の音をよく狙って、丁寧に歌いましょう。
まだ盛り上がる場面ではありませんので、荒っぽい歌い方はそぐいません。
アルトのポイント
アルトは起伏の少ないメロディーですが、「ファ」→「ファ♯」→「ソ」のラインを活かしましょう。
この半音の動きが和声に色の変化を与えてくれます。
ソプラノのポイント
27小節”いえいえ”は高いですが、やはり丁寧に、響きがきつくならないよう、語るように歌えると良いと思います。
【C】細かい音符でも響きをキープして
【C】で初めて出てくる要素は”きょうかいのじゅうじか”のような細かい音符です。
このようなフレーズでは言葉を話すことに精一杯で、母音の響きが無くなってしまうことが多いです。
そうならないよう、響きをキープして打たるように練習しましょう。以下の方法も有効です。
- 母音唱…子音を無くして母音だけで歌う(例:”o-aio- u-i-ka-(きょうかいのじゅうじか)”)
- リズム読み…音程をなくして読むように歌う
伸ばす音は【A】と同様に、ハーモニーに注目して練習すると良いでしょう。
【D】4声のハーモニーを充実させて
44小節から力強い4拍子になります。
【D】からは男声のパートが分かれ、全体で4声になるのが大きな違い。4声帯ならではの重厚なハーモニーを響かせましょう。
ポイントはやはり分かれる男声で、分かれたときにクリアにハーモニーが決まっていると、全体の響きの広がり方が違ってきます。
【E】転調を感じて輝かしく
【E】からは暗いト短調から明るいト長調に転調しています。
“あたらしいひかり”という詩に対応した変化と言えるでしょう。
ここで重要になる音は「シ♮」です。この音が♭から♮になることで調が明るく変化するのです。
ソプラノや男声のメロディーに登場する「シ♮」のピッチをクリアに歌うことで、場面の変化を明確に表現できます。
【F】男声のメロディーを繊細に
再びもとの暗いト短調に戻ります。
主役である男声のメロディーは、乱暴にならないよう、繊細に、丁寧に歌いましょう。
特に高い「ド」の音でバラつかないよう気をつけると美しく歌えます。
【G】激しい場面でも良い発声をキープして
ここからテンポアップし、ピアノパートも細かくリズムを刻み、激しい場面となっていきます。
ですが、それによって声を荒げてしまわないよう、良い発声をキープできるよう心がけましょう。
【H】臨時記号の音に注意して
【H】の場面は臨時記号が多く、音が取りづらいだけでなく、ハーモニーも複雑で難しい場面です。
1パートずつ、確実に音をさらっておきましょう。
【I】ハーモニーで勝負
クライマックスの場面となります。
96小節から99小節のffへとクレッシェンドし、大きく盛り上げて曲を締めくくります。
「倍音を響かせて」ということなら、やはりこういった場面でも力みすぎずに、ハーモニーをしっかり決めることでクライマックスを作りましょう。
最後のロングトーンのハーモニーは次のようになっています。
[ラスト(99小節~)のハーモニー]
- ソプラノ…「ファ」
- アルト…「シ♭」
- テノール(男声↑)…「レ」
- ベース(男声↓)…「シ♭」
アルトとベースが同じ「シ♭」を歌いますので、この2パートの音がピッタリと同じになるようにしましょう。「シ♭」は根音(こんおん)といって、ハーモニーの土台となる音ですので、しっかりと全体を支えるようなイメージ歌います。
ソプラノ・テノールは根音の「シ♭」をよく聴きながら、それに対してハモるように自分の音を歌いましょう。
全体では非常に輝きのある明るい和音になります。
まとめ:豊かな響きを作るために
【発声】【アンサンブル】で気をつけたいことをもう一度振り返っておきます。
【発声】で気をつけたいこと
- まずはリラックス
- たっぷりとしたブレスで
- 息の流れはゆったり遠くに
- 頑張りすぎず、力まずに
- 喉をよく開いて
【アンサンブル】で気をつけたいこと
- パート内で1つの音にしよう
- 全体のハーモニーを感じよう
- 練習はぜひ、アカペラで
これらを意識しながら曲の練習にも取り組んでいただければと思います。
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