木下牧子

『ひとり林に…』(木下牧子)歌い方のポイント

『ひとり林に…』(木下牧子)の歌い方のポイントをまとめました。無伴奏混声四部バージョンになります。

基本的には私の合唱団のメンバー向けの内容となっていますが、もしも他の団の方がこのページを見つけてくださった場合は、参考にしていただけるかと思います。

『混声合唱曲集 にじ色の魚』(作曲:木下牧子/カワイ出版)を参考に、本文中で歌詩などを引用する場合には「””」で示しています。

『ひとり林に…』の練習番号

以下のように練習番号をつけたいと思います。

練習番号
  • 【A-1】1小節 “だれも”
  • 【A-2】9小節 “だれも”
  • 【B】17小節 “とおりおくれた”
  • 【C】25小節 “あおい”
  • 【D】33小節 “くさのはには”
  • 【E-1】45小節 “だれも”
  • 【E-2】53小節 “うたう”
  • 【F】61小節 “かたく”

『ひとり林に…』の歌い方のポイント

練習番号ごとに歌い方のポイントを説明します。

「俺はこう読みたいんや!」という独自解釈も含みます。

【A-1】1小節 “だれも”

テンポはアンダンテ的なイメージ。つまり、ゆったりではあるが、前に進む進行感が必要。

男声”だ”の入り超大事。女声がずれて入ってすぐにハモる(A♭)。

2小節目のコードはG♭add9。このように、さり気なく難しいコードが使われているのが本曲の魅力。

フレージングは4小節でひとまとまり。真ん中に向かって膨らませる。最初の4小節なら、”いな”あたりがフレーズ上の頂点。

全般的なフレージングとして、4小節レベルの大きな波の中に、2小節レベルの中くらいの波、そして文節レベルの小さな波が含まれているというイメージ。(それに加えてクレッシェンドなどの表現も加わる。)※さらにそれらのフレーズが合わさって、練習番号レベルのまとまり(ペリオーデ=楽段)が、ペリオーデが集まって1つの曲が構成される。

それに伴ってテンポは随時伸縮します。杓子定規に3拍子で合わせることはせずに、例えば直前の音の伸び方とかでテンポ感を共有しましょう。

5小節、”さいてい”はのコードは第1転回形(=最低音が第3音)で、ふわりとした繊細な音。

6小節目は、D♭にMaj7thと9thを足したわりかし複雑なコード。ただし第5音は省略されており、軽さもある。

7~8小節に出てくる臨時記号♭は大事。これによって和音の色が変わる。(準固有和音)

フレーズ終わりのクレッシェンドは次のmpに向かう。

【A-1】に入る前はブレスを取るが、男声・女声で次のフレーズの入りが異なるので、その点配慮を。(男声に合わせる。)

【A-2】9小節 “だれも”

mpになったら少し積極的に。

10小節の”きいて”は裏拍になるので、【A-1】とはフレージングが変わります。具体的には山の頂点に向かうタイミングを気持ち早めに。

“鳥と鳥”は、2回目の言葉を少し強調して。

【B】17小節 “とおりおくれた”

このフレーズは【B】全体=”とおりおくれた”~”ながされてゆく”までが1つのフレーズと捉えるのが正解っぽいです。

“とおりおくれた”は8分音符の流れが大切。流れが止まらないよう、4小節まとまりの山(=言葉上は”く”、フレーズ上は”も”)に向かって息を回転させる。

cresc.の持っていき方が女声と男声で異なる。”たかく”では女声が先行し、男声が追随。

“ながされていく”が【B】全体を通じた山場。コード変化の新鮮さを保ちたい。

フレーズ終わりのrit.は、pocoとかではないので、割としっかり作る。”雲”が”ながされて”いった後の距離感、高度、余韻をイメージしたい。

【C】25小節 “あおい”

25~28小節、この部分のpやベースの♭の音にには、やはり雲に対する距離感、空の広がりを感じたい。

フレージングは、”あそこには”が途中の山。

“風がさやさや”では、”風”のkや、”さやさや”のs子音で語感をアピールしたい。また、臨時記号の♭には風の冷たさを。

ベースの”のだ”の音は正確に。

【D】33小節 “くさのはには”

“くさのはには”は【B】同様に流れが大事。4小節のフレーズの中では35小節の”葉”が頂点となるので、そこに向かって息を回転させることが推進力を生む。

大きな波の中に、”くさのは”、”くさの”、”はの”、”かげ”という文節レベルの波も内包されていることに留意したい。

“うごかない”の直前の休符はぜひとも無音の時間を作りたい。”雲”、”風”という動的なイメージから、”うごかない”、”ふかみ”、”ねむってゐる”という静的なイメージへの切り替え。ここのフレーズはsotto voce的な表現も可能かもしれない。

“てんとうむし”は外声どうし、内声どうしタテがそろう。

フレーズ終わりのrit.とフェルマータ、そして44小節のカンマはしっかり作る。これによって場面の切り替え。

フェルマータに向かってdim.し、音を収束させていく。

アルトの音が下がることでコードが滲むような印象に。

【E-1】45小節 “だれも”

【A】ではフレージングにともなうアーティキュレーションおよびテンポの収縮が動的に発生した。それに対して【E】ではppの解釈として、そのような表情をあえて抑制し、静的な表現にしたい。

【E-2】に向かうクレッシェンドは積極的に。次なる音楽を予感させて。

【E-2】53小節 “うたう”

“うたう”というテキストに応えて、ここからは積極的に音楽を前に進める。音量をアップさせるだけでなく、accel.していくような気持ちがあっても良い。

55小節~のcresc.の書き方にきちんと解釈を与え、表現したい。59小節の”いずみ”でfとなるが、cresc.はそのさらに先まで続いている。どこまでも溢れるもののメタファーとしての”いずみ”、それ呼応したものである(ように思う)。

また、cresc.の途中(57小節)でmfが明記されている。これは単なるクレッシェンドの目安ではなく、”わたしの”という言葉に一定の存在感を持たせてほしい、というような作曲者の意図を感じる。少々アクセントやテヌート的なニュアンスで、確かな重みを持たせて歌いたい。

58小節の”ねは”の”む”は全曲通じて唯一4声が同じ音を歌う。その後、”ね”はD♭m(サブドミナントマイナー)に9thを加えたコード。アルトとソプラノの音が半音でぶつかるので正確に。

60小節の”いずみ”のコードは、()書きの音符で見るとEであり、もともとの調であるA♭からするとかなり遠い世界のものとなっている。”私の胸は溢れる泉!”という、目もくらむような感情の高ぶりに応えるかのような表現に感じられる。

【E-2】からの一連のフレーズでは、A♭(=G♯)の音がパートを変えながら受け継がれており、ペダルポイント的な効果を生んでいる(ような気がする)。つまり、トニックの性質を持つA♭が保続されることで滔々とした広がりを、変化していくコードがテンションの高まりを実現している、ということだ。

60小節のフェルマータの後、カンマがあるので間を作る。ホールの空間と響きの広がりを感じて。

【F】61小節 “かたく”

直前の”いずみ”から、E → C → A♭とコードが変遷し、もとの調に戻ってくる。この色彩の変化は、最高潮となったテンションが、次第にクールダウンしていくようにも感じられる。それと同時に、一時的に失っていた時間感覚を取り戻す。

“かたく”、”ひびき”のk子音・h子音はそれぞれニュアンスを持って。

“すすめる”はrit.の他、テヌートがあるので一つ一つの音符に重さを持たせて歌う。