合唱の基礎練習・発声練習の流れとメニュー|目的と効果も解説

「合唱の発声練習って、何をしたらいいの?」
そんな疑問を持つ方に向けた記事です。
多くの合唱団では、練習の最初に発声練習を行いますが、その目的や効果をあまり意識しないまま取り組んでいるという声もよく聞きます。
また、自分が発声練習を仕切る立場になったとき、「どんな流れで進めればいいの?」と戸惑うこともあるかもしれません。
そこでこの記事では、発声を中心とした基礎練習の流れ、具体的なメニュー、そしてそれぞれがどんな目的・効果を持っているのかをわかりやすく整理しました。
また、声を出すことだけでなく、体のウォーミングアップや、アンサンブルの基礎トレーニングも、基礎練習の一環として紹介しています。
日々の練習がより充実したものになるよう、ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
基礎練習について
この記事のタイトルにもある「基礎練習」という言葉は、耳に馴染みのない方もいるかもしれません。
ここでは、筆者の経験に基づいて次のように定義します。
基礎練習:
体・声を起こすウォーミングアップから、発声トレーニング、 アンサンブル力を鍛える基礎的な練習までをまとめたもの。
多くの合唱団では、曲の練習に入る前に発声練習を行いますが、基礎練習はそれに加えて「実際の曲づくりに繋がるメニュー」 も含めた、もう一段広い概念です。
例えば、カデンツの練習、階名唱の練習などがその代表例です。
基礎練習の流れ
基礎練習は、大まかには次のような流れで進められます。
- 体のウォーミングアップ(体起こし)
- 筋力トレーニング
- 呼吸(ブレス)のトレーニング
- 声のウォーミングアップ(声起こし)
- 声のトレーニング
- アンサンブルのトレーニング
解説のために詳細に分類していますが、実際の練習ではここまで細かく分けず、より大まかなステップとして扱われることが多いと思います。
たとえば、①は「体操」、③は「ブレス」、④〜⑤はまとめて「発声」と呼ばれることが一般的です。
特に⑥の アンサンブルのトレーニング は、基礎練習ならではの項目で、単に声を出すだけでなく、曲を歌う際に欠かせない “耳” や “合わせる力” を育てる重要な時間です。
なお、これらのメニューを毎回すべて行う必要はありません。合唱団の方針や、その日の練習目的、練習時間の長さなどに応じて、柔軟に組み換えることができます。
また、それぞれの項目は明確に線引きできるものではなく、一つのメニューが複数の目的を同時に兼ねている場合もよくあります。
以下では、これら6つのステップについて、目的や効果、具体的なメニューを順番に解説していきます。
ご自身の練習や指導に役立つヒントとして、ぜひ読み進めてみてください。
1. 体のウォーミングアップ(体起こし)
発声練習の前に、まず行いたいのが 体のウォーミングアップです。
発声というと、口や喉といった発声器官だけを使っているように思われがちですが、実際には姿勢や呼吸も含め、体全体を使って声を出しています。
その体が冷えたまま、あるいは固まった状態では、動きが制限され、声ものびにくくなってしまいます。
ほんの軽い運動で体を温めるだけでも、呼吸のしやすさや声の出しやすさは大きく変わります。
実際の練習では、曲の練習を優先するあまり省略してしまうこともありますが、短時間でも構わないので、ぜひ取り入れておきたいステップです。
その後の発声や曲練習をスムーズに進めるための、大切な下準備と言えるでしょう。
目的・効果
- 体を温め、発声につながる筋肉を働きやすい状態にする
- 姿勢や呼吸を整えやすくし、無理のない声につなげる
- 体の緊張を取り、怪我や疲労の予防にもなる
メニュー例
まずは、誰でもできて効果の高いものから始めるとよいでしょう。
- 首・肩まわし
- 背伸びや体側伸ばし
- 肩甲骨を大きく動かすストレッチ
- 軽いスクワット
これらは「体を起こす」「可動域を広げる」「呼吸しやすい姿勢に整える」という目的につながっています。
短い時間でも構わないので、毎回必ず取り入れることで声の立ち上がりがぐっとスムーズになります。
メニューを考えるのが難しければ、シンプルにラジオ体操を行っても良いですし、Youtubeのフィットネス動画なども役に立つと思います。
体を動かして温めることができればよいので、合唱専用の動きを考える必要はありません。
2. 筋力トレーニング
合唱で「筋力トレーニング」と聞くと、腹筋運動を思い浮かべる方も多いかもしれません。
もちろん腹筋も大切ですが、合唱で使う筋肉はそれだけではありません。
特に意識しておきたいのが、姿勢を安定させる体幹の筋力です。ここで目指すのは、強く鍛え上げることではなく、歌うための土台となる筋肉を「育てておく」というイメージです。
体幹が安定すると姿勢が崩れにくくなり、呼吸の流れが安定し、伸びやかな発声につながっていきます。
また、一旦体に力を入れることで、逆説的に全身の力を抜く、脱力の感覚が得られます。脱力はブレス・発声において重要です。
さらに、姿勢が整うことで立ち姿がきれいになり、ステージに立ったときに かっこよく、そして上手そうに見えるという嬉しい効果もあります。
目的・効果
- 姿勢を支えるための体幹を整える
- 呼吸筋(横隔膜・肋間筋など)が使いやすくなり、息が流しやすくなる
- 声のブレを防ぎ、支えのある発声につながる
- 力みを防ぎ、自然で持続的な声を出しやすくなる
- 全身の脱力
- 立ち姿がかっこよくなる
メニュー例
無理のない範囲で、短い時間で続けられるものがおすすめです。
- スクワット
- プランク
- クランチ・ツイストクランチ
3. 呼吸(ブレス)のトレーニング
合唱では「声が大切」とよく言いますが、その声の源になるのが 息(呼吸・ブレス) です。
息がなければ良い声は出ず、良い声が出なければ歌は歌えません。
そのため、本格的に声を出す前にブレスのコントロールを整える練習を行うことが多くあります。
また、発展的な練習として、「優しい息」、「弾むような息」といったような様々な息遣いを練習することもあります。息のバリエーションを持っていることは、様々な表情でフレーズを歌い分ける技術に繋がります。
ブレス練習は基礎的で地道なトレーニングですが、非常に重要です。
目的・効果
- 息の流れを一定に保つ力を身につける
- 無理なくたっぷり息を吸う感覚を育てる
- 声の安定・響きの向上につながる
- 長いフレーズを楽に歌えるようになる
- フレーズを歌い分ける表現力の源となる
メニュー例
- 一定の長さで息を吐く(2拍で吸って、8拍・12拍・16拍で吐く など)
- 一定の長さで息を吐き、瞬間的にブレスを取る
- h(a)、h(i)、f(u)、h(e)、h(o)など、母音を変えて吐く(無声で)
- 優しい息、弾む息などのバリエーション
- zの子音で歌う(無声と有声の繋ぎ)
4. 声のウォーミングアップ(声起こし)
ここまで体と呼吸の準備をしてきましたが、ここからはいよいよ声を実際に出していきます。
とはいえ、いきなり全力で歌ってしまうと、声帯や周囲の筋肉に負担がかかり、声を痛める原因になります。
そこで行うのが 声のウォーミングアップ(声起こし) です。
声帯や声に関わる筋肉をやさしく動かし、温めておくことで、このあとの発声や曲の練習で 声が出しやすくなり、疲れにくくなる という効果があります。
目的・効果
- 声帯を無理なく振動させ、発声の準備を整える
- 余計な力みを取り、自然な響きを作りやすくする
- 喉を痛めにくくし、長時間の練習でも声が保ちやすくなる
メニュー例
- リップロール・タングトリル(口周りの脱力、息の流れの確認)
- サイレン(母音・ピッチを定めずに上行・下降)
- フクロウ(ファルセットでhoー)
5. 声のトレーニング
声のウォーミングアップで喉が目覚めたら、次は声そのものを磨くステップに進みます。
合唱は「声の芸術」。どれだけ良い響きをつくれるかが音楽の質を大きく左右します。
この段階では、単に声を出すだけではなく、声の質・音程・言葉・アーティキュレーションなど、曲づくりに直結する要素をトレーニングしていきます。
目的・効果
- 声そのものの響きを磨く
- 母音の響きの統一
- 跳躍音程の練習
- 子音の練習
- 音量やアタックのコントロール
- アーティキュレーションの練習
メニュー
母音
通常、アイウエオの5つの母音を練習しますが、外国語曲を練習しているときは、例えばドイツ語のウムラウトの練習を取り入れても良いでしょう。
- a / i / u / e / o を一定の響きで保つ
- 母音の形(口・舌・響きの位置)を確認
- 同じ音型で母音を切り替える練習(例:a → o → i)
- ウムラウト(ä、ö、ü)の練習
子音
子音は歌詩を伝えるのに大切な要素。またフレーズの表情を変える際にも重要なファクターとなります。
- 様々な子音を歌うときの息の流れを確認
跳躍音程など
実際の曲を歌う際には、様々な音程(音と音との隔たり)が登場します。
それらを歌う際、どのようなことに気をつければ良いかを身に着けます。
- 5度・8度などの跳躍
- 跳ぶ前の音の準備(息・響きの位置)を整える
- 上行・下行での違いを体感
音量コントロール
楽譜には様々な記号が書かれていますが、その中でも基本的なのが強弱を表す記号です。
大きく歌うこと、小さく歌うことはもちろんのこと、fで時に発声が荒れないこと、pでピッチが下がらないことなども練習しておくとよいでしょう。
また、聴き合いながらクレッシェンド・デクレッシェンドのペースを合わせる練習などもアンサンブル力の向上に繋がります。
- p / f の切り替え
- クレッシェンド/デクレッシェンドのペースを合わせる
- 息の量・スピードで音量とニュアンスを調整
アーティキュレーション
これらは作品の表現力に直結する部分です。
声の出し方を変えることで、音楽の質感が大きく変わります。
- レガート(滑らかにつなぐ)
- スタッカート(短く切る)
- マルカート(ゴツゴツしたタッチ)
- アクセント(目立たせて)
6. アンサンブルのトレーニング
ここまでが「声づくり」に関わる発声練習でした。
このまま曲の練習に入っても構いませんが、その前にアンサンブルの基礎力を整える時間を少し挟むと、曲の仕上がりがぐっと良くなります。
発声が「個人の声づくり」だとすれば、このアンサンブル練習は 「声を合わせるための耳を鍛え、感覚を磨く」ステップです。
目的・効果
- 聴き合いながら音程・リズム・響きをそろえる力が身につく
- 様々なハーモニーを作る力がつく
- 曲の練習に入ったとき、合唱全体のまとまりが格段によくなる
- 自分の声だけでなく、周りの音を“聴く耳”が育つ
メニュー例
- カデンツ(和声の感覚を磨く)
- 階名唱(音の関係性・特性を理解し、音程の感覚を養う)
- カノン(聴き合うながらメロディーを歌う)
- 倍音を聴く(音程・音色を揃える=倍音を揃えること)
まとめ
最後に基礎練習の流れを振り返っておきます。
- 体のウォーミングアップ(体起こし)
- 筋力トレーニング
- 呼吸(ブレス)のトレーニング
- 声のウォーミングアップ(声起こし)
- 声のトレーニング
- アンサンブルのトレーニング
練習時間は限られていることが多いので、これらすべてを毎回行うのは現実的ではないでしょう。
必須なものとして、①や④のウォーミングアップ、③⑤の息・声のトレーニングは欠かさずに行うのが良いと思います。
その他については、合宿など、時間的な余裕がある時にトライしてみても良いと思います。




